ツイン・ソウル〜承〜
愛子
名もなき村
「まだ寝てんのかよ。さっさと行かねーと村長にまた怒られるぞ。」
んあ?
と声をあげ目を覚ます少女。
すぐ目の前にある青い瞳にハッとなる。
「アラシ!え!?そんな時間!?」
少女が慌ててベッドから飛び起き、アラシと呼ばれた綺麗系イケメン少年は跳ね飛ばされる。
「いってー…。いい加減、自分で起きれるようになれよなクロス。」
ごめん、ごめん
と軽い口調で謝るクロスと呼ばれた少女。
寝癖だらけのミルクティー色の髪を整える事もせず、慌ててアラシの前で着替え始める。
小さな頃から一緒に育った二人故に、年頃になっても変に意識する事がないようだ。
いや、それはクロスだけか。
お互い15歳という年頃であり、アラシの方は無防備に着替え始めるクロスからすぐに背を向けた。
見てはいけないと思った。
「あぁ…でも今日は魔法の勉強かぁ…剣術の割合少なすぎるよ〜。」
着替え終わったクロスは髪を無造作に束ね、背を向けるアラシの背中をポンッと叩く。
準備完了の合図だ。
「クロスぐらいだもんな、魔法使えないの。まぁ、俺様的には父ちゃ…村長の教えくらいじゃ物足りねーけどな?」
「でた、嫌な感じ。」
二人は笑いながら部屋を出た。
「二人共遅いわっ!!他の子ども達にはもう今日の課題の説明は終わったぞ!!」
村の隅にある広場で村長からのお叱りを受けるクロスとアラシ。
毎日この場所に村の子ども達は集められ、自衛の為の術を村長から教わっていた。
この村は森の中に存在する隠れ家的な村である。
村長が最初にこの地に住み始めたのだが、後から後から自国から逃げ出してきた人達が不思議と集まり、いつのまにか小さな集落となっていた。
故にこの村には様々な国の人達が住んでいるのだが、皆家族のように暮らしている。
色々な事情があって集まった人達。
自然と助け合う心があった。
村長はある程度のお叱りの後、二人にも今日の課題の説明をする。
今日の課題は
火の魔法をもっと操れるようになろう
だった。
まだ10歳にも満たない子ども達にも、生活に必要な火の魔法は早く体に覚えさせるようにしている。
あくまで自分が生きていく為に必要な力を身に着けさせたいと村長は考えているので、対戦闘用の魔法を教える事は一切無かった。
子ども達の中にはもちろん魔法が苦手な子もいる。
得意不得意はあれど魔力は皆の中に必ず存在しているものなので、得意な魔法を見つけて上手く伸ばしてあげたいとも村長は考えていた。
だから、火の日、水の日、回復の日など分けて指導している。
のだが…クロスだけは何を使わせようとしてもダメだった。
魔力は確かに感じられるのだ。
しかし、クロスはそれを上手くコントロールすることができない。
魔法の本家とも言える国で育った村長ですら、クロスの魔力の引き出し方がわからなかった。
「俺、感覚派だから教えらんないんだよね。」
火のレベルではない炎の柱を作りながら、苦戦しているクロスに声をかけるアラシ。
アラシの魔法の扱い方は村の大人達ですら敵わないくらいのレベルなのである。
正直、課題はいつも簡単すぎてつまらない。
「私も感覚派だもん。運動面では。でも魔法はまるでダメ。イメージは出来ても身体が反応しない。意味がわからないもん。」
アラシは炎の柱から炎の玉に変え、ジャグリングのようにクルクルと回し始める。
小さな頃から無意識で魔法が使えた。
訳あって村長にずっと育てられたアラシだが、突然発動される魔法に大変苦労したらしい。
「クロスは剣を握らせたら別人になるもんね。空気が変わる。さては……誰か殺った?」
「殺ってない!!」
クロスの集中が一気に切れる。
「ところでクロスさん、そんな君の腕を見込んで今夜一旅どうだい?」
アラシはジャグリングを続けながら、遠くで他の子どもを指導する村長を横目にヒソヒソ声で話しかける。
「明日はお休み日だもんね。行く行く。今日はどこ行くの?」
クロスはその場に座り込み、休憩の姿勢をとる。
「また考えとくよ。夜迎えに行くわ。」
コラーッ!
と村長の声がして二人は話を終え離れた。
アラシの魔法に子ども達が群がる。
尊敬の眼差しが嬉しく次々と魔法を披露する。
反対にクロスは、あいかわらずいくら集中しても手の平から火を生み出すことは出来なかった。
魔法が使えないことで叱られることはないが、小さな子どもですら扱える魔法をまったく使えないのはなんとも言えない気持ちになる。
「おかえりなさい、クロス。」
シチューの良い匂いのする自宅では、12歳上の姉のミレがクロスの帰りを待っていた。
クロスとミレは二人でこの村で暮らしている。
クロスには小さな頃の記憶は無く、一番古い記憶ではもう二人でここに住んでいたので親の記憶も無い。
だが、様々な事情がある家庭ばかりの村なので自分に親がいないことなど全く気にもならなかった。
毎日、姉と仲良く二人で生活している。
幸せなのだ。
ミレは日中は村の中で働いている為、寝坊助クロスと一緒にいれる時間は主に夕方以降となってしまう。
食事の時間は今日あった事の報告会。
とはいえ、いつもクロスが話してばかりでミレは優しく頷いて聞いていた。
肯定の達人である。
「クロスは魔法を使えるようになりたい?」
そんなミレからの珍しい質問だった。
「ん~~私だけ使えないのはちょっと寂しい気はする…。けど、剣術の方が楽しいし無理に使えなくてもいいかな。」
クロスは口にシチューを美味しそうに頬張る。
「そっか。魔法が使えなくても出来ることがたくさんあるもんね、クロスは。うん、そうだよね。」
なにやら珍しいミレの反応がクロスは不思議に思った。
珍しく歯切れが悪い感じ。
何か…知っているというか…。
でも、まあいっか。
が、クロスなのである。
話を今日の村長の話に戻す。
村長モノマネが得意なクロスは、今日のお叱り内容をモノマネでミレに伝える。
ミレは声を上げて笑ってしまう。
今日も平和な一日である。
「なぁ、アラシ。大事な話がしたい。」
夕食後、村長が改まってアラシに話かける。
村長の顔つきがあまりにも真剣なので、たまに夜に家を抜け出してるのがバレたのかもと頭をよぎる。
アラシは黙って村長の前に座る。
「お前、この村の裏手にある祭壇を知ってるな?」
やはりお見通しだった。
「あそこの扉の中には入ったことあるか?」
アラシはフルフルと首を横に振る。
以前、クロスとその場所に行ったことはあるのだが、祭壇の雰囲気が少し独特で不気味に思い近寄らずに帰ってきた。
「そうか。あそこには魔法で鍵をかけてあるのだが、お前なら簡単に中に入ることができるだろう。お前には一度その中にある像をしっかりと目に焼き付けてきてほしい。」
「肝試しかなんかの話?」
「いや…。なんとなく今日話さないとなって思ったんだ。……。今からだな。今からさっそく行ってこい。」
今から?
