子猫戦隊キャトレンジャー

緋野 真人

平穏乱す轟音~出動!、キャトレンジャー!!~

 ほのかな日差しが射す、大きな窓辺で、誰かが眠っている。


「ふぁあああっ……」


 目が覚めて、ゆっくりと起きた彼は、大きなあくびをして、身体を震わせながら、大きく"伸び"をする。


 続けて、頭もブルブルと震わせ、額を走ったかゆみを気にし、鋭いツメでクイッと掻いてみせた。



 彼の名前はシロ――人間が言うところの"猫"という生き物である。


 シロが、この世界に生を享けてから、人間の暦で6ヶ月――青年期を迎えようとしている時期だ。



「ふぁぁぁぁっ……シロちゃんも、起きたの?」


 シロに声をかけたのは、同じ母親のお腹から、同じ日に産み落とされた妹のミケ。



 この作品の主役は猫――だから、半ば擬人化して表現している事はご容赦を願いたい。



「お前も起きたのか。


 今日は……ポカポカしてて、気持ち――ふぁぁ、良いなぁ……」


 シロは、またもあくびをしながら、面倒そうに返事をする。



「――けっ!、のん気な連中だぜっ!」


 もう一匹の兄弟――クロが、呆れたように話に割って入る。


「オレは、"じゃらし"を相手に一汗流してたぜ!


 いつ、"ヤツ"が、また動き出すか解らないんだからな!?」



 クロが言う――"ヤツ"とは、彼らの平和な生活を乱す、さる敵の事を指している。


 彼らは――いわゆる"飼い猫"。


 この家の中に居る分には、生命を脅かされる様な、天敵めいた存在は皆無のはずだが、とにかく、彼ら3兄妹には許す事が出来ない、戦わなければならない"敵"――脅威があるのだ。



「もう、6日『も』、動いてないんだから、大丈夫なんじゃないの?」


「これだから女は――"7日目"が一番ヤバイ事、気付かないのかよ?」


 猫の体内時計は、人間とは感覚が大きく異なると言われている――6日と言えば、彼らにとっては、緊張も緩んでしまうような長期間なのだろう。



 ――ウィィィィンッ!



 その時――家の中の少し離れた場所から、何か音が響いた!



「!」


 それを聞いた彼らの表情は一変した!



「おい――これって!」


「ああ!、"ヤツ"だ!」


 色めきだった彼らは、大急ぎで、音が聞こえる部屋へと走り出した。





 ――ウィィィィンッ~ン!


 彼らが向っている部屋では、モーター音が猛々しく鳴り響いていた。


 その音を放っているのは、昨今流行はやりの、『吸引力が落ちない』と評判なサイクロン式掃除機だ。



「~♪~♪♪」


 ――と、鼻歌混じりで掃除に勤しんでいるのが、彼らの飼い主である。


(あの仔たちが気付いていない内に、サッサと済ませないと……)


 飼い主は、部屋の掃除を早く終えようと急いでいた。


 急いでいる理由には――どうも、子猫かれらの存在が、関係している様である。



 ――ダダダダダッ!!!!



(!、この、フローリングを掻き毟る様な足音は!)


 そう思って、飼い主が振り返ると、そこには……


「――ニィアァァァッ!」


「フー!、フー!」


「ウゥゥゥゥゥ……ッ!」


 ――例の3兄妹が、唸り声を上げて構えていた。



 ※ここからは、3兄妹が抱いているであろうイメージから、想像して構成しています――微笑ましくご覧ください。



 猛スピードで、3匹が現場に到着すると、案の定"ヤツ"が動き出していた!



「やっぱりお前か!、掃除機ソージキ!」


ウィィィィンッ!はっはっはっ!、全部!、吸い込んでやるぜぇ~~!



「いくぞ!、クロ!、ミケ!」


「おう!」


「うん!」


 彼らは、一斉にジャンプし、ベッドへと飛んだ!



