第5話 ヴァンパイア特効のチートアイテムとか知らないんですけど
人間の王が住む城に連れてこられた私は、
レッドカーペットを歩いて進むと、両側にいる人間たちが私を物色するようにこちらを見ている。
そして正面の一番奥には、金色の玉座に座る老齢の人間が待ち構えていた。
──あれが人間の国王。
見たところ、普通の老人にしか見えない。
勇者の子孫だと聞いたけど、
だけど、国王が手にしている
あの勇者が持っていた聖剣に、ちょっと似ている気がするから。
ちなみに大神官ドルネディアスは、私の
そうして、私にこんな忠告をしてくるのです。
「テレネシア様、陛下の前です。頭をお下げください」
「……申し訳ないのだけど、私はそう簡単に頭を下げるつもりはないの。ごめんなさいね」
これでも私はヴァンパイアの王族。
吸血姫として、数々の配下から頭を下げられる存在だった。
いくら1000年の時が経っているとはいえ、彼らの尊厳のためにも無意味に頭を下げることはできないの。
とはいえ、ドルネディアスはかなり困っているみたい。
世話になっている恩もあるし、少しくらいなら頭を下げてもいいかも。
仁王立ちしながらそう思ったところで、広間に怒声が響きます。
「無礼者! 王の
私にそんな
勲章を胸にたくさんつけているようだし、軍人かしら。
でも、なんだかドルネディアスとちょっと顔つきが似ている気がする。
「面白い冗談ね。この私に頭を下げろなんと叫んだのは、あのムカつく魔王以来かしら」
1000年前であれば、この時点で二度とその口を開けなくしていたところでしょう。
でも、今の私は聖女ということになっている。
そんなはしたないことは、もちろんしませんとも。
長い年月が経ったことで、私は帰る場所を失ってしまった。
だから状況が把握できるまでは、聖女のフリをして情報収集するのが得策だと判断したからね。
私が魔王の名前を出したことで、周囲の人間たちがざわめきだしていた。
見た目は普通の少女でしかないこの私が、魔王を封印した伝説の聖女であることを、認識してしまったのでしょう。
まあ私は吸血姫だから、誤解なんですけど。
そんな凍り付いたこの場の空気を
「まあ良いではないか。聖女テレネシア殿といったかのう、我が
ということは、私のことを睨んでいるあの軍人風の青年は、王子ということになる。
王族のくせに、礼儀がなっていないわね。
「我らが祖先、建国王である勇者を手助けし、魔王を封印した
あの勇者、巻き添えで私を封印したことは許さないけど、最低限の心遣いだけはできたみたいね。
そこまでいうのなら、この国の客人くらいにはなってあげてもいんだから。
「それに聖女殿は、さきほど街でヘルハウンドを討伐しただけでなく、瀕死の公爵令嬢の命を助けたとも聞いた。王として礼を言う、よくぞ我が民を助けてくれた」
面と向かって感謝を告げられると、悪い気はしません。
助けて良かったと、心がなぜか温かくなる。
そこからは、国王から魔王を封印してくれた感謝の言葉と、これからのことについて説明を受けました。
どうやら私は1000年の間、『封印の聖女』として、勇者と並んでこの国の英雄的存在になっていたみたい。
今なら、私が目覚めたことで大神官ドルネディアスが感動していたのもわかる。
だってこの城の中庭に、勇者像と並んでなぜか私の銅像が立っていたんだから。
「この国の王よ、私から一つお願いがあります。1000年も封印されていたせいで、帰る家が無くなってしまったの。しばらくの間、ここに滞在してもいいかしら?」
「もちろんじゃとも、聖女殿がこの国に住むことを認めよう。管轄は教会に任せるゆえ、細かいことはそこの大神官に尋ねるがいい」
国王の呼ばれたドルネディアスが、「承知いたしました」と頭を下げる。
気のせいかもしれないけどこの二人、顔の雰囲気がどことなく似ている気がする。
年齢差は父と子くらいはあるけどね。
「1000年前、建国王である勇者の仲間たちは伯爵の位を
そんなこんなで、私はこの人間の国での滞在権を手に入れてしまいました。
人間の国での生活かあ。
おとぎ話の世界に迷い込んで来たみたいで、ちょっとワクワクする。
人間の生活ってよくわからないのだけど、ヴァンパイアの王族であることを隠してお忍びで遊びに行った子供の頃を思い出すような気持ちだわ。
他の細かい取り決めはまた後日ということになり、私の
だけど
「魔王は『封印石』によって浄化され、滅びた。再びこの王国を襲う魔族たちがやってこようと、この『女神の杖』がある限り心配ないので、安心して欲しい」
ここに来た時から国王が持っている金色の杖。
やはりあれは、ただの杖ではないらしい。
「この杖は
たしかに、その杖からは尋常ならざる気配を感じる。
あの勇者の聖剣よりも。
「ここを見よ、杖の先端に宝玉が埋め込まれているじゃろう。これは『
え、ヴァンパイアを滅する!?
