第5話 【悲報】謎肉fromガンジス川【料理長健在】
あれはワイがまだ頑張れば気円斬くらいは撃てるようになれると考えていた頃、父親に連れられて訪れたガンジス川には文字通りこの世の全てがあった。生きとし生けるもの、死んじゃったもの、その燃えカス、排泄物、肉や魚、野菜に果物、7up、犬、猫、インドゾウ、牛のうんこ、得体の知れない病原菌、ヨガ、そしてこの宇宙の真理、それとバナナ——あらゆるものが上流から流れてきて、インド洋へと流れていった。目を瞑るとその光景が瞼の裏に3840*2160*2のデュアル4Kで浮かび上がる。なぜならまさしくその時に嗅いだあの香しい匂いが、目の前の夕飯から漂っているからである。
「馬鹿な……」
料理長は死んだはずだ。病院という巨大な組織の陰謀によって……自殺して全てを不問とされるか、一族郎党根絶やしにされるかの選択を迫られ、ロンメル死したはず……。
だから、今夜の食事は真っ当な、我々のような
「まさか——」
ワイの脳裏にある言葉がよぎった。
「『死後強まる念』……か」
そうなってくると、一筋縄ではいかない。ワイは恐る恐る箸を持ち上げ、茶色の塊をつくじる(※南九州の方言で、ほじくり回すの意)。挽肉を何らかの呪いで押し固めたであろうその塊は、いとも簡単にボロボロと崩れた。
「分霊箱か……! いや、違うか!」
世界観が違うようだ! その破片の一つを鼻に近づける。
「うっ……!」
思わず腕を伸ばし、箸を遠ざけた。視界がぼやける。なんてひどい匂いだ。恐ろしい……! ここまで強力な念があるとは……!
「変化系……いや、料理長は気まぐれで嘘つきじゃなかった! これはきっと特質系に違いない」
ワイは静かに箸を置いた。除念が必要だ。それも、強力な除念が! 病院食は配膳時に全ての器に衛生のため蓋がされている。ワイは茶色の物体が載った皿に当初被さっていたプラスチックの蓋を手に取った。
「魑魅魍魎にも劣る茶色の肉塊、並びにその傍に添えられし茶緑のアスパラガスっぽいヘドロ化したドロンドロンの謎物体を二度と世界に輪廻転生させぬように、ここに祈願するゥ〜! 地獄道へ落としたまえ〜、カーッ!! 除念ッ!!! カァーーーーッ!!!」
蓋を閉める。よし、これで危機は去った。
「いただきます」
ワイは味のしないキャベツの胡麻和えを口に運んだ。
白飯には、朝食の時に出てきてこういう時のために取っておいた海苔の佃煮をかけて食べた。味噌汁は例によって相撲部屋の弟子たちが入った後の風呂の残り湯みたいな味だ。
「ごっつあんです……」
食べ終わり、鏡の前で歯を磨いていたら肩に禍々しい造形の念獣が乗っているのに気づいた。
「除念の副産物か……」
どこか岩橋に似ている……しばらくはこいつと暮らさないといけないようだ。
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