第13話 穏やかな日曜日

 翌日、カレンとタカシが起きてみたら、いつもなら起きてるカオリがまだ寝ているようだった。


 そこで、カレンとタカシも日曜日なので二度寝を決め込み、一家が目覚めたのは午前11時だった。


 タモツとカオリは午前2時までは覚えていたようだ。午前10時半に目覚めたカオリは、寝ているタモツの下部を見て、立派なテントがまた出来ていたのを見たが、そこはやはり子供たちの母である。自重したようだ。


 優しくタモツに声をかけて起こすカオリ。


「あなた、もうお昼前よ。遅くなったけど、昼食を兼ねて何か作るから食べましょう。子供たちもまだ寝ているようだから、直ぐに準備をしてくるわね」


 ベッドでカオリに手を伸ばそうとしたタモツをヒラリと躱して鼻歌を歌いながらカオリはキッチンへと向かった。


「うふふふ、昨日のタモツさんはとっても素敵だったわ。熱く滾るタモツさんの情熱を受け止めるなんて私は幸せだわ」


 と、昨夜の事を回想しながらも簡単な料理を作るその手は止まらない。やがて、ほぼ料理が出来上がった頃に子供たちとタモツも起きてキッチンにやって来た。


「お母さん、おはよう〜」

「母上、おはようございます」

「カオリ、ゴメンよ。一度で起きれなかったよ」


「はい、みんなおはよう〜。さあ、お昼ご飯も兼ねて食べましょう」


 こうして穏やかな朝食兼昼食を終えた後は、タモツは書斎に篭り、カレンは近所の探索に出かけ、タカシは斬雨の進化版を作るべく新聞紙と格闘を始めた。

 カオリは録り溜めているドラマを見ようとイソイソとテレビのスイッチを入れた。ちょうど朝の情報番組をやっていて、昨日の一大ニュース首相がスキャンダルによって辞任した事を報道していたのだが、カオリは華麗にスルーしてドラマを見始めるのだった。


 カオリの中ではリョウちゃんに何を頼んだのか覚えていない。というかあの頼みごとはゴウキから頼まれた事だとの認識だったので、それほど気にしていなかったのだ……

 報われない男リョウちゃん。君がカオリに褒められる日は遠い……


 ドラマを見ていたカオリはふと顔を上げた。時刻は午後3時である。おやつの時間なのにカレンが騒がない事に違和感を覚えたが、そういえば近所の探索に行くと言って出かけたのを思い出した時にカレンが帰ってきた。


「ただいま〜、お母さん。私また探索者としてレベルアップしたの〜。ソウお兄ちゃんを見つけたよ〜」


 出迎えたカオリはカレンの後ろに立つ男性を見て言った。


「まあ、ソウジ兄さん! どうしたの、日曜日に? 実家から何か用事を言われてたかしら?」


 カレンの後ろに立つ男性はカオリの兄で、すめらぎ宗二そうじ、35才。更にカオリにはもう1人兄が居る。名は宗一そういちで38才だ。


 ソウジはカオリの言葉に呆れながら返事をした。


「はあ〜…… 自覚無しか。カオリ、お前天煌陛下に頼みごとをしておいて、更には後から電話するって言っておいてまだしてないだろう? ソウイチ兄に天煌陛下から電話があって、どんな様子か見てきてくれって頼まれたらしくてな。それでソウイチ兄が俺をここに派遣したって訳だ」


 ソウジの言葉にカオリは忘れてた事に気がついたようだ。


「あら! そうだったわっ! リョウちゃんに後から電話するって言ってすっかり忘れてたわ! 有難うソウジ兄さん。思い出させてくれて。ちゃんと今日中には電話しておくわ」


「カオリ、だから天煌陛下をだな、リョウちゃんと呼ぶなってソウイチ兄に言われてただろ? 俺だから良いけどソウイチ兄の前では止めておけよ」


「それは無理よ〜、ソウジ兄さん。だってリョウちゃんはリョウちゃんだもの。それに、リョウちゃん自身からそう呼ぶようにって言われてるし。いくらソウイチ兄さんの前でも家族だけなら私はリョウちゃんって呼ぶわよ。一般的には従弟いとこなんだし普通の事よ」 


 カオリがそう言い終えてからカレンがカオリとソウジに言う。


「玄関で話してないで家に入ろうよ。お母さん、私おやつ食べたい!」


 カレンはマイペースであった。


「ええそうね。ソウジ兄さん、どうぞ上がって」


「いや、用事も済んだしもう帰るよ。カレンもまたな」


「うん、ソウお兄ちゃん!」


 言ってカレンは靴を脱いでキッチンへと向かった。


「カオリ、忘れずに天煌陛下に連絡を入れるんだぞ」


「ええ、そうするわ。また来てね、ソウジ兄さん」


 こうして使者の役目を終えたソウジも帰っていった。


 その後、カオリはカレンとタカシにおやつを用意してからリョウちゃんに電話をする。国を象徴する天煌陛下であるリョウちゃんに気軽に電話を出来るのは日本合州国といえどもカオリだけである。


