【怖い話】テレワークかと思った?

正確に言うと、おばけの怖い話じゃないのでもし見当違いだったらすみません。


大学の友達だったYちゃんが職場で体験した話です。


Yちゃんは大体週に2回程出社で残りはテレワークというリズムで働いているそうです。


一人暮らしの家から車で大体30分くらい通勤しないといけないのでテレワークという制度ができて本当に嬉しいと言っていました。


出社のときは混むのが嫌でいつも皆が出勤する1時間くらい前に駐車場に着くようにして、その時間なら駐車場はガラガラなのでなるべく歩かなくて済む建屋に近い側に停めていたそうです。


大体その時間に来る人はもう決まっていてなんとなく車と人が一致するくらいには覚えてしまっていたらしいです。


黒い高級車のおじさん、ファミリーカーの中年男性、通勤用の軽で来るシュッとした人、ミニのような小さくて可愛い車の女性。大体メンバーはこんな感じだと言っていました。そして到着時間も前後するけどYちゃんかミニの人が1番であとの3人はそのちょっと後か駐車場を歩いているときに到着してくると。


ただYちゃんはとっつきにくいというか人見知りというか仲良くなるととても打ち解けてくれる子なんですが、喋った事ない人や知らない人(特に男性)には冷たく思われてしまうくらい心を閉ざすタイプなのです。


なので出勤の時間が被るメンバーにも別に会釈や挨拶をするわけでもなく、目を合わせず一人ですたすたと歩いていくそうでした。






ある日、同じようにいつもの場所に車を停めて、建屋に向かおうとしたYちゃんは、どこからかねっとりとした陰湿な視線を感じたそうです。


周りを見回しても車が数台停まっているだけで人影は見当たりませんでした。


気のせいかと思い建屋に向かう道へ踵を返そうとすると、珍しい事に気が付いたのだと言いました。


その日は高級車、ファミリーカー、軽自動車がYちゃんよりも早く到着していたそうです。


まあそんな日もあるかと向き直りその日は普通に仕事を終えたそうです。


ただそれから何回も駐車場で嫌な視線を感じることがあってそういうときは大抵あの3台が停まっているというのです。


だからYちゃんはあの3人の誰かが自分の車の中から隠れて見てるんだと思いとても嫌な気分になったそうです。






またある日、Yちゃんが駐車場を歩いているといつもの通りねっとりとした嫌な視線を背中で感じたと言いました。

急いでばっと振り返るとその日は黒の高級車しか停まっていなかったらしく「今までずっと見てきてたのはあのおっさんだったのか、気持ち悪い。人事にコンプラで通報したいけど直接何かされたわけじゃないしな」と思いながら小走りで建屋に向かったそうです。


そして建屋に着きエレベーターに乗り込み閉のボタンを押すと扉が閉まる直前でがっと足を挟み込み乗ってきた人がいたと嫌そうに言いました。








それは車が停まってなかったはずの軽自動車のシュッとした人だったそうです。


あれ、この人車なかったのに、あとから停めたにしてはエレベーターまで来るの早いなと思ったそうです。


駐車場からエレベーターまでは大体10分くらい歩かないといけないので、Yちゃんの乗るエレベーターに間に合うには相当ダッシュが必要だと思うのですが、息切れ一つしていなかったそうです。


デスクがある7階までの間、箱の中には沈黙が密封されていました。


ずっと下を向いていたYちゃんは、唐突に「ねえ」と声を掛けられたそうです。


顔を上げると、シュッとした男性が満面の笑顔でこちらを見ていました。


「今日、俺の車なかったからさ、テレワークかと思ったでしょ?休みかと思ったでしょ?心配したでしょ?ちゃんと来てるから安心して?今まで君の出社のタイミング掴めなくて、後から来ちゃう事もあったけど、最近はちゃんと先に着くようにして見守ってたからさ。実はさ、君の家から会社までもっと早く来れる道があるんだよ。また付き合う事になったら教えてあげるけど。それで、君が家出たの確認して、俺は早い方の道で向かって先に着くようにしてたんだ。あ、今日はね、電車で来ただけだよ。一応駐車場の方行って君の事見てたけど。そうそう、連絡先なんだけど、いつでも聞いてくれていいからね?俺から聞くのは野暮かなって。一応既婚者だしね。いつでもいいから、待ってるよ」


男性は7階に着いて颯爽と降りていったそうです。

頭の中が真っ白になったYちゃんはエレベーターから降りることも忘れてそのまま1階に戻ったそうです。

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