鮫フードちゃんとフカ・ボルグ
Li'l Hatter
それは奇妙な出会い
みらーい、みらい。とあるネオホノルルに、家庭用ロボの少女とその生みの親であるブタ族のトンマス博士が暮らしていました。
家庭用ロボの少女は、トンマス博士に買ってもらった鮫フード付きのパーカーが超お気に入りで、外出時はよく装備しています。その影響もあってか、近所の住人からは"鮫フードちゃん"と呼ばれていました。
そんなある日、鮫フードちゃんはリビングの部屋で朝食を食べていると、トンマス博士が慌ててこちらへ駆け寄ってきてこう言います。
「大変だ〜! 僕の兄貴が痔になってしまった!」
と、告げられた鮫フードちゃんは平静を装いながら、ナット入りのマラサダを一口入れて30回噛み、飲み込んだ後に「what!?」と驚きのフレーズを放ちます。
「自分はこれから学会に行かなくちゃいけないから、悪いけど僕の代わりにこれを届けにいってくれるかい? 頼む!」
そう言ってトンマス博士は懐から痔の薬とサメ映画の円盤を取り出して、鮫フードちゃんに手渡しました。
「了解であります! このサメ映画の円盤もお兄様にお渡しすればよろしいのですね?」
「うむ。サメ好きの兄貴にそれを見せたら、きっと元気になってくれるはずだ!」
「あはは……(多分見た後に後悔する奴だ)」
鮫フードちゃんは苦笑いしながら、博士に手渡された痔の薬とサメ映画の円盤をスペアポーチの中に入れます。
「あ、そうそう。出かける前に一つ言っておきますが、街を徘徊する悪いロボには用心するんだよ。話しかけられたり、寄付金を要求されても無視して逃げるようにね」
「わかりました! それでは行ってまいります、トンマス博士!」
「行ってらっしゃい!」
鮫フードちゃんはトンマス博士に敬礼をしてから出かけました。
*
「今日もいい天気だね〜」
ネオホノルルのワイキキエリアにて、鮫フードちゃんは目的地へ向かう道すがら、半グレロボたちに絡まれて困っているトリ族の鶴を目撃しました。
(おや? 何やら穏やかじゃない雰囲気……)
鮫フードちゃんはすぐさま肩にかけたスペアポーチから竹槍を取り出し、それを使って半グレロボたちを威嚇しました。
「「「ひぃ〜! 覚えてろよー!!」」」
竹槍を恐れた彼らはそそくさと立ち去りました。
「お怪我はありませんか?」
「ええ。助けてくれてサンキュー☆ ウチは、トリ族の
「私は家庭用ロボの鮫フードちゃんと申します。趣味は時代劇鑑賞です! よろしくお願いします!」
鮫フードちゃんと、千鶴はお互いに挨拶を交わします。
「ねぇ、何か一つ恩返しをさせてくれないかしら? 例えばサメバズーカが欲しい〜とか」
「いえいえ、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます! それでは、私は急用がありますので、これにてアロハです!」
そう言って鮫フードちゃんは、千鶴にお辞儀をした後に走り去りました。
(……ほう、急用とな)
*
〜それから20分後〜
「お兄様のお家へ到着!」
トンマス博士の兄宅(室内面積1450平米)に到着した鮫フードちゃんは、門柱に設置しているインターホンを押します。しかし、応答がありません。
「留守なのかな……おや?」
ふと玄関アプローチの床を見てみると、狼のような細なが〜い足跡がついた痕跡を見つけました。
「むむっ!? この足跡はひょっとするとのもしや……ごめんください!」
異変に気づいた鮫フードちゃんは、急いで玄関ドアを開けると、その足跡は玄関ホールの床からその先まで続いていました。
「……足跡を辿ってみよう」
そう呟きながら、その足跡を追うと、リビングルームの入り口の前にたどり着きました。さて、この扉を開けた先に一体なにが待ち受けているのか? 恐る恐る扉を開けて見ると……
『ガハハッ! ウェルカム!』
そこにはなんと、狼の姿をした巨大な怪物が待ち構えていました。
そんな恐ろしい光景を目の当たりにした鮫フードちゃんは思わず「デカッ!!」と喚きます。
『お前は一体誰だ? と言いたげな表情をしているから名乗らせてもらうぜ。 俺様の名はフェンリル。ラグナロク時代に英雄オーディンを飲み込んだ狼さ!』
「えっ、でもフェンリルって確か……遥大昔に、オーディン様の息子さんに倒されたはずじゃ……」
『残念だったなぁ、生存ルートだよ』
鮫フードちゃんの問いにフェンリルは嘲笑いながら答えます。
「ふざけないで! トンマス博士のお兄様は今どこにいるの!」
『そいつならさっき、ロコモコにして食ってやったぜ!』
「なんて酷いことを……許せない!」
トンマス博士の兄を調理して食べたことを暴露するフェンリルに対して、鮫フードちゃんは激怒し、肩にかけたスペアポーチから竹槍を取り出して反撃をしました。しかし……
「でりゃあぁーっ!」
──キンッ! キンッ!
