第12話
臨時ポータルを得たぼくらは、たびたびお昼を一緒にするようになった。どうやら昼間に屋外で一緒に居られるのがいたく気に入ったらしい。天使様のモチベーションアップにつながるのでぼくも嬉しい。ウィンウィンだ。
今日のお昼も一緒にとって、帰宅した後は天使様がソファーで雑誌を読んでいるのを眺めている。ソファーが来てからというもの、昼間ぼくがいない時も降臨されていることが多くなったようだ。随分とリラックスしているな……信用されているようなのでいいけど。
「天宮さん天宮さん」
雑誌から顔を上げて天使様は呼びかけてきた。
「はい、なんでしょう」
「そ、そろそろゴールデンウィークですが、何か予定はありますか?帰省とか」
「ああ、言ってませんでしたっけ。ぼくの帰る家はここだけです。孤児なので」
「えっ……そ、それは失礼なことを聞いてしまいました。申し訳ありません……」
「いいですよ、物心ついた頃からそうだったので、何も感じません」
少し嘘をついた。家族のいる人たちのことを考えると羨ましくなることがある。家族とはどういうものなのだろう。それを知りたい。
ぼくはこの教会の前に棄てられていたらしい。それをここの神父様が見つけ、そのまま引き取って育ててもらえた。神父様には感謝しかない。神父様は独身なので、ぼくを育てるには相当の苦労があっただろう。
家族のいる普通の人たちと違い、ぼくには神父様しか居なかった。普通の人たちには家族がいる、ということを知ったのは幼稚園の頃だろうか。
家族がいないことで、いじめられたことが何度かある。それをぼくは神父様に隠し通した。神父様は忙しく、あまり迷惑をかけるわけにはいかない、と考えていたからだ。
神父様は確かにぼくを愛し育ててくれたが、それはわが主への愛、信者への愛と同じ種類のものだと思う。家族への愛とは何かが決定的に違うのではないか、と成長するに従い思うようになった。
だから、未だに、家族への愛とはどういうものか知りたい、という気持ちがある。ただ、おそらく知ることはできないのだろうな、とも感じる。
「そんなわけで、ぼくはゴールデンウィークは予定がありません。お休みをいただけるとは思いますが、普通に教会で過ごそうと考えています」
「で、でしたら、一緒にキャンプに行きませんか?」
そう言って天使様は雑誌をぼくに見せてきた。「全国キャンプ場ガイドマップ」と書いてある。
「わ、わたしひとりだと、電車に乗れないのでいっ行けないのですが、天宮さんにりっ臨時ポータルを使って貰えば行けるかなぁと思いまして」
「ああ、なるほど。ぼくが先行して電車と徒歩でキャンプ場まで行って、そこで臨時ポータルを使うわけですね」
「は、はい、そういうことです。でっでも、合流するのはキャンプ場ではなく駅で、一緒にとっ徒歩でキャンプ場まで行きたいです」
「何故ですか?キャンプ場で良くないですか?」
「い、一緒にピクニック気分であっ歩くのもキャンプの醍醐味ですよ!そっそういうのも含めて楽しみたいのです!」
今日も天使様はぐいぐい来る。何か楽しそうだからいいか。
「そういうものですか。わかりました、ぼくはかまいませんよ」
「ふひひ…では、早速キャンプ用品を選んで通販で買いましょう。二人用テント、寝袋、それにあと……」
うきうき気分で天使様はキャンプ用品を調べはじめた。ぼくもなんだかんだで楽しみになってきた。キャンプ用品の相談は深夜まで続いた。
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