 ベッドの上に立った3匹は――鋭い眼光で、ソージキと対峙する。


 そして、ソージキの咆哮に負けじと……


「――ウゥゥゥゥッ!」


 ――と、唸り声を上げ、3匹が絶妙なポジションに配置して、ソージキを見下ろしている。



 3匹は、ソージキに向けて身体を沈めて低く構える。


 その姿は、まるで……


ニャァァァァッッ家の中の平和を守る!、子猫戦隊――シャァァァッキャトレンジャー!」


 ――と、見得を切り、名乗りを挙げているような構図である!



「ああ~……来ちゃったよ。


 またなの?!、あなたたちは!」


 飼い主は、呆れた様で彼らを叱る。



「――くっ!、ご主人は……また、ヤツに"操られている"のかっ!」


 シロは、悔しそうに、苦虫を噛んだ様な表情を見せる。



「俺たちが、ヤツを止めれば――また、可愛がってくれるさ!、そうだろう?」


 ソージキを見据えながら、クロは冷静に状況を分析していた。


「きっとそうよ!、そのためにも――」


 ミケが同意を促し、四肢に力を込める。


「ああ!、いくぞぉっ!」


 3匹は一斉に散り、ソージキを包囲した。


 ノズルや、ホースに、何度も"ネコパンチ"を放つが、ソージキは一切止まる気配を見せない。


「――ウィィィィッンはははは!、効かぬ!、効かぬぞ!、キャトレンジャー!)」


 止まるどころか――ソージキの出力は、"強"へと替わった!



 掃除を始めると、一種の定番イベントに成っている、この光景を――飼い主の方も、彼らを叱ってはいるが、実は結構楽しんでいる。


 飼い主は、少しからかってやろうと、狭い場所用のアタッチメントを取り出して、ノズルを交換した。



「――!、来るぞ!」


 彼らは、ソージキの"この形態"の恐ろしさを知っていた!



 それから逃げようと、散り散りになろうとするが……


「――いやっ!、来ないで!」


 ソージキ飼い主の、ターゲットサイトにロックオンされてしまったたミケは、恐怖心からか、ワンテンポ逃げ遅れてしまった!



 ――シュオォォォッ!



「――きゃあぁぁぁぁっ!」


 背中の毛を吸い込まれたミケは、悲鳴を上げ、その何とも言えない感覚に脱力する。


「よくもミケを!!!!!」


 残りの2匹は、必死の思いでノズルに立ち向かい、ネコパンチを連発する!


「ミケ!、ミケ!」



 ミケを助けようとする、二匹の勇敢な姿に飼い主は……


「あ~!、わかった!、もうやめるから!」


 ――と、スイッチを切った。


 動きが止まったソージキを警戒しながら、ノズルの残虐な(?)行為から解き放たれたミケの毛を、二匹は丁寧に舐めてやった。


「大丈夫か?!」


「うっ、うん……ありがとう」


 2匹の気遣いをありがたく思いながら、ミケはお返しの毛舐めを二匹にしてやった。



「――あなたたち」


 別の部屋から、ゆったりとした歩様で、母猫のトラがやって来た。


「――母さん!」


 3匹は、トラに頬ずりしながら……


「母さん、俺たち――また勝ったよ!、あのソージキに!」


「あら、そう……頑張ったわね」


 トラは、1匹ずつ顔を舐めてあげて、彼らの労をねぎらう。


「じゃあ、疲れたでしょう?、良い天気だし、もう一眠りしなさい」


「うん!」


 彼らは、気持ちが良い陽だまりがある、先程の大きな窓辺へと戻って行った。



 彼らが部屋から出た後、トラはソージキの姿を見つめる。


「慣れるまでは……どうしても怖いのよね、あの音って」


 トラは、ノズルの部分のニオイを嗅ぎ――


「あの仔たちも、もうすぐ解ると思うから、それまでは付き合ってあげてくださいね?、ソージキさん」


 ――とでも言っている様な、穏やかな表情を見せた後、シュルシュルと音を立てて、掃除機の本体の中へとコードが巻かれていった。



「ロボット掃除機が欲しいけど……今なら、3日で壊されそうだわ」


 飼い主は、そんな叶わぬ理想を吐露しながら、掃除機を所定の位置に戻した。

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