第6話 Awakening

Rayからの話は_________


国民に対する政府の統制をどうにかして終わらせたい。

「ゲームの駒」のように国民に対して番号を付け、そしてその国民の「死」までも政府の権力によって握られているからだ。

過去の日本の民主主義を崩壊させた事に対し、それをもう一度国民の元に取り戻すんだ・・・という大義の元で行動を起こしたいのだという。

Rayの口からは、とにかく最初に出会った時からは、想像もつかないくらいの熱い思いがどんどんと溢れ出ていた。

その言葉には「怒り」、「憎しみ」、「苦しみ」、「悲しみ」、そして僅かな「希望」。

現代の人間がずっと忘れていた全てのものだった。

まだこんな人がこの世の中にはいるんだと、初めて言葉に出来ない気持ちで体が熱くなるのを感じた。


___実は、そんな私も以前からRayと同じような事を考えていた為、彼からの言葉を聞いた時は尚更驚きがあった。ただ一つだけ違うのは、私には感情はほとんどなく、ロボットのように動いていただけだったからだ____


_________


政府による国民に対しての能力査定、いわゆる「適正テスト」は、政府独自のAIを用いて行われているのが特徴であり、全ての国民が政府のその「適正テスト」を受けなければならない。

■適正テスト■

国民全員が13歳になったら受けなくてはならない「適正テスト」、その結果により仕事の振り分けや、その能力に応じた政府下での仕事が与えられる。

現代ではおおよそ70%がその政府下の仕事に就いており、残りの30%は「不可」として他の雑務を担っている。

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「適性テスト」を受ける事により、全国民は「AI」によって自動的に政府下で働ける人間かどうかを「可」か「不可」によって振り分けられるシステムになっている。

そこで「可」と認定された人間は、その能力を認められ、各々の適正能力によって政府の各分野や政府推奨の企業に振り分けられて仕事をする事になる為、自分で仕事を選ぶ事もなく、国の為に人生を捧げる事で、何も苦労なく人生を過ごしていけるというのである。

更に、「可」と認定された後は、余程の事がない限り「不可」に格下げとなる事もほとんどない。

ある意味不安のない生活だが・・・・私にとってはそれは無意味なものであった。

そう、それは政府に対し、死ぬまで”絶対服従”するという事を意味するからだ。

そして日本を支える大企業までもが政府の犬のようになってしまっているのが現状だ。

国民が受け取る給与等も、いったん政府の中枢銀行が各企業からネットワークを使って集め、国民ナンバーを基に各個人のマイクロチップを通して、月末に「ネットワークマネー」として各自に支給される形となっている。

全てのお金は「政府」という体を通って国民に排出される仕組みなのだ。

だからこそ、政府は個人資産、お金の流動、給与割り当て、罰則に対しての罰金の自動徴収とすべてがネットワークで出来るようになっており、全てにおいて国民を管理出来るシステムになっているのである。

