個人投資家には見捨てられた……

(姉さん……)


 俺が見かけたのは、玄関前で座り込んでいる姉。


 姉さんもこちらに気が付いたようで目が合う。


「姉さん、また鍵忘れたのか?」

「まあね」


 姉さんは悪びれる様子もなく答える。


「2ヶ月くらい前も忘れてたよな」

「うん。だから泊めて」

「学習しろよ!」


 これが初めてのことであれば、何も思うところがないのだが。


「いいでしょ、減るもんでもないし」

「それはそうだが……」

「一緒にお風呂入るって条件なら良いかな〜?」

「どうしてそうなる!」

「子供の頃は一緒に入ったでしょ」


(やっぱり酔ってるな)


 酒臭いわけでは無いが、やはり酔っているらしい。

 顔が赤かったから、そうかなとは思っていたが。


 酔っぱらいには冷静に、言い切るように言うのが一番。


「子供の頃の話だろ。そんなことしなくても、一晩くらいなら泊めるか――」


 言い終わりかけたところで、姉さんが倒れた。

 正確に言えば、姉さんが俺に倒れてきた。

 倒れてきた姉さんは今、寝息を立てている。


(立ったまま寝るな!)


 どれだけ寝不足なのだろうか。

 心配だが、今は起こさなければならない。


「起きろ!」

「あと十分……」

「朝じゃないからな!」

「お姫様だっこで運んでぇ」

「…………」


 俺は、こんな様子の姉の相手を、何とか最後までやり遂げ、姉さん自身の足で室内へと向かわせることができた。

 酔っぱらいかつ、寝ぼけている姉さんの相手はなかなか大変だった。


(この前も、似たような感じだった気が……。もしや……)


 鍵を置き忘れてなどいなくて、ただ家に帰るのが面倒なだけなのでは、という可能性が浮かんだ。


(ひ、否定できねぇ)



 ◆



(あれって……)


 部活を終えた私は、家へと向かっていた。

 普段と変わらない風景の住宅街でたまたま見かけたのは、私の真正面にいる、二人の人影。


 一人は友達。もう一人は……


 二人は玄関前で何やら話しているようだ。

 それもなにやら親しげに……


 今日の放課後のことが思い起こされる。

 嫌でも感じてしまう。あのときの感じ。

 私は、あの感情を感じながら二人の様子を見ていた。




(だ、抱きついてない!?)


 私の頭の中は大混乱していた。

 それもそのはずあの二人が抱きついていたのだ。

 好きな人が誰かと抱きついている姿を見て、混乱しない人などいないだろう。


(というか……悠一ゆういちと抱きしめ合っているあの人、悠一の彼女さんだよね……)


 彼女でないと思いたい。

 だが、あの距離感でカップルでないと主張するのは無理がある。

 慣れてそうなあの感じも、普段からラブラブだと思わせる。


 あの人の顔が赤くなっているのが分かった。

 それに、彼女は目を閉じて、なんとも幸せそうな表情をしていた。


 そんな彼女を前に悠一はどんな表情をしているのだろう。




 私は、思わず足を止めてしまっていたという事実に気が付き、歩き始める。


 早くこの場を離れたいと思うのに、足取りは重い。


(やっぱり悠一、彼女いたんだ……)


 もしかしたらとは思っていたが、実際に見てしまうと辛い。


(プレゼントをくれて浮かれてたけど、あのプレゼントは……)


 私は、彼のセンスの良さを知った気でいたけれど……


(もしかして、デートのついでだったのかな……)


 悠一に彼女がいると判明したことで合点がいった。




 私はそんな、想像してもきりがないことをずっと考えていた。

 翌日、心のなかで叫ぶことになるとは知らずに。


 その内容は、もちろん「どう接したらいいのか」というもの。



 ◇



(もしや、避けられてる……?)


 俺がそう感じるのは二回目だ。

 数日前のあの日以来、関係が元通りになっているのではないかと思っていたが……


 避けられているといっても、あのときみたいに、丸一日話さないわけでもないし、メッセージでのやりとりも続いている。


 前回とは違う。

 だが、避けられている気がする。


 話すときに少し距離を感じたり、一回あたりの会話時間が少なくなったり。

 メッセージでいえば、一言で返されることが多くなった。一ターンで終わってしまうから、確実にメッセージの回数も減っている。

 ――夜、返信できなかったというのもあるが。姉さんの相手に疲れて熟睡していたし



 あからさまに避けられているわけでは無い。

 だからこそ、何が原因なのか――


 誕生日の件みたいに、無意識的に、俺は何かをしてしまったのではないか。

 そんな、考えてもきりがないことをずっと考えていた。


 本当に避けられているのかも定かではないのだが。

 勘違いと言われてしまえばそれまでだ。



 ◆



「お願いがあるんだけど」


 私は、美沙みさにある作戦を実行してもらうように頼む。

 それにあたって、私はまず、簡単な経緯を伝える。



 昨日、私が知ってしまった衝撃の事実から始めて、悠一とどう接すればいいのかわからずにいたこと。

 今朝も悠一が話しかけてくれたこと。

 どうすればいいか分からず、素っ気なく返してしまったこと。


 私は、悠一との適切な距離感が分からなかったことも話した。

 今まで通りでいいのか。

 それで悠一の彼女は納得するのか。

 そして、この選択が私自身が納得できるのか――



 そんな私の感情まで、美沙に伝えた。




 一通り、事情を話すと彼女はあっさり承諾してくれた。


 美沙は「本当に私たちで良いのか」尋ねてきたが、私の決意は変わらなかった。



 全ては真偽を確かめるためだと割り切って――






──────────

4話では、悠一に彼女がいると勘違いした花菜が距離をとり、悠一はまた避け見捨てられたと思い始めます。


次話では、ある作戦が実行され……

完結まで毎日投稿していきます!

(※)今日は8:00に投稿できましたが、明日と明後日は、投稿時間が遅くなる可能性が高いです



話は変わりますが、ここにきて、このスペースのルビに無理があると思い始めました(今更)

当初決めたタイトルから変えたくなかったので、今まで以上に無理やりです

作者からは 避ける=見捨てる ではないとだけ言っておきます!

──────────


(次話『空前の好景気で〝ほぼ〟全面高』)

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