完全機械化
XX
今より未来のお話。
医療技術はここ10年で飛躍的に進歩した。
臓器の多くが機械化可能になり、サイボーグというものが現実に作れるようになった。
それにより、お金さえあれば臓器の不全で命を落とすという悲劇は完全回避できるようになってしまった。
全く良い時代になったものだ。
俺は体内の臓器を全て機械に置き換え、暴飲暴食しても決して太らず、病気にもならない身体を手に入れた。
脳だけが生身の臓器だ。
脳だけは機械に置き換える技術がまだ確立されていない。
技術革新が待たれる。
それさえクリアできれば永遠の命を手にすることができるのに……
そんな思いを、人工臓器の定期診察で主治医の先生に吐露したら
「できますよ」
その主治医……機械化技術の権威の安藤先生はアッサリと口にした。
「できるんですか!?」
「ええ。脳のデータを人工頭脳に移して、その人工頭脳を身体の方に移植するだけです。可能です」
キイ、と椅子を回転させ、主治医の安藤先生はパソコンに向かってキーボードを叩きだす。
「不死川さん、手術しますか?」
俺はドキドキしていた。
永遠の命が手に入る……
「します」
俺の答えは決まっていた。
家に帰って、唯一の家族である妻に脳の機械化について報告した。
僕の報告を聞いた妻は
「これであなたに先立たれることは無いのね。……でも、生身のあなたはもう無くなってしまうのね」
少し寂しそうだった。
……でもキミももう、臓器の機械化はやってるわけだし。
妻とはリアルで20代のときに知り合い、そこから40年以上今日までずっと連れ添ってきた。
彼女も機械化は進めており、脳と生殖器以外は全て機械に置き換えている。
皮膚も人工皮膚に変えており、見た目は20代前半だった。
……本当は還暦過ぎてるんだけどな。
そんな彼女は、結構拘る。
脳以外に生殖器も生身なのがその象徴。
生殖器を取ると女じゃ無くなる気がする。
そういう拘りで、取ってない。
子供作る気が無いから意味無いんだけど。
無論、生身に拘るのは個人の自由だ。
卑下はしないし、無理強いもしないけど。
……僕個人の想いとしては、キミにも同じところに上がって来て欲しいかな。
そうすれば、ずっと一緒に居られるわけだし。
そして手術の日がやってきた。
この日が終われば、俺は人間を卒業できる。
ドキドキとワクワクが止まらない!
そして
「終わりましたよ。どうですか気分は」
「清々しい気分です! ありがとうございます安藤先生!」
手術が終わった。
ベッドの上で、俺は安藤先生にお礼を言った。
俺に礼を言われて、先生は満足そうに微笑んだ。
「あれがあなたの生身の脳ですよ」
言われたので、先生の指差す方向に視線を投げる。
そこには摘出された俺自身の脳が。
金属のトレイに乗せられてそこにあった。
ふーん、俺の脳ってこんな形だったのか。
普通は見られないものを見たことに、何だか優越感を感じてしまう。
……まあ、これで。
俺の名前は不死川節男。
臓器の完全機械化を完成させて、永遠の命を手に入れた男だ。
喜びのあまり、俺は心で名乗りをあげた。
★★★(視点変更)
私は
人体機械化専門の医師だ。
子供時代は、DQN親が付けた名前で苦労した。
改名も出来たけど、機械化医の道を志したとき、むしろ相応しいと思えたので、あえて改名しないで今日までやってきた。
臓器の人工臓器への置き換え手術については、私の右に出る者は居ないと自負している。
今ではこの世界では一応権威として扱われている。
そんな私に最近多いのが「脳を機械化できないか?」という相談だ。
全く、永遠の命が欲しいなんて、人間の欲深さは際限がないな。
私はこの相談には「できますよ」と応える事にしている。
人工知能を搭載した電子頭脳に、移設前の人間の名前を個人名として入力し、家族構成等のコア情報をインプットして移植すればいいだけ。
簡単だ。
人格? 記憶?
そんなものはテキトーでいい。
人間生きていれば人格が変わることはありえるし、記憶は変質したり完全に忘れ去って思い出せなくなったりすることがある。
だったらテキトーで問題無いだろ。
重要なのは移植後に自分に連続性があることを錯覚させること。
そのための記憶作りは丁寧にやったよ。
私のところに相談に来るところから、置き換え手術に臨むところまで。
大変だけど、仕方ないよな。
永遠の命を望む人間の願いは、叶えてあげたいもの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます