いざ、霧谷村へ

小松琴音の霧谷村への一人旅は、春の暖かな日差しの中で始まった。

彼女が列車から降り立った時、目の前に広がる豊かな緑と、懐かしさを感じさせる風景に、心が奇妙に動かされた。

この村に来たのは生まれて初めてのはずなのに、足を踏み入れた瞬間から、どこかで見たことがあるような、不思議な感覚に包まれた。

村の入口で、琴音は深呼吸をした。

冷たく澄んだ空気が肺を満たし、心がすっと軽くなるのを感じた。

彼女は、この旅がただの偶然ではなく、何か特別な意味を持っていることを、直感的に感じ取っていた。

村を歩き始めると、古い木造の家々、石畳の小道、そしてどこまでも続く緑豊かな風景が、琴音の心を引きつけた。

彼女は、まるで長い間離れていた家に帰ってきたような感覚を覚えた。

途中、彼女は村の小さな喫茶店で休憩を取ることにした。

店内には温かい光が差し込み、静かな時間が流れていた。

その時、店の扉が開き、健太と拓也が入ってきた。

彼らは大声で笑いながら、思い出話に花を咲かせていた。

二人の自然な笑顔と明るい雰囲気に、琴音は思わず微笑んでしまった。

彼女はこれまで二人と会ったことはなかったが、なぜか懐かしい感覚を覚えた。

健太と拓也は琴音の視線に気づき、彼女に向かって挨拶をした。

「こんにちは、旅行の方ですか?」健太が気さくに声をかけると、琴音は「はい、ちょっとこの村に興味があって。」と答えた。

その自然な会話の流れの中で、三人はすぐに打ち解け、喫茶店の一角で楽しく話し込むことになった。

健太と拓也は霧谷村での生活や、村の魅力について琴音に熱く語った。

彼らの話からは、この地に対する深い愛情が伝わってきた。

「霧谷村は小さいけど、本当にいいところなんだ。君も気に入ってくれると嬉しいな」と拓也が言うと、琴音は心から「はい、もうすでに大好きになりました」と答えた。

三人は連絡先を交換し、明日、健太と拓也が霧谷村の名所を案内する約束を交わした。

琴音が喫茶店を後にする時、健太と拓也は「それじゃあ、また明日ね。」と温かく見送ってくれた。

琴音はこの日の出会いを心の底から嬉しく思いながら、予約していた宿へと向かった。

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