第14部 最終部 『さよなら こんにちは』編 第24話
ガレージの入り口を固めているクラが率いる守備隊はドローンの操縦とヲタ地雷の爆破の役割も持っている。
「クラ!塀が崩れて侵入口が出来たら奴らが一斉に雪崩れ込んでくるぞ。
奴らをぎりぎりまで引き付けて該当位置のヲタ地雷を爆破する!
俺の合図を待て!」
「彩斗リーダー!コピー!」
俺達は塀に沿って30個のヲタ地雷を設置してそれぞれ第1列から第3列迄10個づつを並べてある。
そして塀沿いのエリアをブルー、レッド、イエロー、パープル、グレーと分けてある。
誰もいない所のヲタ地雷を爆破してもしょうがないからだ。
奴らは投げ込むアナザーが品切れになったのか、入り口ゲートや塀の上から飛んでくるアナザーが少なくなっている。
入り口ゲートでは、まだ数体のアナザーがバリケード班の後方で、四郎と栞菜、喜朗おじと戦っているがどうやら全部始末出来そうだった。
ハルクと化した喜朗おじの戦いは物凄かった。
巨大な棘付き棍棒をアナザーの身体を上から叩き潰しその体を頭から足の先まで一気に、まるで立たせたアルミ缶を一気に真上から踏み潰すようにペシャンコにしたのを見た。
潰されたアナザーは丸い血と肉の染みになった。
入り口ゲートからはまだでかいアナザーの死体を乗り越えてヒューマンと雑魚アナザーが侵入しようとして来ては真鈴達バリケード班の集中射撃を受けてどんどん始末されて行った。
新しく侵入してこようとする奴らは目に見えて数が少なくなった。
塀沿いでは松浦達の援護射撃を受けながら明石が江雪左文字を振るい、飛び越えてきたアナザーを散々に切り刻んでいた。
そのアナザーも数が少なくなってきた時、遂に塀の一角が崩れた。
飛び込んできた最後のアナザーの胴体を真っ二つにした明石が崩れた塀を見て死霊屋敷に走って来る。
「彩斗!
塀の一部が崩れたぞ!
まだ重機関銃を撃たせるな!
弾丸を温存しろ!
奴らが入って来て充分に増えたらヲタ地雷を爆破しろ!
重機関銃はそれからだ!
タイミングはお前に任せる!」
「景行!コピー!
クラ!聞いているな!
俺の合図でヲタ地雷を爆破させる!」
「彩斗リーダーコピー」
でかいアナザーが塀を崩すと後ろに下がり、塀の割れ目からヒューマンとアナザーの群れが叫び声をあげて侵入してきた。
塀の内側の堀は殆ど死骸で埋まっている。
奴らは味方の死骸を踏みつけ、足を取られながらどんどんと入って来た。
100、200,奴らはどんどんと塀の割れ目から入り込んで来た。
どんどんと塀沿いに充満して、こちらに迫って来る。
やはり銃などの飛び道具を持っている奴らは少ない。
奴らは散発的に俺達に射撃しながら狂乱し、大声を上げて威嚇しながら進んで来た。
その数400,500。
塀を崩したでかいアナザーも割れ目から中に入って来た。
俺は銃機関銃陣地に指示を出した。
「機関銃陣地A,B!
でかい奴に照準を合わせろ!
ヲタ地雷を爆破したらまず奴を倒せ!」
「機関銃陣地A!コピー!」
「機関銃陣地B!コピー!」
「彩斗リーダー!爆破しますか!」
「クラ!もう少し待て!
松浦!銃の数は少ないが奴らは撃って来ているぞ!
銃撃に注意!」
「松浦!コピー!」
奴らがどんどん塀からなだれ込んで目の前に充満してきた。
その数600を超えただろう。
「クラ!やれ!
レッド第1列!爆破!」
レッドのエリアのヲタ地雷2つが爆発して地響きを伴う物凄い轟音と共に1000個以上の鉄球が銃弾を遥かに超える速度で奴らに飛んで行き、そして奴らを切り裂き吹き飛ばした。
充満して向かってくる奴らの前列の者が血と肉の霧となって空中に消え去り、その後ろにいる何列かの奴らがずたずたに引き裂かれてバタバタと倒れ、更にその後ろの奴らに鉄球が食い込み、奴らは顔や腹、腕などを押さえて歩みが止まった。
「よし!
レッド第2列爆破!」
更に数メートル後方にあったレッドエリアの2個のヲタ地雷が再び奴らを霧にして引き裂き吹き飛ばした。
密集している奴らは面白いように始末された。
でかいアナザーはさすがタフで体が吹き飛びはしなかったが、体中に鉄球が命中して悲鳴をあげて膝をついた。
「今だ!機関銃陣地!撃て!
でかい奴を始末したら塀の割れ目に射撃を集中しろ!
他の守備隊は残りの入って来た奴らを始末しろ!」
重機関銃の野太い発射音が鳴り響いてでかいアナザーの身体を斬り裂き、腐肉の山にした後で塀に出来た割れ目に射撃を集中して更に入って来ようとしたヒューマンとアナザー、そしてでかいアナザーをもう2体撃ち倒した。
道路からスピーカーの声が聞こえた。
「待て!お前ら待て!後ろの奴らを待て!
今、中に入るな!」
その間に既に中に入った残りの奴らは松浦達の射撃と明石によって始末されていった。
入り口ゲートからも塀の割れ目から侵入してくる者もいなくなった。
奴らは道路から時折顔を覗かせて死霊屋敷の様子を見るだけになった。
「各自射撃やめ!」
重機関銃の射撃などが止み、気味悪いほどの静寂に包まれた。
俺達は死霊屋敷に入ってきた奴らを全部始末した。
だが、まだ道路にはもっとたくさんの奴らがいる。
「彩斗リーダー、まだ予備のヲタ地雷が4個残っています。」
「クラ、コピー、今のうちにレッド第1列と第2列にヲタ地雷をセットし直せ。
各部署損害を報告。」
「バリケード班、2人負傷、命に別状ないわ。」
最初に真鈴からの声が聞こえた。
続いて各部署から報告が上がって来た。
負傷者が4名、簡単な傷の縫合以上の手術が必要な重篤の者はなく、死亡者はいなかった。
…鐘楼の大宮さんが頭部に深刻な銃撃を受けたが、圭子さんが体液交換をしてアナザーとして蘇るだろう。
アナザーとして意識を取り戻すまで個人個人によって時間に開きがある。
大宮さんは屋根裏に白目を剝いたはなちゃんとともに寝かされている。
はなちゃんを抱き上げた時はぞっとした。
着ぐるみのクマのぬいぐるみの中のはなちゃんのボディはかなり損傷している。
はなちゃんは胸に缶から取り出した黒く長い髪を抱きしめたままじっと動かなかった。
体液交換をして数秒でアナザーとして起き上がる者もいれば、数時間必要な時もあった。
四郎などはポールと体液交換をしてすぐにアナザーとなって意識を取り戻したが、リリーは四郎と体液交換してアナザーとして意識を取り戻すまで数時間かかった。
そう言えば圭子さんもアナザーになるまで数時間かかったな…あの時俺達は圭子さんが死んだと思い、暖炉の間で悲しみに沈んだ物だった。
ともかく、俺達は今の所一人も死者を出さずに済んでいた。
ミヒャエルを除いて…。
そして、血みどろの姿の明石が鐘楼に昇って来た。
「景行、お疲れ様。」
「彩斗、お前も良く指揮を執ったな。
奴らの4000以上は始末したと思うな。
俺達の人数に余裕があればいま道路にいる奴らに逆襲撃を掛けるんだがな。
まぁ、それは贅沢と言うものか。」
「なんとか持ちこたえられそうだね。」
「彩斗…そう喜んでいられないぞ。」
そう言って明石は鐘楼から死体が散らばる景色を見回した。
そして声を落として俺に囁いた。
「俺はぞっとしたぞ。
奴らは1人も逃げようとも手を上げて降伏しようともしなかった…1人もな、逃げようともしなかったんだ。
見ろ、奴らの死体は後ろ向きに倒れている奴らは一人も居ない。
それにあのスピーカの声ひとつで攻撃を中断している。
非常に統制が取れた連中と思ったほうが良いな。」
明石が俺に双眼鏡を差し出した。
俺は双眼鏡で散らばる死体を見た。
うつ伏せに倒れている奴は死霊屋敷に頭を向けている。
あおむけに倒れている死体以外に死霊屋敷に脚を向けて倒れている奴の死体が無かった。
逃げようとして後ろから撃たれるか斬られて死んだ奴は一人もいないと言う事だった。
全員が前に進もうとして殺されていた。
「ヒューマンの軍隊ならとっくに攻撃開始地点まで撤退するほどぶち殺したがな…奴らはまだまだ俺達を殺す気満々の兵隊が9000か8000は残っていると言う事だ。
幸いにも第1バリケードが持ちこたえているし、塀の侵入口も一つだけだ。
だが、俺達は塀の内側の堀を失った。
そして銃弾もかなり消費しただろう。
ヲタ地雷がまだ残っているのが幸いだがな。
万が一防衛戦を突破されて乱戦になったら、残りの奴らが1000人でも…俺達はやられるかも知れないぞ。
少なくとも俺達の大部分は死ぬ。」
「…景行、やはり岩井テレサの小田原要塞に脱出するプランを…。」
明石はかぶりを振ってポケットから煙草を取り出し、血の付いた煙草に火を点けた。
「彩斗、そのプランは捨てた方が良いだろうな。
ここを突破して脱出するのも奴らを相当に、1000か2000位に減らさないと難しいしな。
何とかここを突破して小田原までの長い苦難な道を進んで行って…岩井テレサの小田原要塞も5万からの敵の攻撃を受けている最中だ。
小田原要塞の包囲網を突破して要塞に入城するには…。
包囲網に掴まって全滅する可能性が高い。
ぎりぎり、隣の敷地の巨石の結界までが俺達の最後の撤退先だな…。
子供やユキ達を巨石の結界に避難させて俺たち全員が全滅覚悟で戦うしかないぞ。
全滅覚悟で奴らを一匹残さず始末しないと…。」
明石の言葉を聞いて俺も煙草を取り出して火を点けた。
「景行、まだ2回目の攻撃が始まらない今のうちにメンバーを集めて方針を決めよう。」
「そうだな彩斗、そうしよう。
今のうちに俺達の意思統一をするべきだ。
手違いが起きないようにな。
圭子、一緒に下に降りるぞ。」
俺と明石と圭子さんが鐘楼を降りて行き、死霊屋敷の玄関前にワイバーンメンバーを呼び集めた。
俺は階段を降りる時に腕にはめたSINNの103の腕時計を見た。
戦いが始まってからまだ30分も経っていなかった。
じりじりと暑くなっている。
「彩斗、子供達やユキ達の所を通るぞ。
リラックスした顔をして子供やユキ達を元気付けるんだぞ。
リーダーのお前がそんな深刻な顔をしていると皆が不安に思うからな。」
階段を下りる途中、明石に言われて俺は無理やり笑顔を顔に浮かべた。
続く
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