第11話 人妻倶楽部(幕間のお話)

 今日も今日とて買取窓口の職員たちはソワソワとしていた。今日は来るだろうか? それとも明日か? とカオリが来るのを心待ちにしているのだ。


 そんな中にひょっこりと現れたのは、


「ただいま〜、みんな元気にしてた?」


 S級探索者夫婦の妻の方のヤヨイだった。


「おおーっ! ヤヨイさん、お帰りなさい!」


 カオリとは違うが、太陽のような朗らかなヤヨイの人気も高い。職員たちは我先にとヤヨイに挨拶を返す。

 そんな中、ゴウキがヤヨイに言う。


「おう、ヤヨイ。やっとけぇってきたか。お前ぇさんに朗報だぞ。あのラッキースターが現役に復帰カムバックしたぞ」


 ゴウキの言葉にヤヨイは驚いた。


「エエーッ! うそ、ホントにっ!? おやっさんの冗談じゃないよね? カオリちゃん、復帰したの!」


 そう聞くカオリにゴウキは言う。


「バッケやろーっ、俺がそんなつまらない嘘をお前ぇさんに言う訳ねぇだろうがっ! カオリが復帰したのは本当だ」


「そうなんだ、カオリちゃんが復帰したならミチオくんも誘ってまたパーティーを組めるわね。そしてらあのダンジョンも行けるわっ!! 有難う、おやっさん。今からテツヤくんとカオリちゃんの家に行ってくるわっ!! 善は急げよーっ!!」


 そう言って窓口から走り出したヤヨイを見て職員たちは、


「はあ〜、ヤヨイさんも尊いよな〜」

「ヤヨイさん、良い。あの躍動感がたまらない!」


「決めた! 【人妻倶楽部】はヤヨイさんも推すぞっ!!」


「待て待て! それなら受付のミズホちゃんを俺は推すぞっ!」


 そんなこんなで結局はカオリ、ヤヨイ、ミズホの3人を推す事になった【人妻倶楽部】。すっかり本人たちも最初の名前【ラッキースターマイエンジェルLSMA】を忘れてしまっているのはここだけの話だ。



 ここで少し本筋とは関係がないが、時間が進んだ時の話をしておこう。


 伊予州の片田舎にある宇摩市の探索者協会の買取窓口職員たちによって始まった【人妻倶楽部】。倶楽部長は何とゲンジである。

 そんなゲンジは勿論だがカオリ推しであるが、伊予州での協会の会合に出席した際に、他の地域の探索者協会の買取窓口職員長たちとの打上会に出席した。

 今回、伊予州の探索者協会宇摩市支部での買取窓口の買取額及び、国への貢献度(高額輸出品大量仕入れ)が1位になった事で、打上会ではゲンジへの当りが強かった。みんなが口々にどんなズルをしたんだとか言ってくる。そんな嫌味を言われ酒を浴びるように飲んだゲンジは、つい酒の勢いに任せてこう言ったのだ。


「フンっ! うちの支部はなぁ! ものすっごい人妻が2人も居てなぁ! その人たちのお陰で今回は全国1位になったんだよっ!! 悔しかったらお前らもそんな凄い人妻を探せよってんだっ、バッケやろーっ! それに俺たちはその人妻さんたちを推す活動を始めたんだよっ! 名付けて【人妻倶楽部】だっ!! お前らみたいに若い娘じゃなきゃなんて言う職員は1人も居ねぇぞ! うちの職員たちはみんな人妻推しだってんだっ!」


「けっ! 他人の妻を推してどうすんだってんだっ! 結局はその人妻とよろしくヤりたいだけだろうがっ!」


 伊予州の松山道後本部の買取窓口職員長のカマシがそんな事を言った。その言葉にゲンジはキレた!


