第8部 発覚編 第5話

ともかく俺達は交代で仮眠をとることにした。

俺と真鈴が起きて残りの者はそれぞれの部屋に戻り眠りについた。

屋敷自体は玄関ホールとドアが壊れた以外に損傷が少なかった事は幸いだった。


俺と真鈴は暖炉の間ですぐ横にUMPサブマシンガンとダマスカス鋼ナイフを置いてそれぞれラップトップパソコンで調べ物をしたりテレビを見ながらして時間を過ごした。


俺は目下のところの緊急課題として『ひだまり』のスケベ死霊達の存在を必要性を圭子さんが納得するような情報が無いかとネットを漁り、真鈴はユーチューブ等に悪鬼が警官隊に襲い掛かる映像などが流出していないかチェックをしていた。

テレビでは何度もヘリコプターから都内にあったテロ集団のアジトを映した映像や避難する住民達のインタビュー映像、機動隊によって厳重に封鎖された通り、ストップした交通機関の混乱した状況などが次々と流れては有識者らしい人間達が今回の事件について的外れな意見を述べていた。

そして、テロ集団の者は逃げた者以外全員が死亡した事を何か都合が悪い事が有って政府が口封じをしたのではないかとか、中には元首相暗殺事件やあの狂った新興宗教の毒ガス事件に言及して何か関連つけようとする者までがいて挙句の果てにロシアや中国の日本侵攻準備を進める集団の仕業だとか想像豊か、いや被害妄想豊かな意見まで出て来て俺も真鈴も苦笑いを浮かべるしか無かった。


「全く何でもかんでも繋がりがあると考えたいのね~。

 陰謀論が大好きなんだろうね。」

「そうだね真鈴、何か説明できるものを作り上げたいんだろうな。

 何か説明できるような似た事件と自分にとって都合が良い考えを結び付けて陰謀とかを妄想するのかも知れないね。

 そうして初めて、自分で理解できるものを繋ぎ合わせて、自分の都合の良い結論を出して初めて安心できるんだろうな。

 真実なんてどうでも良いんだよ。」

「まったく…人間の本質はチンパンジーに毛が生えたくらいの知性と言う所かな~。

 嫌らしい小賢しさがある分もっと始末に負えないけどね~。

 ところで彩斗は何を調べているの?」


真鈴が俺のパソコンを覗き込もうとしたので慌てて俺はディスプレイを手で隠した。


「いや、『ひだまり』開店の事で少し調べ物だよ。」

「ふ~ん、そうか、色々忙しいんだね。」


今、スケベな死霊と検索を掛けていて『死霊風俗 ドスケベナース』と言う画像などを開いていたからあわてて胡麻化し、真鈴も納得したようだ。

まぁ、見出しに釣られて特にスケベな…いやいや、役に立ちそうな情報では無かった。

その下に♯巨乳 スケベ大死霊 みんみんのイラスト等に目が行ったがどうやら今俺が直面している問題の解決に結びつきそうになかった。


ため息をついて俺は『ひだまり』の周辺地域に関する情報を検索した。


「あ~!何よこれ~!」


真鈴がパソコンを見ながら呆れた声を上げた。


「どうしたの真鈴?」

「もうネットの奴らは好き勝手な事を言うわね~!

 彩斗、あの子供殺しの外道事件覚えている?」


俺はあの外道極まりない少年が巻き起こした今でも時々夢に出てくるあの地下の惨状を思い出した。


「忘れるはずがないよ。

 あの事件だろ?

 そろそろ裁判を始めるとか言ってたけど、どうしたの?」

「あの時活躍した『仕事人』は今回顔を出さなかったな。

 案外役立たずなんじゃないのか?だってさ~!

 犬の出番が無くて見せ場が無いから休んでたんじゃないの?とか、無責任に好き勝手言う奴らね~!」


真鈴が苦笑いを浮かべてコーヒーを飲みタバコに火を点けた。

俺も真鈴を見て苦笑いを浮かべてコーヒーを飲み、タバコに火を点けた。


「まったく…お前らがおしっこ漏らすほど恐ろしい現場で仕事人は今回も死に物狂いで働いたと言いたくなるよ。」


俺が言うと真鈴も深く頷いた。


「まったくね~!

 でも、本当の事を知ると奴らは腰を抜かしてまたあれやこれや訳が分からない事を言い始めるんだろうね~!」

「そうそう、俺達はあくまで陰に隠れていないとね~。」

「まさに仕事人じゃないのよ~。

 なんか、報われないわ~。」

「まあまあ真鈴、充実した『生き甲斐』と言う奴が有るからさ。」

「彩斗…人間的に成長したね~2回と4分の1野郎時代から大違いだよ!