どれだけ竹槍で突いても、フェンリルの身体にはかすり傷一つつきません。そしてとうとう……
──ボキッ!
竹槍の先端が折れてしまいました。
「あぁ〜、私の竹槍がぁぁ〜!!」
『ガハハッ! もうおしまいか? なら次は俺様のターンだぜ!』
「ぐぬぬっ……」
最早ここまでか……と悟った鮫フードちゃんは、北を向いて座り、折れた竹槍でハラキリをしようとした瞬間──ピンポーン!っと玄関のチャイムが鳴りました。
『チッ、このタイミングでセールスか?……おい、俺様の代わりにお前が応答してこい。殺るのはその後だ』
「……」
フェンリルの命令に、鮫フードちゃんは渋々と立ち上がり、玄関先のドアを開けに行きまます。
「どちら様ですか?」
玄関のドアを開けると、そこには鍛治屋の千鶴が立っていました。
「アロハ〜♪ 先ほど助けて頂いた、鍛治屋の千鶴ちゃんでーす☆ 」
「千鶴さん!? なぜ私がここにいるのがわかったんですか!?」
鮫フードちゃんは驚きながらそう言うと、千鶴はドヤ顔で答えます。
「実はさっき、探偵のハヤブサに恩人探しの依頼をお願いしたの。そしたら調査からすぐ帰還して、『鮫フードちゃんの居所はここだ』と教えてくれたのよ」
「さ、左様でございますか……」
何がなんでも恩返しをしたいという千鶴の強い意志のこもった眼指しに鮫フードちゃんは圧倒されました。
「てな訳で……はいこれ、遠慮なく受け取って」
そう言って千鶴が渡してくれたのは、大きな発泡スチロール製のボックスでした。
「わぉ!? 随分と大きなボックスですね」
「ええ♪ 中身はウチが作った最高傑作が入ってるから、大切にしてね☆」
「はい、ありがとうございます! この御恩は必ず返しますね!」
「ふふっ、それだとまた貴方に恩返しをしなくちゃいけなくなるわね。それじゃね〜」
双方共に別れの挨拶を済まし、千鶴はセグ◯ェイに乗って走り去って行きました。
*
『ガハハッ! 逃げずに戻ってくるとは、少し見直したぞ!』
リビングルームへ戻ってきた鮫フードちゃんの姿を見たフェンリルは、不敵に笑うのも束の間、彼女が持ってきた大きな発泡スチロール製のボックスを見た途端に、真顔の表情に変わりました。
『……おい、なんだそのボックスは?』
「これはついさっき、自宅訪問にきた方から頂いたものです」
『ほぉ……ちょっと貸してみろ!』
そう言って鮫フードちゃんの持つボックスを強引に奪い取り、蓋を勢いよくガバッ!と開けました。すると……
・・・・・・?。
🦈🐺
「アロハっす」
『サ、サメェェェェエエエエ!!??』
びっくら仰天、ボックスの中身はなんと、ホオジロザメが入っていたのです。
『ひぃいいいゃーーっ!! サメがしゃべったぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
恐怖に打ちひしがれたフェンリルは、サメの入ったボックスを壁に向かって投げ飛ばしますが、それを鮫フードちゃんが上手いことキャッチしました。
「お怪我はないですか?」
「ああ……お前が俺のマスターか?」
「はい。私は鮫フードちゃんっていいます」
「いい名だ。俺はフカ・ボルグ。今後とも宜しくな、鮫フードちゃん……!」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね、フカ君!」
鮫フードちゃんとフカ・ボルグは笑顔でハイタッチを交わします。
『出会ってすぐ意気投合しやがって……! サメハンターが現存していたら、きっと奇異の目で見られるだろうよ……』
と、強気な発言をするフェンリルですが、声が震えています。
「おいおい、緊張して声が震えてるぜ? もしかして、ひよってんの?」
『ひ、ひよってなんかいねぇ! 誰がサメなんか、サメなんか怖かねぇ!……野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!』
フカ・ボルグにdisられたフェンリルは、怯えた表情から憤怒の表情に変わり、雄叫びをあげながら鮫フードちゃんらに向かって襲いかかって来ました。
「来やがったな! 鮫フードちゃん、遠慮は無用だ! 今すぐ俺の
「がってん承知の助です!」
鮫フードちゃんは、彼の指示通りに尻尾を掴み、「チェストォォー!!」の掛け声と共にフカ・ボルグをフェンリルに目掛けて投げ飛ばしました。
──ビューーーン!!
🦈三三三三三三
『ガハハッ!! たかがサメごとき、丸呑みにしてくれる!』
勝気な台詞を吐くフェンリルは、口を大きく開き、向かってくるフカ・ボルグを飲み込もうとします。すると次の瞬間──
──シュババババババババッッ!!!
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三🦈三三
なんと、フカ・ボルグが30本のサメに分裂して降り注いできたのです。
「『増えたぁぁーーーっ!!??』」
予期せぬ展開に、鮫フードちゃんとフェンリルは口を揃えて驚きの声を上げます。
そして30本に分裂したフカ・ボルグはフェンリルの身体を突き、体内から30本のサメが
ニョキっと顔を出して炸裂しました。
『ウウウウウォォォ……オォォゥ……アァァ』
断末魔の叫び声をあげるフェンリルはその場で床に崩れ落ち、そのまま消滅しました……
そして分裂したフカ・ボルグが元の1本に戻り 、
──ビューーーン
三三三三🦈
↓↓↓
──パシッ
三三三🦈🫷🏻
鮫フードちゃんの手元に戻りました。
「しゃおらーっ! 俺たちの勝利だぜ!」
「お疲れ様です! フカ君の分身攻撃、NINJAみたいでカッコよかったですよ!」
「おう、あんがとよ! 鮫フードちゃんもいい投球フォームだったぜ! 」
「えへへ〜、それほどでもないですよ〜」
1人と1匹は互いに褒め立てます。
(……天国のお兄様、仇を取りましたよ)
心の中でそう呟いた鮫フードちゃんは、そっと上を見上げました……。
*
トンマス博士の兄の死から数週間後。
鮫フードちゃんとフカ・ボルグは、ネオホノルルの記念公園内で兄のお墓参りをした後の帰り道に、千鶴が営む鍛冶屋へ寄りました。
「「アロハ〜♪」」
「あら、鮫フードちゃんにフカ・ボルグ君じゃない。久しぶり〜、アロハ〜♪」
三者共に挨拶を交わすと、鮫フードちゃんは千鶴に感謝の言葉を述べました。
「千鶴さん、この間は本当にありがとうございました!」
「いえいえ、ウチも君に助けて貰ったことがあるから、これでおあいこよ」
千鶴は笑顔の表情で答えます。
「あっ、そういえばあれからフカ・ボルグ君とは仲良くやってるの?」
「はい! 最近はフカ君と一緒に映画館に行ったり、近くのビーチでサンドアートを作ったりして遊んでいました」
「そうそう。一緒に安土城のサンドアートを作って楽しかったよな!」
「ええ、我ながらいい出来でしたね♪」
鮫フードちゃんとフカ・ボルグは楽しい思い出を振り返ります。
「うふふっ、充実した日々を過ごしてるみたいね。お姉さん、フカ・ボルグ君をプレゼントした甲斐があったわ〜」
「本当に感謝してます! じゃあ次は私が千鶴さんに受けた恩を返す番ですね♪」
そう言って鮫フードちゃんは、肩にかけたスペアポーチからサメ映画の円盤セットを取り出して、千鶴に手渡しました。
「こ、これは……ハラキリシャークの円盤セット!? よくウチがサメ映画好きだってわかったわね!」
「はい。実はこの前、フカ君に千鶴さんの欲しがってる物を聞きまして。それで市場に行ってその円盤を購入したんです♪」
「なるへそね〜、ありがとう! これ大事にするわね!」
と、言いながら千鶴は大事そうにハラキリシャークの円盤セットを抱えます。
「へへっ、欲しいものが手に入ってよかったな〜、おふくろ〜」
「ちょっ、 誰がアンタのお袋よ! そこはお姉さんと呼びなさい!」
「「「ハハハッ!」」」
こうして、この奇妙な出会いから生まれた友情はこれからも続いていきましたとさ。
お し ま い🦈
☆おまけ【主要キャラ一覧】
名前:鮫フードちゃん
年齢:14歳
種族:家庭用少女型ロボ
製作者:トンマス博士(ブタ族)
身長:158cm
髪型:ミディアムヘアー(茶髪)
趣味:時代劇鑑賞、サンドアート、将棋、ビーチバレー、ネオジャパニーズ忍者ごっこ
好物:ナット入りのマラサダ、ギアおにぎり
【概要】
ネオ日本文化が大好きな家庭用少女型ロボ。服装はトンマス博士に買ってもらった鮫フード付きのパーカーを着用している。義理人情に厚く、困っている動物やロボットたちを見ると放っておけない性分。初期装備が竹槍なのは、映画:七◯の侍を見た影響から。
神器名:フカ・ボルグ
武器種:槍
年齢:?歳
製作者:鍛治屋の千鶴
趣味:時代劇鑑賞(鮫フードちゃんの影響)、サンドアート、オセロ、サーフィン、ネオジャパニーズ忍者ごっこ
好物:シェイブアイス
【概要】
鮫フードちゃんの相棒。陽気で明るい性格で、滅多なことではネガティブな言葉を口にしない陽キャサメ。ちなみに浮遊しながら移動ができる。
名前:千鶴
年齢:秘密
種族:トリ(♀)
職業:鍛冶屋
趣味:サメ映画鑑賞、武器制作、素材集め
好物:コーン缶、牡蠣
【概要】
ネオホノルルのワイキキエリアで鍛冶屋を営むトリ族の鶴。武器の作成時はサメ映画を鑑賞しながらやるらしい。
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