第10話 俺ってひょっとして……

――ホルビン山の中腹。


「地図を見た感じ、そろそろテリトリーじゃな。どれ、ワイバンの位置を魔法で確認してみるかの。ミニエル」


「は、はい」


ガトラー爺さんとミニエルが魔法を詠唱する。ワイバンの位置を特定する為の魔法だそうだが、かなり魔力の消費が多いらしく、爺さん一人では発動させられない為二人係だ。


「ふむ、居場所は山頂付近に二匹じゃな。動きがないので、相手はまだこちらに気付いてはおらんようじゃ」


「分かりました。じゃあ行ってきますので、待っててください」


ここから先は俺一人で行く。ワイバンは討伐難度Bの魔物なので、Dランク冒険者の二人が付いて来ても足手纏いになる可能性が高いからだ。


あ、因みに、俺が最初に出会って逃げ出した一つ目の巨人の討伐何度はAだったりする。なのでワイバンはその一つしたって事だ。


え? それだと滅茶苦茶強敵なんじゃないか?


それなら大丈夫。ワイバンのBランクは空を飛べる厄介さからくるものであるため、単純な強さだけならもうワンランク下がるからだ。俺も大分逞しくなったし、流石に2ランク下の相手位になら勝てるはず。


ま、もちろん、空を飛ぶワイバンに攻撃を当てられれば、の話ではあるが。


『当たらなければどうという事はない』を相手にやられてしまったら、流石にお手上げである。その場合、討伐は諦めてとんずらさせて貰う。ま、しょうがないよな。


「パワーさん。気を付けてくださいね」


「大丈夫ですよ。逃げ足には自信があるんで、やばそうになったら即逃げますから」


ミニエルの言葉に俺は笑顔でそう答えた。まあ時間停止もあるので、逃げるだけなら楽勝だろう。


二人と別れ、俺は山を登っていく。山頂付近に近づくにつれ急斜面に変わり足場が悪くなって行くが、鍛えられた今の俺の足腰ならこれぐらいどうって事はない。今の俺にとっては、きつい急勾配さえも散歩道である。


フィジカル最高!


「あれがワイバンか……」


ある程度昇った所で、上の方から咆哮が響いて来た。目を凝らしてそっちを見ていると、黒い影が二つ上空に飛び上がるのが見えた。羽の生えたまんま飛竜って感じのシルエット。間違いなくワイバンだろう。これで違ったら逆にびっくりだ。


「ふむ……」


ワイバン達は俺の頭上で旋回し、その場から球状のブレスを俺に飛ばして来る。取り敢えず一発腕で受けてみたが、特にダメージは感じない。遠距離のブレスが特段弱いとかでもない限り、こいつらは俺の敵じゃないだろう。


「まあ攻撃さえ当たれば楽勝だな。しかし……」


そのままずっとブレス攻撃が続く。しばらく攻撃を受け続けるが、こちらに向かって降下してくる気配は一切ない。徹底したアウトレンジ戦だ。


「寄って来ねぇな。まあ向こうから降下して来てくれるなら、討伐難度はBに上がってないか。やっぱ投げて当てるしかないな。でもまあ思った程速くないし……これなら別に時間を止めなくても行けそうな気がする」


時間停止は無しでも行けそう。そう判断した俺は、インベントリに収納しておいた槍を取り出し、そして大きく仰け反る形で構えてゆっくり狙いをすます。もちろんその間も上空からの攻撃は続いているが、痛くもかゆくもないので無視だ。


「おりゃあ!!」


ここだ! というタイミングで槍を上空めがけてぶん投げる。そしてそれは狙い通りワイバンの頭部に突き刺さった。と言うかぶち抜いた。その衝撃でワイバンの頭は粉々に吹き飛び、投げた槍が遥か彼方へと飛んでいく。


「防御力も豆腐だな」


ワイバンの一体がそのまま地面に落ちて来る。


「じゃあ次は――って、逃げるつもりかよ」


もう一本槍を取り出しもう一匹に狙いを定めようとしたら、もう一体が思いっきり逃げ出してしまう。


攻撃が全然効いてない上に、番がやられてこりゃ駄目だってなったんだろう。その判断は正しい物だ。だが、残念ながら俺にはチートがある。


そう、神から与えられたチートが。


「時間停止!!」


俺は咄嗟に時間停止を発動させた。その瞬間、世界の時間の流れが止まり、逃げ出そうとしていたワイバンの姿が空中で固定される。


「相手が悪かったな!」


狙いをすまして二投目を放つ。それは動きの止まっているワイバンの胴体を突きやぶり、再び視界の遥か先に飛んでいった。回収はまあ……無理だな。どこに飛んで行ったのかわからん。


「まあとにかく、これで依頼完了だ」


ぶっちゃけ楽勝だった。まあワイバンが大した魔物じゃなかったのもあるだろうが……


「今の俺って……たぶん滅茶苦茶強いよな?」


やり投げの訓練辺りから薄々感じていた事だが、俺の強さは明らかに想像を超えたレベルに達している気がする。


「投げた槍が空の彼方に飛んでってるし……」


あそこまで飛ぶと、もはや強肩ってレベルではない。槍投げの世界記録をぶっちぎってるレベルの飛距離である。単にマッチョになっただけでは説明がつかない。


「ひょっとしてあの洞窟って、凄い訓練効果があったのかも」


考えられる原因はアレだ。説明されていなかったが、そうでも無ければ説明がつかない。


「うん、そうに違いない。ゴッドナイトの身分も言われてなかったし、たぶん説明漏れなんだろう」


もし最初に巨人に出会ってなかったら、俺はあそこを無視して進んでいた可能性が高い。そうなっていたら今も弱いままだったろう。


「困った神様だな。ま、死体回収して戻るか」


俺はワイバンの落下地点にある死体をインベントリで回収し、ガトラー爺さん達を待たせている場所へと戻った。

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