第4話

「さて、次は天使様用のお部屋を案内しますね」


「あっ、そんなものもあるのですね、ご丁寧にどうも」


 そういうと天使様はまたペコリと頭を下げた。


「あまり物はありませんが……こちらです」


 そう言ってぼくは天使様を隣の部屋へと案内した。天使様がちょこちょことついてくる。


 天使様用の部屋はかなり簡素な作りだ。物書きをするための机と椅子、ちょっとした収納、そしてベッドだ。ベッドは天使様がお疲れの時に仮眠できるように用意したが、前の天使様はほとんど使ってなかったようだ。


「ふむむ……結構良い部屋ですね……」


「そう言って頂けるとありがたいです。この部屋は天使様が降臨している間は自由に使って頂いてかまいません」


「あ、ありがとうございます」


 そう言うと、天使様は座り心地を確かめるように椅子に座った。体重が軽いのか、ほとんど無音で座った。


「あ……結構くつろげる……」


「はい、後ろのベッドも仮眠などで使って頂いてかまいません」


「ご、ご丁寧にどうも」


 そう言うと天使様はまたペコリと頭を下げた。


「そうだ、ぼくとの連絡用にスマホも渡しておきますね」


「えっ」


 ぼくは収納からスマホを取り出し、操作を始めた。


「前の天使様も使っていたものです。ぼくは平日の昼間は高校があるので、これで連絡を取りあいましょう。端末は……一度全部初期化して新しくアカウントを作ったほうがいいな」


 端末を初期化し、セットアップを行ったぼくは、天使様にパスワードやPINを設定してもらい、新しく天使様用の通話アプリのアカウントを作成した。


「どうぞ。天界には持っていけないと思うので、この部屋の収納に入れておいてください」


「な、なにからなにまでありがとうございます……ふむ……」


 天使様は早速スマホを片手で素早く操作した。ぶるり、とぼくのスマホに通知が届く。


『……こんにちは(ぺこり』

『よろしくお願いします』


 デジタルネイティブだ。ぼくもだけど。


「この部屋はこんなものですね。後はトイレとお風呂に案内します」


「お、お風呂もあるんですね。快適そうですごいです、えへへ……」


 部屋の向かいのトイレのお風呂へ天使様を案内した。天使様がまたちょこちょことついてくる。


「こちらがトイレ、こちらがお風呂ですね。シャワーはいつでも使えます」


「あ、ありがたいです。よく瘴気集めで汚れるので助かります……」


瘴気集めゴミ拾いで汚れるんだ……どうやって集めているんだろうか……


「部屋の案内はこのくらいですね。では、最後にこれからの仕事の計画を立てましょう」


「計画……ふむ……」


 そう言ってぼくらは居間に戻った。


「まず、お互いはじめてですので、無理せずできることからやりませんか?天使様は瘴気集めが得意、とのことでしたので、まずは明日から瘴気集めをするのはどうでしょうか。もちろん、ぼくも一緒に手伝います」


「は、はい、異論はありません。先ほども言ったように、私は飛べないので、一緒に歩いて集めてもらえると……じ、時間は、早朝からでよいでしょうか……」


「そうですね、学校に行く前だとぼくも助かります」


 早速明日から仕事になるな。ぼくも天使様と一緒に集めるのははじめてなので頑張らないと。


「あ、あと、地域の巡回はどうしましょうか。わ、わたし、飛べないしあまり力がなくて悪霊に対抗できなさそうで……」


「そうですね……うーん……」


 悪霊とは、天使様のうち、人間に害を為すものの総称だ。害を為す、と言ってもピンキリで、この地区ではせいぜい不審者が居るな、程度のものが多い。だいたい無職で昼間からくだを巻いている。


「とりあえず今週はやめておきましょう。うっかり出会っても対処できないことが多そうですし。もし見つけたら天界にヘルプを頼む、というとこで」


「そ、そうですね。慣れてから……慣れてから……」


「あ、でも、そろそろ花見シーズンなので、めんどくさい悪霊酔っ払いも出てくると思います。なので、早めに慣れるようにしたいですね」


「ふ、ふひ……」


 先行きに不安はあるが、まずはこんなものだろう。計画がたっただけでも良しとしよう。


「あと、ひ、昼間なんですが、天宮さんの本を借りて読んでもいいでしょうか?」


「もちろんいいですよ、ご自由にどうぞ」


 よっぽど読んでみたいんだな……まぁしばらくは昼間は外出しにくいだろうからいいだろう。


「あ、ありがとうございます、えへへ……」


 ふにゃりと笑ったその笑顔はやはり可愛らしくほっこりした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る