「あ、リョウちゃん、ゴメンナサイね〜。連絡が遅くなってしまって」


 カオリは電話が繋がるなり即座に謝罪した。それを聞いたリョウちゃんは、


「いえ! カオリ姉さんは悪くありません。全ては僕の不徳の致すところです!!」


 と、全面的に悪いのは自分だと言う。大丈夫か、この国……


「あら? そんな事はないわ。連絡するって言って忘れてた私が悪いのよ。でも、リョウちゃん何があったの?」


 と、すっかり頼んだ内容を忘れてしまっているカオリだった。


「ああ…… カオリ姉さんが困らない様に手をうったんだよ。だからもう大丈夫だからね……」


 具体的に何をしたのかというのを伝えるのを諦めたリョウちゃんは対策をしたから大丈夫とだけカオリに言う。


「まあ! そうなのね! 有難うリョウちゃん! やっぱりリョウちゃんは頼りになるわ〜」


 そのカオリの言葉にリョウちゃんのテンションは上がりまくる。


「そ、そうなんだよ! カオリ姉さん! いつでも僕を頼ってくれて良いからね!! 僕はカオリ姉さんに頼まれたら何でもするからっ!!」


「うふふふ、有難う、リョウちゃん。でも、何でもなんて直ぐに言ったらダメよ。今度、旅行で京都そっちに行ったら時間があれば会いましょうね」


「勿論だよ! カオリ姉さんに会う時間なら無限にあるから、来る時はちゃんと教えてよ!!」


「うふふふ、分かったわ。それじゃまたね、リョウちゃん」


「えっ、もう? まだ話をしてても大丈夫だよ、カオリ姉さん」


「あら、ダメよ〜、リョウちゃん。子持ちの主婦は忙しいのよ」


 そう言うとカオリは無情にも電話を切った。そしてイソイソとテレビの前に移動してドラマの続きを見るのであった。


 電話を切られたリョウちゃんは、旅行でカオリがこちらに来る日が近いと信じて影の1人を橘家へと派遣して、その動向を逐一報告するように命令を出す。しかし、橘家が旅行に出る様子などこの先中々無いのであった……



 ドラマを見終えたカオリは夕飯の準備を始めた。タカシは満足な愛刀ができたので銘を考えている最中である。カレンは天気予報を見て明日の天気は天気予報士のお兄さんが雨だと言ってるのに晴れだと反対の意見を出している。


 タモツはまだ書斎に篭っていた。新作のプロットが出来上がり、更には第1話を書き始めたら止まらなくなってしまったのだ。

 こうなるとタモツは自分が満足するまでは筆を止めない。(実際に原稿用紙に手書きしてる)


 その事をよく知るカオリは子供たちに夕飯を食べさせて一緒にお風呂に入る。


「お母さん、ソウお兄ちゃんは来てくれたけど、ソウおじちゃんは中々来てくれないね」


 カレンがカオリにそう言った。カレンの中ではまだ独身のソウジはお兄ちゃんで、既婚者でカレンよりも年上の子供がいるソウイチはおじちゃんなのだった。

 ソウイチの子供は男の子1人で、15才になる。今は受験に向けて勉強に励んでいるそうだ。


「そうねぇ、カレン。ソウおじちゃんは色々と忙しいから中々来れないの。でも、お盆やお正月には会えるからね」


「うん、お正月にはリョウ兄ちゃんにも会えるしね」


 とカレンはカオリの言葉に嬉しそうに言う。カオリはさっきから黙ったままのタカシに聞く。


「タカシ、新しい愛刀の銘は決まったかしら?」


 タカシはカオリの問いかけに難しい顔をして言う。

 

「母上、実は悩んでいるのです。月をも斬れる【斬月ざんげつ】と銘打つか、水をも斬れる【斬水ざんすい】にするか……」


 息子の悩みを聞いたカオリも真剣に考える。


「う〜ん、そうねえ…… それなら月も水も斬れる【斬水月ざんすいげつ】にしたらどうかしら?」


 カオリの提案にタカシは「おおっ!?」と言ってから、


「母上、【斬水月】が良いです。そうします!」


 と喜んでいた。


「さっ、それじゃ2人とももうお風呂をあがりましょう。逆上せちゃわないようにね。湯冷めしないように直ぐにお布団に入って寝るのよ。明日から学校だからね」


「は〜い、お母さん」「はい、母上」


 2人は素直にカオリの言う事を聞いて、お風呂から出て自室に向かうと布団に入って寝た。

 それを見届けた後にキッチンに向かうとタモツが書斎から出てきて遅い夕飯を食べていた。


「あら、あなた。ごめんなさい、支度はしてたのだけど」


「いや、カオリ。謝ることは何もないよ。やっと一区切りついたからね。いつもゴメンね、時間通りに食べに来なくて」


 と夫婦揃って互いに謝る。


「うふふふ、良いのよあなた。お仕事を頑張ってくれてるんだから。明日は読解面楽社さんと打合せでしょ? 私も明日はテツヤくんとヤヨイちゃんとの打合せがあるから早く寝ましょうね」


 と、カオリがタモツに言うと、タモツも「うん、そうだね」と素直に返事をした。が、この夫婦がそんな直ぐに寝る訳がない。


 食事を終えたタモツがお風呂に入りにいくと当たり前のようにカオリもついていき、


「お疲れ様あなた。お背中、流します」


 と一緒にすっぽんぽんになって入るのであった。時刻は午後9時半。橘家の夜は長いのであった…… 


「あなた、素敵よ」

「カオリ、長く君を感じていたい」

「長く逞しいのはあなたよ」

「カオリ、このゆっくりの動きでも良いかい?」

「ええ、とても良いわ」


 スキ者夫婦の寝室での睦言ピロートークはこれ以上は自主規制させていただきます。悪しからずご了承下さい……

 


  

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