 真鈴姉さんは嬉しいよ!」


その時、榊にもらったスマホに着信があった。


「もしもし。」

「彩斗君ね、こんにちわ、なんか久しぶりな感じね。」


岩井テレサからだった。

俺はスマホをスピーカーモードにした。


「こんにちわテレサさん、そうですね、久しぶりな感じがします。」

「咲田真鈴です、こんにちわ。

 お久しぶりです!」

「まあ、真鈴さん、元気で何よりだわ。

 怪我をしたと聞いたけれど大丈夫?」

「ええ、おかげさまで元気です。」

「良かった!ほかの人達は?」

「今仮眠をとっています。

 起きたら俺達が交代して眠ります。」

「あら、そうなのね。

 今回はお疲れさまでした。

 一言お礼を言いたくてね、本当にありがとう…それと、私達の考えが甘くて奴らの襲撃を許してしまった。

 本当にごめんなさい。

 …圭子さんは蘇ったようだけど大丈夫そう?」

「ああ、はい、前より元気な感じですよ。

 こちらこそ護衛の人達を死なせてしまって…お悔やみ申し上げます。

 でも、おかげで司も忍も無事でした。」

「そうね、ありがとう。

 彼らも体を張って命を懸けてくれて私も感謝しているわ。

 でも、今回は圭子さん達を私の家に連れてくればよかったと悔やんでいるわ。

 ごめんなさい。」

「いえ、そんな…。」

「お願いですから、もう、謝らないでください。」


俺と真鈴は岩井テレサが申し訳なさそうに話すのにすっかり恐縮してしまった。


「今回、彩斗君の屋敷の修理代はこちらでお支払いするから請求書を送ってね。」

「いや、そんな、気を遣わないでください。

 俺達は前よりも頑丈な物を作るつもりなのでお金かかりますから…。」

「遠慮しないでよ。

 申し訳ないけれど私達の資金力は凄いから。」

「ええ、はい、じゃあ、お願いさせていただきます。」

「そうよ、あなた達は命を張ったんだから当然よ。」

「あの…ところでテレサさん、クラ…蔵前君の様子は…。」


真鈴が尋ねると岩井テレサの声が悲痛な響きを帯びた。


「そうね…彼には全く落ち度はないのに残念な事になったわ。

 今は命の危険を脱して意識を取り戻したわ。

 念の為鎮痛剤を投与してまた眠っているそうよ。

 私達は彼が立ち直れるように力を惜しまないつもりよ。」

「そう、良かった。

 私達、お見舞いに行けるかしら?」

「そうね、彼が落ち着いたら是非お見舞いをしてあげて。

 彼が立ち直る力になると思うわ。

 あと、リリーから聞いたけど、景行さんと圭子さん、リリーと四郎さんが結婚式をするんですって?」

「ええ!そうなんですよ!

 まだ少し先になると思うけど、ここで結婚式を執り行おうと思っているんです。」

「まぁ、素敵ね!

 私も時間があればお邪魔してお祝いしたいわ!」

「ええ、是非!

 テレサさんも来ていただくとみんな喜ぶと思います!」

「頑張ってお邪魔させてもらうわね。

 それと、ジンコさん、凄く私とお話したいと言ってたけど、落ち着いたら是非遊びに来るように伝えて置いてね。」

「ええ、勿論です!

 ジンコも喜ぶと思います!

 だけど…凄い質問攻めになるかも知れませんよ。」

「ほほ、覚悟しておくわ。

 それではこれからあの共同作戦をした組織と警察庁などと会議があるのよ。

 これからも頑張ってね。

 ワイバーンに幸運を。」


岩井テレサの電話が切れた。


「彩斗、ラッキーだったね!

 屋敷の修理代テレサさんが払ってくれると言ってたわ。」

「そうだね、少し甘えてるかな?と思ったけどあの人達の組織の資金力は半パじゃないからね。

 お言葉に甘える事にするよ。」


その後、俺達はまたテレビをちらちら見ながらパソコンで検索を始めた。

スケベ死霊に関して俺と…ワイバーン男性陣の考えを後押しするような有力な情報を手に入れて俺は満足した。


「よし!これは有力な情報だ!」

「なに?彩斗、ガッツポーズなんかしてさ、変なの…ああ!ああああ!やばいよこれ!

 ちょっと彩斗これを見てよ!」


真鈴が腰を浮かし、俺にパソコンのディスプレイを向けた。

動画だった。


ほんの数分前にあげられた映像で、どこかの建物の2階か3階の窓から見下ろした画像で、機動隊の盾が並んで道路を封鎖したところに怒号を上げて悪鬼と人間の集団が襲い掛かっている。

機動隊員がピストルを乱射のごとく撃ちまくっているが、人間はともかく悪鬼は撃たれて倒れてもまた起き上がって襲い掛かり、機動隊の盾の列を突き崩して防護服とヘルメット姿の機動隊員をめちゃくちゃに引き裂いていた。

機動隊員の悲鳴と悪鬼達の怒号が入り混じり、撮影者の悲鳴と呻き声、やがて画面がぶれて嘔吐する音が聞こえて来た。

窓枠に置かれて斜めになった画面には足を負傷して逃げ遅れた機動隊員が命乞いをするのを見て笑いながら数匹の悪鬼がその隊員の四肢を掴んで一斉に引っ張り、引き裂く映像が映っていた。

道路上には捨てられたジェラルミンの盾、夥しい機動隊員の千切れた頭や腕が、そしてはらわたを引きずり出された死体が、撃ち殺されたアレクニドの人間メンバーの死体とともに転がっていた。


「…これは…ヤバいね…。」

「奴らの悪鬼顔も撃たれても再生する所も、常人よりもずっと強い力や人間離れした敏捷性も…そして情け容赦ない残忍さも…全部撮られているわ…。」


俺と真鈴はパソコンのディスプレイを見て呻いた。

すっかり顔から血の気が失せていた。






続く

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