閑話 日本人の名前
「ノーミエイザベラ」
「メウノーミエアドリアーナ」
「ノーミエアナマリーア」
「マリアエドワルダ」
「マリアルイーザ」
「マリアラウア」
ちょっと待って!ちょっと待って!ちょっと待って!えーっと、ノーミが名前なので、今現在、皆さんの名前を言われているわけですが、何?何?何?ブラジル人の名前、全然頭に入って来ないんですけども!
それにしたってですね、マリアなんとかかんとかがやたらと多いんですって!聖母マリア様の名前ともう一つの名前をくっつけるような形が流行しているとか何とからしいんですけども、えーっと、本当に、マリアなんとかが多過ぎて訳わからないです〜!
「クワウセウノーミ?(あなたの名前はなに?)」
「珠子」
「ウケ?(何?)」
「たまこ」
「ウケッ?」
「た・ま・こ!ノーミたまこ!」
「ノッ!」
驚愕した感じでの『ノッ!』が出ましたよ〜。これは『ノッサセニョーラ(ああ!マリア様!)』の短縮版で、ブラジル人は驚くととにかく、
「ノッ!」
って、言うんです。
私の名前は珠子、たまこですよ、たまこ。だけど、この名前を誰に言っても、
「エベルダージ?(本当に?)」
「ノッサセニョーラ!」
あ、また出た、ノッサセニョーラ。というわけで、顔をクチャクチャにされながら、何でそんな名前なの?みたいな感じで見られるんですね。
珠子っていうのは父方の祖母が玉のような子に生まれた私に名付けてくれたものなのですが、これがブラジルに来ると世にも恐ろしい名前となることを私は知りませんでした。
ブラジルではポルトガル語が公用語として使われているんですけれども、コはブラジルでは『ケツの穴』っていう意味になるんです。いや、嘘じゃなくて本当に。
悪いはマウ、タもしくはエスタは状態を表すんですね。そこで考えてみてください、私の名前は『たまこ』です。ブラジル的に言うのなら悪いケツの穴・・
「ノッ!(サセニョーラ!ああ!マリア様!なんてこったい!状態ですよ!)」
ちなみに、私の姉は増子なのですが、マス(でも、だけど)コ(ケツの穴)意味わからんというか、やだな〜。
ちなみに『さとこ』も日本人的には良くある名前なんですけれども『カエルのケツの穴』というような意味になります。コは〇〇の穴ということは分かったと思うんですけども、カエルはポルトガル語で『サッポ』って呼ぶので、耳障り的に『さとこ』は『カエルのケツの穴』になっちゃうんですね。
『こ』がつくと、何でも〇〇の穴的なものになっちゃうんですかね。『あい』はブラジルでは『アイッ(痛っ!)』っていう意味になっちゃうので『あいこ』さんは、痛いケツのあなになっちゃうんですかね。うう〜ん、もう、考えたくない!頭が痛くなってきた!
まあ、そんな訳で、ブラジル人は私のことを呼ぶ時には、
「タマチャ!」
と、呼びます。日本人の中には私のことを『珠ちゃん』と呼ぶ人もいるので、その呼び方を聞いて落とし所を見つけたみたいです。そらもう、口に出すのも恥ずかしいっていう名前だったんですものね。ええ、ええ、よく分かっておりますとも。
「マッ!」
我が同郷の友である神原松蔵さんは『マツ』と呼ばれるようになりました。男の人にはコがつかないからいいですね。
「ノッサセニョーラ!エリエカサドールインクリーベル!」
ええ〜っと、彼はすげ〜猟師だって言われているみたいです。
そりゃそうでしょうよ・・
農場に移動をして来て半年が経ち、珈琲の収穫も終わってひと息もふた息もついた頃、松蔵さんは休みの日となると猟銃を担いで山の中に籠るようになっていたんですよ。
ブラジルの山っていうのは日本みたいに杉や欅の木が規則正しく植林されていないし、標高は低いし波のように連なっているし、木々は幹が細くって、藪の方が多いんじゃないのかなっていう感じなのですけども、蛇とか猿とか野犬とかカピバラなんかが多い場所に潜り込んだ松蔵さんは、それはそれは大きな豹を撃ち殺した上で担いで降りて来たんですから。
いや、知っていますよ?松蔵さんが奥多摩でも猪とかを狩猟していたのはね、知っていたんですけども、普通豹を狩猟してきます?
「ノッサセニョーラ!」
驚くことに、松蔵さんは撃ち殺した豹の皮を鞣して敷物状態にしちゃったんですよね。それを農場主(パトロン)にプレゼントしたんだから驚きですよ。松蔵さんのお父さんは剥製にするのが本当に上手で、雉を剥製にしては金持ちに売っていたのは知っていましたけども、毛皮とか作れちゃうんですね。
「インクリーベル!」
すっご!すっご!すっごーい!ってことになるんですけども・・このオンサがその後、ギャングを引っ張り出す原因になるなんて、その時には誰も思いもしませんでした。本当に世の中って、何がどうなるか分かんないものですよね!
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ブラジルでも名前の流行というものがあるんですけど、昔、マリア様の名前にもう一つ名前をくっつけた名前が流行して、再び、私が住んでいる時にも流行して、マリアラウラ、マリアエドアルダ、マリアルイーザ、マリアなんとか多過ぎてわけわからーんとなりました。ちなみに「もちづき」は「モチモチ」ブラジル人的にも「もちづき」は聞き取りづらい言いづらい。最後に子がつく名前も、意味めちゃくちゃ悲惨になるんです。これもブラジルあるあるで、「ウケ?(何?え?)」みたいに聞き返されます。ちなみに子供の「ウケ?」は非常に可愛く聞こえます。
ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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