「バッケやろーがっ!! 推すっていうのはなぁ! そんな邪な気持ちじゃねぇんだよっ!! まあ、馬鹿なお前ぇさんには分からねぇだろうが、教えてやろう。推すって言うのは、その人の幸せを願い、その人の幸福を少しでも手助けする事を【推す】ってぇんだ! 分かったか、このスカンピンやろー!!」


 すっかり酔ってゴウキの口調と同じになったゲンジの言葉に、松山道後本部以外の支部の職員長たちは共感し、ウンウンと頷いていた。

 その中でもゲンジの支部の隣の市の支部の職員長が言う。


「ゲンジ、うちでもその【人妻倶楽部】を作ってもいいか? うちにもとても推したくなる人妻さんが4人ほど居るんだ。【人妻倶楽部】の本部はゲンジの所で、うちは支部って事でどうだ? それで、年に1回で良いから推しの人妻さんご家族をご招待して食事会なんかも開催できたらとか思うんだが、まあ、それはまだ先の話だけどな」


 その言葉に他の支部の職員長たちも乗っかってきた。


「おう、それならうちにも推したい人妻さんが居るぞ!」


「うちも1人だけだが居るぞ!」


 そうして、松山道後本部以外の支部では【人妻倶楽部・(地域名)支部】が発足され、ゲンジの居る探索者協会宇摩市支部の買取窓口が、探索者協会としては支部だが【人妻倶楽部】としては本部として認定されたのだった。


 その翌週には、何故かカマシが松山道後本部の買取窓口職員長から降ろされ、違う人物が職員長になるとゲンジのもとに、


「あ〜、その。前任のカマシが失礼な事を言って申し訳ない。私は後任の職員長でケイシと言う。でだ、うちでも【人妻倶楽部】を発足させたいんだ。勿論だがうちも支部扱いで構わない! ぜひとも頼む!!」


 との申込みがあったので、ゲンジは快く了承したのだった。

 カマシはどうなったのかというと、どうやら近隣の支部から話を聞いた本部の買取窓口職員たちにより吊し上げにあい、何と無人島に無理やり作られた探索者協会無人島支部の支部長として左遷されたらしい……


 それから半年に1回の四州(伊予、土佐、讃岐、阿波)での会議にも全国1位の職員長であるゲンジは松山道後本部のケイシと共に参加をさせられ、そこでも【人妻倶楽部】について一席をぶつと、またたく間に四州の探索者協会買取窓口に広がってしまった。

 そして、年に1回の全国会議にも出席したゲンジはまたもや酒の席で一席をぶちあげ……


 こうして、日本合州国全土の探索者協会の買取窓口には、国の運営陣や受付業務などの表方職員には秘密裏に【人妻倶楽部】が開設された。

 もちろん、宇摩市のゲンジの所が【人妻倶楽部】の総本部である。

 全国に広がって第一回目の【人妻倶楽部】のネット会合では、それぞれのイチ推しの人妻の紹介がなされ、そこでも見事カオリが1位に輝いた事は、カオリ本人はその時には知らなかった……


 2位には羽後州のノゾミさんが輝いた。羽後州は旧名が秋田県で、秋田美人と呼ばれる人が多かった地域だ。色白で目鼻立ちがクッキリとしたノゾミさんは現在、B級探索者として活躍されていると紹介されていた。


 3位は肥後州のチサトさんだ。チサトさんは探索者協会熊本市支部で受付業務をされている。その柔らかい微笑みに多くの探索者たちが癒やされていると紹介されていた。


 と、このような事がいくら秘密裏に事を運ぼうがバレない筈はなく…… 宇摩市ではミズホにバレてしまい、カオリやヤヨイにも報告された。勿論、他の【人妻倶楽部】でも推しの当人たちにバレていった。


 しかしながら、推してくれるならと人妻たちは嫌悪感を示さずに、ちゃんと職員が誰か新しい人妻を推しに入った時には連絡をするという約束事だけで、公認してくれる事となったのも、人妻ならではの懐の広さの表れだと、職員たちは感動したとか……


 まあ、この話はかなり先の話である。


 次からは元の話(本筋)に戻る事となる。また、何かの機会に【人妻倶楽部】については語ろう。


 本筋にもチョコチョコと出てはくるだろうが……


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