第10話

 数日後、ソファーは無事届き、居間に据え付けられた。


「い、いいですね、いいですね!早速座ってみましょう!」


 ぼくと天使様は横に並び、ソファーに座った。距離をきちんと測定していたので、問題なく座れる。むしろ少し余裕があるくらいだ。


 と、天使様はじり、じり、と少しだけこちらに寄ってくる。反発力を側面で感じる。


「もう少し離れても良いのでは」


「こ、このくらいが丁度よいんですよ」


「はぁ」


 天使様が良くてもぼくが良いとは限らない。これまでより近い距離の天使様に、また顔が熱くなる思いだ。うっかり横を向けない。


「じゅ、準備は整いました!そ、それではさっ早速映画を見てみましょう!」


 そう言って天使様はどこからかブルーレイディスクを取り出した。通販で一緒に買ったのだろうか。なんだか良くわからないが、ホラー映画らしい。意外だ。悪霊退治とかするし、こういうのが好みなのかもしれない。





「ぎゃーーーーーー!!!こわいこわいこわいこわいやだやだやだやだこわいこわいこわいたすけて!!!!!!!」


「落ち着いて!落ち着いてください天使様!聞いてますか天使様!」


 全然大丈夫じゃなかった。


 天使様は全身でこちらに抱きつこうとしてくる。ギュッと圧迫感が全身を襲い、これまでの最接近記録を更新する勢いだ。足もばたばたさせている。全体重で拘束され、リモコンに手を伸ばすことができない。


「落ち着いてください天使様!足が!足が!スカートですよ!ぱんつみえますよ!!!」


「こわいこわいこわいこわい!しぬしぬしぬしぬ!!!」


「全然聞いてないなおい!」


 嵐のような時間が過ぎ、なんとかぼくらは映画を見終えた。二人で呆然としている。見た、と言っていいのだろうかこれは。


「……ふぅ……お、お見苦しいところを見せましてすいません……」


「ホラーは今後禁止にしましょう」


「はい……」


 呆然とした時間は終わり、そのままふたりでソファーに座ったままダラダラとした時間を過ごしている。ソファーの座り心地はかなり良く、買って良かったと思えるものだ。


「そ、それにしても、このソファー、す、座り心地がいいですね……ゆ、夢見心地です……」


「そうですね。いい買い物でした」 


「ふぅ……寝ちゃいそう……ふ、ふひ、なんて冒涜的……悪霊になっちゃいそうです……」


「冒涜的って。くれぐれも悪霊にならないでくださいよ」


「こ、このダラダラが無限に続くと危ないかもしれません……む、無職の危機が……」


 ここで天使様を寝かせるのは危ない。ぼくが注意せねば。そう決心した日だった。

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