そして国民に配られた「ネットワークマネー」は、各自のIDブレスとマイクロチップの通信により普通に日常生活を送る事で使う事が出来る。

簡単に言えば、全てのお店で扉を通過するだけで商品を外に持ち出せたり、家のパソコンから注文をするだけで買い物をする事を可能にしている。

今ではデリバリードローンが大活躍し、各家庭へは外までわざわざ買い物をしに行かなくてもなんでも届けてくれるのだ。

だから空には鳥よりも沢山のドローンで溢れている、という恐ろしい光景が広がっている。

更には、全ての国民のネットワークマネーの使用履歴は、トラッキングネットワークとして政府のネットワーク網に伝送される仕組みとなっている。

そう、すべての国民が「裏金」というものを作れない仕組みだ。

本当に大きな檻の中にいるだけ。そこで転がされているだけの人生。


逆に「適正テスト」に適合しなかった者達は、「不可」と認定され、世の中に出る「ゴミ」処理等の雑用的仕事を割り当てられる。

いわゆるAIでわざわざ処理する時間さえ無駄な業務や雑務を担う事になる。


しかし、私から言えば「不可」にならなければ、政府に対しての秘密裏な行動は本当に出来なくなるという事。

だからこそ私は、この「適正テスト」に備え、「不可」という烙印を得る為にあらゆる事を試行錯誤し、わざと「不可」になる為のスキルを見つけ出したのだ。

問題なのは、全てのテストが政府によって私達の首に埋め込まれたマイクロチップを通して行われる為、普通に不正を行い成績を下げるなんて事はかなり難しいという事。簡単であれば、わざと不正をする者が沢山現れるかもしれないからだ。

テストをただ間違えるだけでは、その「嘘」はすぐに「AI」によってバレてしまう。


__しかし、まるっきりその抜け道がないわけではない・・という事に、私はある時気が付いた。


「適正テスト」のプログラムの中にはほんの少しだけネットワークに「歪み」がある事を見つけ出した私は、自分に埋め込まれているマイクロチップを数十秒間だけ、「無効化」する手段を考え出した。

そこから更に次のステップへと進める為に、色んな実験を試みた。

それは、マイクロチップを無効化している数十秒の間に政府のネットワークの「歪み」を見つけ出しては更に内部へと侵入し、プログラムの改変操作を行い、テストの結果を不正に書き換えて送信するという試みを行った。

その結果、私は「不可」を手に入れる事が出来たのだ。


万が一、「適正テスト」の不正が政府にばれたら間違いなく「粛清」対象になり、最低でも「警告」を受ける事になる。運が悪ければ・・・・。


___失敗の出来ない最初の「政府AI」への戦い。


その後の日々はというと、政府の適正テストの「不可」を手に入れた私は、あらゆる政府のネットワークシステムを知る為に日々の時間を使って過ごしていた。


試行錯誤していてわかった事は・・・、政府のネットワークプログラムには至る所にその「歪み」があり、探せばもっとそのような綻びが見つけられるのではないかと感じた事だ。

「AI」も完全ではないと感じ始めた時から、毎日が政府の「AI」との戦いになった。

それから私はコンビニで働きながら自分の身を「不可」の中に隠し、家では自分に埋め込まれているマイクロチップの無効化のテストを何度も行い、その隙にその「歪み」を見つける事に日々時間を費やしていった。

しかしながら「政府AI」も馬鹿ではない。

見つけたと思った「歪み」が次に政府のネットワークに侵入した時には既に政府独自の「AI自動修復機能」によりその「歪み」が修復され、跡形も無くなっているなんて事も多々ある。

政府の「巡回AI」が常にネットワーク上のあらゆる問題点を探しては修正を行い、ネットワークプログラムを新しく更新し、セキュリティレベルを随時高めているからだ。その結果、周りからの侵入を阻止し、より鉄壁なものにしている。


まるで昔読んだ漫画、「トムとジェリー」の追っかけっこのようにキリがない。


が、それが私にはとてもやりがいがあった・・・。


だからこそ、私は「AI」より更に特別な能力を持つ事で、その鉄壁な「壁」に小さな亀裂を作り出し、奥深くへと入り込む抜け道を探していけるからだ。


__孤独な戦いの始まりだった___


自分の能力がもしかしたら特別かもしれない・・・と気付いたのが6歳頃の時だった。小さい時から平和に対する自我が目覚めた私は、自分の意志で色んな事を考えられるようになっていった。さらに7歳の時には色んなプログラムを自分で作り、自己能力がどんどんと高まっていくのを感じていた。

いつしか「政府チャンネル」でのお偉い人達の発信に疑問を持ち始め、8歳の時には日本を変える事を目標にしていた。他にも同じように考えている人達がいるのではないか?とは何度も思ったりもしたが、こんな話は表立って簡単に出来る事ではなかった。随分と大人びた子供だったのは言うまでもないが。










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