陽キャくんは、ぼっち姫に恋をしている。

三吉おれんじ

第1話 陽キャくんは危機感を抱く

「おはよう柏木さん」


「え、ああ、おはよう、ご、ざいます」


これが俺、高柳圭司と柏木千尋さんの朝の会話である。

最初は柏木さんに挨拶を無視されてしまっていたが、今ではこのように挨拶を返してくれるようになったし。しかし柏木さんと全く目が合わないところは今後の課題だ。


「柏木さん、なんの本を読んでいるの?」

柏木さんの手には可愛らしいうさぎのカバーがかけられている本。

さっそく俺はそれに触れる。


「えっ、あー、別に普通です」

柏木さんはぼそっと呟く。


「ああ、そうなんだ」

普通と言われたら話が膨らみようがない。今日の会話は失敗してしまった。

俺は隣の柏木さんが好きだ。容姿で言えば黒髪ロングで目鼻立ちが整っているところとかがドタイプである。それに声が綺麗なところもいい。あと奥ゆかしい性格も好きだ。

しかし柏木さんからはそっけない態度を取られてしまう。

俺としてはガンガン攻めたいのだが、以前質問攻めをしてしまって、この世の終わりみたいな顔をさせてしまったことがある。あくまで柏木さんのペースに合わせてである。


「あー、ケイちゃんおはー!」

たたた、と俺の席に駆け寄る。


「真由おはよー」

浜野真由は明るい少女である。クラスでもムードメーカーでみんなを盛り上げている。

ボブヘアーが特徴な女の子でクラス内外問わず人気者である。


「本当に真由は朝でも元気よね。あ、圭司くんおはよう」

真由の横にいる玲奈はため息をつく。


「玲奈もおはよー」

彼女は桜木玲奈。性格はクール系で真由とは正反対だが二人は親友同士。

うちのクラスのいつめんの一人である。


「逆に玲奈は冷めすぎだよぉ」

真由はもー、と言いながら玲奈に抗議する。


「朝からテンションが高いのは真由くらい」

玲奈は朝からセットされたゆるふわな髪ををうっとおしそうに耳にかける。

二人のやり取りがおかしくてつい笑ってしまう。二人は毎朝こんな感じなのだ。


「よ、賑やかだな。圭司に二人とも」


「あー、翔太じゃん」


「佐倉くんおはよう」

真由と玲奈はそう声を掛ける。


「翔太ー、朝練お疲れ様」


「ってか運動部マジできつそうだよね。私は早起き無理だし」

玲奈は苦笑いする。


「玲ちん運動しなきゃ太るぞ」

真由は玲奈をからかう。


「ここでそういう話をするなー、真由だって食べ過ぎだった騒いでいたじゃん」

玲奈は顔を真っ赤にして反論する。

こんな調子で俺の机を三人がわいわいと取り囲む。みんないいやつで翔太以外はクラス替えしてからできた友だちだ。彼らのお陰でこのクラスが始まったばかりだが楽しくやっている。

まぁ、柏木さんとの進展はゆっくりでも大丈夫だよな。ちらりと柏木さんを見るのだが彼女は少し嫌な顔をしていた。

……なにかしたかな?

なぜこうなったのかはわからないが、今日は彼女と話すのはやめておこうかな。


あっという間に放課後になる。翔太はサッカー部があるし、真由と玲奈は直帰した。俺はというと放課後は少し残ることになる。なぜなら学級委員長の手伝いをすることになったからだ。


「この段ボールを会議室へと運べばいいんだよな?」

うちのクラスの学級委員長である月崎楓は俺の問いかけに頷く。わりと重いなこれ、段ボールの中には資料が沢山入っているらしい。

女性が一人で持つにはあまりにも重いだろう。


「高柳くんありがとね」

委員長は少し申し訳なさそうな顔をする。


「んー、別に大丈夫だよ。それに先生から頼まれたら俺は断れないし」

俺はそう言って笑う。


「本当に助かります」

委員長は気が引けるとでも言いたげな表情をしている。そういうつもりじゃなかったんだがなぁ、もう少し気遣いができるようになりたいものだ。


「今日は時間とか大丈夫だったかな?」


「ん、今日は親族の食事会とかパーティとかそういう面倒な予定はないから大丈夫だよ」


「流石高柳くんだね。住んでいる世界が違うよ」


「別に俺は普通に生きているだけなんだけれどね」

俺は苦笑いする。家の話をすると引かれるのであえてしていないのはこういう反応をされてしまうからである。

ん、あれは柏木さんか?

窓から柏木さんが下校する姿が見える。しかしその隣には男子がいるではないか。

あれって確かうちのクラスの。


「あ、柏木さんの横にいるのは蘇我くんか。なーんか珍しい組み合わせだね」

委員長はにこりと話すのだが俺は気が気でない。

あれはうちのクラスメートの蘇我征四郎くん。二人に接点が合るとは知らなかった。


「柏木さんってぼっち姫ってからかわれてはいるけれど、可愛いしスタイル良いよね」

委員長はそう話す。


「ん、ああ」

なんか、こう、同意しづらい内容なので俺はお茶を濁す。というか柏木さんって実は競合していたりするのだろうか。

こうなってくると気が気でない。


「柏木さんって実はモテる感じなのかな?」

俺はさり気なく探りをいれる。


「多分そうだと思うよ。いやー、蘇我くんと柏木さんってあの距離感を見るにもう少しって感じよね」

委員長は楽しそうに話す。俺は全く楽しくない感情である。

窓越しだが柏木さんは俺には見せない笑顔を、蘇我くんには沢山見せている。

悠長にしている場合ではないかもしれない。

俺はその光景を目の当たりにして危機感を抱いてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る