どういうことなの?
「魔王が封印されてから数年後に、ヴァンパイア・ロードと呼ばれる恐ろしいヴァンパイアがこの国を襲ったのじゃ。娘の
そのヴァンパイア・ロードって、私のお父様じゃん!
お父様、私の仇討ちをしに来てくれたんだ。
まあ私、死んでないんだけどね。
しかも人間は仇でもなんでもないし。
「その時、人類を救うために女神様が勇者に授けたのがこの『
国王は、杖をかざしてみせました。
途方もない力を、その杖から感じます。
「この『
お父様が半身を失った!?
いや、ヴァンパイアの王であるお父様が、半身を失ったくらいで死ぬとは思えない。
でも、それ以来表舞台に立っていないのであれば、その光を浴びると失った体は元には戻らなかったということでしょう。
つまりその『
お父様に効いたのであれば、おそらく私にも…………。
「ほら、こんな感じじゃ」
「ひぃっ!?」
杖から光線が放たれた。
私の足元スレスレの場所に、ヴァンパイア特効の光が当たってるんですが!
スカートにちょっとかすってるし、怖いから早くどけてくれると嬉しいのですが……。
「おっと
し、死んじゃう!
その光を浴びたら、私、死んじゃうって!!
「ヴァンパイア以外の者には効果はないから、安心して欲しい。だがヴァンパイア相手であれば、一瞬で灰になることじゃろう」
今の光線、まったく反応できなかった。
つまり、私が今の攻撃を受ければ、避けることもできずに殺されてしまうということ。
「本当はワシもこれでヴァンパイアを滅してみたいのじゃが、相手がいなくて困っているのじゃ。もしもヴァンパイアを見かけたら、すぐにワシを呼ぶのじゃぞ。喜んで討伐してやろうぞ」
ま、まずい。
私の正体がヴァンパイアであることがバレたら、きっとあの『
まさか人間が、私たちへの対抗手段を得ていたなんて、思いもしなかった。
1000年も経てば、女神とやらの力も増したというわけね。
完全に想定外です。
正体が明るみになれば、私は悪しきヴァンパイアとして討伐されてしまうことでしょう。
──あの
もしもこのまま国から逃げたとしても、あの杖がある限り私は討伐されてしまうかもしれない。
せっかく1000年振りに目覚めたのに、それは嫌だ。
それなら、どうするか。
『
それさえなければ、人間は怖くないのだから。
このまま正面から奪取しようとすると、きっとあの光で殺されてしまう。
なら夜まで待って、ヴァンパイアの力を使って城に忍び込めばいい。
太陽さえ沈めば、ヴァンパイアである私は大いに力を増し、対して人間は闇夜では力を落とすのだから。
さてと、今後の目標が決まりました。
正体がバレないよう油断させて、その隙に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます