第二章⑦

 ハードカバー本を手みやげに教室へ戻った俺の背中をシャーペンの先がつついた。

「どう、サイト出来た?」

 ハルヒが難しい顔をして机にかじりついていた。破ったノートに何やらせっせとペン先を走らせている。俺は出来るだけクラスの注目を浴びないようなさりげなさをよそおって、

「出来たには出来たが、見に来た奴がおこりそうな何もないサイトだぞ」

「今はまだそれでもいいのよ。メールアドレスさえあればオッケー」

 じゃあけいたいメールでもじゆうぶんじゃないか。

「それはダメ。メールがさつとうすると困る」

 何をどうすれば登録したばかりのアドレスにメールが殺到するんだ?

ないしよ

 そしてまたいやぁな感じの笑い。不気味だ。

「放課後になったらわかるわよ。それまでごく

 永遠に極秘にしておいて欲しい。


 次の六時間目、ハルヒの姿は教室になかった。おとなしく帰っていてくれればいいのだが、まずあり得まい。悪事の前段階。



 その放課後である。自分のやってることに疑念を覚えつつ、つい部室へと足を向けてしまうのは何故なぜだろうとけいじよう学的な考察を働かせながら俺は文芸部室へとやって来た。

「ちわー」

 やっぱりいる長門有希と、両手をそろえてに座っている朝比奈みくるさん。

 人のことは言えないが、よっぽどヒマなのか、この二人は。

 俺が入っていくと朝比奈さんはあからさまにホッとした表情になってしやくした。長門と二人で密室にいたら、そりゃつかれるわな。

 つーか、あなた、あんな目にあいながらよく今日も来ましたね。

「涼宮さんは?」

「さあ、六限にはすでにいませんでしたけどね。またどこかで機材をごうだつしてるんじゃないですか」

「あたし、また昨日みたいなことしないといけないんでしょうか……」

 額に縦線をかべてうつむく朝比奈さんに、俺はせいいつぱいあいの良さで、

だいじようです。今度あいつが無理矢理朝比奈さんにあんなことしようとしたら、俺が全力でします。自分の身体からだでやりゃいいんですよ。涼宮なら楽勝です」

「ありがとう」

 ペコリと頭を下げるはにかんだ微笑ほほえみのあまりの可愛かわいさに思わず朝比奈さんをきしめたくなった。しないけどね。

「お願いします」

「お願いされましょう」

 たいばんを押したのはいいが、俺のそんな約束がじようの空論、砂上のろうかく、太陽内部の水素原子のようにほうかいするまでに五分とかからなかった。ダメ人間だ、俺。

「やっほー」

 とか言いながらハルヒ登場。両手にげているでかいかみぶくろが俺の目を引いた。

「ちょっと手間取っちゃって、ごめんごめん」

 じようげん時のハルヒは必ず他人のめいわくになりそうなことを考えていると見てちがいない。

 ハルヒは紙袋をゆかに置くと後ろ手でドアのかぎをかけた。その音に反射的にビクンとなる朝比奈さん。

「今度は何をする気なんだ、涼宮。言っとくが押し込みごうとうのマネだけはかんべんな。あときようはくも」

「何言ってんの? そんなことするわけないじゃないの」

 では机にっているパソコンは何だ。

へいに寄付してくれたものよ。そんなことより、ほら、これご覧なさい」

 紙袋の一つからハルヒの取り出したのは、何やら手書き文字が印刷されたA4のわらばんである。

「わがSOS団の名を知らしめようと思って作ったチラシ。印刷室にしのび込んで二百枚ほど刷ってきたわ」

 ハルヒは俺たちにチラシを配った。授業をサボってそんなことをしてたのか。よく見つからなかったもんだ。別段見たくもなかったが俺はとりあえず受け取ったそれに目を通す。


『SOS団結団にともなう所信表明。

 わがSOS団はこの世の不思議を広くしゆうしています。過去に不思議な経験をしたことのある人、今現在とても不思議な現象やなぞに直面している人、遠からず不思議な体験をする予定の人、そうゆう人がいたら我々に相談するとよいです。たちどころに解決に導きます。確実です。ただしつうの不思議さではダメです。我々がおどろくまでに不思議なコトじゃないといけません。注意して下さい。メールアドレスは……』


 この団の存在意義がだんだんわかってきた。どうあってもハルヒはSFだかファンタジーだかホラーだかの物語世界にひたってみたいらしい。

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