第52話 神宮寺明のプレゼン
「それではこれより神宮寺明、桜花翡翠によるプレゼン会議を始める」
充さんの掛け声により、会議が始まった。
「二人のプレゼンを始める前に、概要をおさらいしておく。今回は我々の管理するプロジェクトではなく外部からの委託事業である。場所は都内にあるショッピングモールの2フロア分ほどの広さにおける新しい娯楽施設の構築。期限は今月末」
「充さん。それで本当に間に合うのか?一般企業からしたら圧倒的に工事に着手するには間に合わないんじゃないか?」
単純に考えて、今日の二人のプレゼンを聞いてどちらかを採用するとして、そこを更に詰めて、建設部門の奴らと相談してそこから更に人件費や材料費の確認に確保。到底間に合うものとは考えにくい。
「それについては心配ご無用です。二人にはいくつか条件を課しました。また、二人からある程度の雇用人数と材料の概要は把握しております。その為既に会計部と建設部とは話を進めて基礎工事は終わらせております。また幸いにして我々は多くの優秀な人材に恵まれております。二人の意見があまりにも爪が甘く穴だらけでなければ何の心配もございません」
充は当たり前かの様に自信を持ってそう言った。見た目と雰囲気、そしてその自信ある口調は俺に確信と安心を持たせた。それに、さりげなく二人に更なるプレッシャーを与えた。これが偶々なのかそれとも意図してなのか定かではないが確実に二人には刺さっただろう。
「それではまずは神宮寺明君、君のプレゼンを始めてくれ」
「かしこまりました」
神宮寺明は立ち上がり一礼して持っていたパソコンをプロジェクターのコードとつなぐ、そして彼の用意した発表資料がスクリーンに映し出された。
「みなさまこの度はお時間をおつくりいただきありがとうございました」
「神宮寺」
「はい!」
「うちはそんなに堅苦しい挨拶はしなくていい。そういうのは時間の無駄って切ってるんだ」
「申し訳ありません!」
鷲の注意を聞いて神宮寺が頭を下げる。
そんな彼に対して鷲は気楽そうに答えた。
「そんなに謝るほどの問題じゃない。これからそうしとけばいい。あ、でも他の会社でやる時には注意しろよ?」
鷲は笑って見過ごした。
「話を遮って悪かったな。続けてくれ」
「かしこまりました。それではこれよりプレゼンを始めさせていただきます。まず私が提案するのは高校生や大学生をターゲットとした屋内施設です。桜花部門長よりいただいた資料を見た限り、今回の委託事業を頼まれた会社はそこまで資金がありません。しかし、引き受けた以上成果を出さなくてはなりません!そこで私がまず注目したのは工事する建物の周辺施設です」
スクリーンの画像が変わり、今回の工事現場を中心にした地図が映しだされた。
「みなさまに注目していただきたいのはこの丸と三角で囲ってある場所です」
地図にはいくつかの丸と三角で囲まれた箇所があった。
「そこが高校と大学だということか」
「その通りです」
鷲の言葉に待ってましたと言わんばかりに返答する神宮寺、そしてそれで勢いが付いたのか更に自信のある口調で話を進める。
「御覧の通り、周辺には高校や大学が数多く点在し、それも徒歩15分から20分程度の距離にあります。これは学生としては放課後友達や恋人などと通いやすい距離だと考えております」
そしてまたしてもスクリーンの映像は変わる。
「そこで私は施設の手前半分のみを先に工事し開園することを提案します!」
神宮寺の提案にその場にいた幹部たちは驚く。鷲もまた神宮寺の提案をかなり面白いと感じていた。
「なるほど、大手テーマパークの歴史に習うのか」
「その通りです」
鷲の言葉を聞いて?になる幹部たちだが神宮寺が認めたことで更に驚く。
「若様、それはどういう事でしょうか。不肖な我らにどうかお教えいただけないでしょうか」
充が鷲にそう聞いてきたのでちょっとばかし神宮寺に申し訳ないと思いながら鷲は椅子にもたれかかり説明する。
「日本にある二大テーマパーク、その二つはお互いに開園当初、いくらかの土地を残して開業した。そして、徐々にその土地を開発していき、新しいエリアを開発することで話題性を持たせ集客を行った。つまりあいつが言いたいのは集客する余地を残すと言うことだ」
「流石です。まさか何も説明せずに言い当てられるとは」
「まあこれぐらいはな」
本当はまだ理由はあるがな。(新しいエリアの開業は抜群の話題性を持つ。その分失敗はできない。なので開発途中で開業するのではなく、最初は全く手を付けず、することで費用の削減と開発途中の苦渋の開園と言うレッテルを割けることができる。また最初からの開発だから、開園してからの集計データをもとにエリアの開発ができる。また)
「だがこの提案にはもう一つ利点がある。まあ俺らへの利点ではないがな」
「……!?まさかそこまで言い当てられているとは…本当に恐れ入ります。その通りです。これは委託先への配慮でもあるのです」
「配慮だと…?」
幹部の1人がそう言葉を漏らした。鷲と充、そして少し遅れて気づいた翡翠以外がそう思った。
「はい。先ほど説明した通り、委託してきた相手会社の予算が多くありません。これはそれをカバーし、負担を減らして、更に開園した後の収益をもとに更に開発ができ、コストが低いことが利点で相手への配慮、ステークホルダマネジメントをできていると考えています」
神宮寺の説明を聞いて幹部の全員が関心を示した。更にあの充さんまで満足そうに頷いていた。
そういう俺はだが、手元の資料を見ながら中々やると感じた。施設のことだけではなく、周りの環境や客層やの視点の広さ、さらに学生をメインにした収益モデル、そして相手会社への配慮、たった20代の若手が考えることにしては手が込み過ぎて疑いたくなるレベルだ。
そしてそのまま神宮寺のプレゼンは進んで行った。
「以上を持ちまして私のプレゼンを終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました」
神宮寺は一礼してプレゼンをしめた、そしてその場にいた全員が彼に向かって拍手を送った。
「桜花さんには悪いがこれは彼の提案で決定だろう」
「そうですね。ここまでの計画書を作ってくるとは思いませんでした」
「流石は我が部の期待のホープと言ったところですね」
会議室は完全に神宮寺優勢の空気になってしまった。
「充さん、少し休憩を挟もうか、ちょっと空気が悪くなって来たから換気も兼ねて」
「わかりました。これより一度休憩を挟む」
翡翠の発表の前に一度休憩を挟む。
幹部たちは席を立ち休憩をしに行った。
翡翠も空気を吸いに外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます