第14話
私は天宮さんに背中を預け、二人で温泉につかっていた。先ほどは正直物凄く恥ずかしくドキドキしたが、不思議なことに嫌な気持ちは全くなかった。
天宮さんも落ち着いてきたようで、私と少しずつ言葉をかわしてくれるようになった。やはり一緒にお話していると楽しい。
言葉も尽き、そろそろ上がろうかなと声をかけようとした時、リクライニングを倒すような感覚で急にカクンと背中が後ろに少し倒れた。滑りそうになったがなんとかこらえられた。
「……今の、なんでしょう?」
「わ、わかりません。も、もしかして、また近づける距離が縮まったのかも……」
「……そうかもしれませんね。かなり急な動きでした。教会堂に帰ったらまた測ってみましょう」
「そ、そうですね。そ、それではそろそろ上がりましょうか。わ、わたしからさっ先に上がらせてもらいます。天宮さんはあっあとから上がってもらえるとたすかります……」
そう言って私は天宮さんの方は見ないようにしながら上がった。随分とのぼせてしまったかもしれない。
天宮さんと一緒にテントまで戻り、夕食を作ることにした。天宮さんが焚火の準備と火加減の調節を担当し、私は料理を担当した。野菜類は事前にカットした物を持ってきたので簡単に料理ができた。我ながら料理の腕があがってきたようだ。
今日は随分天宮さんとお話をしたので、話すネタが尽きてしまった。お互い無言だが、嫌な沈黙ではない。天宮さんも同じように感じていてくれてると嬉しいな。
夕食を終えた後は早めに睡眠をとることにした。満天の星空!この星空も教会堂のある街では見られないものだ。本当に、ここに連れてきてくれた天宮さんには感謝しかない。
誰かと一緒にこんなに楽しく過ごせるなんて、今まで考えたこともなかった。私は、天宮さんのことを特別に思っているのだろうか?天宮さんのことを考えると心が暖かくなる。私はもっと天宮さんに近づけるといいな、と思った。
――――
キャンプを終え教会堂に戻ってきたぼくたちは、早速その距離を測定した。
「10センチですね」
「ま、前は25センチでしたね。15センチも近づきました」
「結局、どうして近づくのかはよくわかりませんね……」
「も、もしかして一緒にお風呂に入ったのがよっ良かったのかも……」
「そ、それは……」
そう言われると天使様の姿を思い出してしまった。顔がすごく熱い。天使様の方を見ていられない。
「さ、さすがにそれは検証しようがないですね、ははは……」
「は、はい、いっ今はまだ恥ずかしいです……」
天使様はそう言いつつ席を立つとぼくの横に来て、ぐいっとぼくの顔を覗き込んだ。
「こ、これが、10センチの距離ですね、すごく近いです」
眼の前に真っ赤な天使様の顔があった。今まで感じられなかった吐息を感じられるようになった。なんだか良い香りも漂ってくる。曇っているはずの瞳に今は吸い込まれそうになる。そんなはずはないのに、温かさまで伝わってくるようだ。
「ち、近いです、天使様」
「あっ、すいません、つっつい確かめたくなって……」
あわてて天使様はぼくから離れた。さっきから顔が熱くなりっぱなしだ。心臓に悪い。
「よっ横もどれだけ近づけるか試してみたいです。そっソファーに一緒に座りましょう」
そう言って天使様はソファーに座ってこちらを見てくる。ぽんぽん、と天使様は隣の席を叩いて誘ってくる。正直まだ顔が熱く恥ずかしいが、ためらいつつもぼくは天使様の隣に普段通りに座った。
「こっこれが25センチの距離で……」
そう言うと天使様はジリジリとこちらに近寄ってきた。
「……これが10センチの距離」
囁くような天使様の声がきこえた。恥ずかしくて横を向けない。じっと太ももの上に乗せた自分の手を見つめる。
すっと横から天使様の手が伸び、ぼくの手に重ねられた。縦にも10センチの距離。天使様の手の重みが少し感じられる。心地よい、と感じてしまった。
「10センチだと、てっ手も重ねられちゃいますね」
そう言う天使様の声はどこか楽しげだった。ぼくは結局その日は横を向くことができなかった。
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