と、アラシは思ったがどうやらふざけている訳ではないらしい。
「わかった。いつも村を出るなっていう父ちゃんが珍しいね。クロス誘って行ってくる。」
「怖いのか?」
「怖くねーし!!」
アラシは普段クールキャラだが、父と呼ぶ村長の前では年相応の少年だった。
すぐに準備をしアラシは家を出る。
「父ちゃん…か…。オレは実際に血が繋がっている訳じゃないが…嬉しいもんだよな。すまんな、姉ちゃん。」
残された村長が呟いた。
「と、言うわけでクロスと行ってきます。」
クロス家にて事情を説明しミレの了承を得に来たアラシ。
ちょっと一人じゃ不安なのが正直な所。
アラシは暗い所が怖かったり、ホラー系は苦手なのである。
ただ、冒険心は強い。
幼馴染のクロスは反対にホラー系に恐怖心がないので最高の相棒だった。
「アラシとなら心配しないわ。いってらっしゃい、クロス。」
村から少し出た場所ではあるが森の中であるし、村長が行ってほしいと言っている、アラシとなら大丈夫と本当に心配がなかった。
シチューでお腹の膨れたクロスは少し体が重かったが、アラシの怖がりな性格をよくわかっていたし、村長さんからの指令ということで、まあいいかとついていく事にした。
そんな離れた場所ではないし、お互いすぐに帰って来るつもりだった。
「お姉ちゃん、行ってきます。お姉ちゃんモテモテなんだから、一人の家で気をつけてね。」
クロスは笑って家を出た。
ミレは
大丈夫
と笑って返した。
村の外は一面木々。
すっかり日が落ちて真っ暗な森の中。
ちょっとアラシの足が竦む。
外に出たがる癖に最初はこうなのだ。
カサカサと自分の足音が他人のものに聞こえたり、風で揺れる木々の音が誰かの泣き声に聞こえたり。
面白い事にしばらくはアラシがクロスにビタッとくっついて離れない。
アラシの出した魔法の光を頼りに進んでいくが進みは遅い。
祭壇までは少しだけ距離がある。
クロスは鼻歌を歌いながら歩き、アラシの恐怖心を取っ払ってあげようとしていた。
たまに村長のモノマネをすると、ちょっと笑ってた。
祭壇は花に囲まれている。
祭壇とは言え、今までに何か祭り事を行った記憶は二人にはない。
そんなに古さは感じられないが、一体いつから存在しているのだろうか。
何の目的で?
その答えが中にあるとはわかっているが、アラシの足の進みは遅かった。
怖いもんは怖い。
「これ、魔法で作ったような感じするね。ん~~この造り方…村長な感じがするなぁ。」
クロスは冷静に分析していた。
魔法を使えないクロスだが、その分他人の能力をしっかりと目に焼き付けてきた。
いつかトレースする為に。
「父ちゃんが?………あ、たしかに。父ちゃんの力を感じるけど…違う力も感じるな。なんか…懐かしいような…。」
村長の力を肌で感じ取り恐怖心が晴れ、急に元気になるアラシ。
クロスから離れ、祭壇にある扉に近づく。
懐かしい力を感じる方へ吸い寄せられるようだった。
アラシが扉に手を伸ばした瞬間、二人は急な目眩を覚えた。
いきなりグルグルと周り出す視界。
知らない感覚にはクロスも不安を覚えたが、すぐにその意識は奪われ、二人はその場に倒れ込む。
冷たい感覚。
少し肌寒さを感じる空間。
アラシが目を覚ますと、辺り一面真っ暗闇の中にいた。
慌ててクロスを探すが、すぐそばにクロスの存在は感じられない。
アラシ?
懐かしいような声が聞こえ、ハッとなり光の玉を召喚するアラシ。
闇に光が広がる。
アラシのすぐ目の前にあったのは若い女性の石像だった。
少し錆びれたそれは、建物とは違い歴史を感じさせるものだったがやはりアラシはどこか懐かしさを感じる。
自分の記憶には全く無いのだが。
「アラシなのね。大きくなっちゃって…。」
声はハッキリと石像から聞こえる。
「お父さん似でイケメンさんね。」
父親似?
自分と村長は全く似てないとアラシは思った。
「あの人、あなたを大切に育ててくれたのね。アラシ…信じられないような現実の話、聞いてくれる?」
と聞こえると石像は眩しい光を放ち、アラシの脳裏にその石像の女性が生身の姿で現れる。
アラシと同じ真っ暗な髪をしたその女性から感じる力が、先程の懐かしさを感じた力と同じモノだと理解した。
その少し年上そうな女性からの話は驚かされる内容のものばかりで、すぐにアラシは納得することはできなかった。
そんな事よりも姿が見えないクロスの事が心配でならなかった。
「あら、あの子が気になるのね?大丈夫。ちゃんとあたいが守ってるから。」
女性は何かを察したようにアラシに微笑みかける。
「な?語弊があるよ、語弊が!大事な幼なじみなんだよ。」
慌てるアラシを可愛く思った女性はアラシを抱きしめる。
やっぱり何だか懐かしい力は感じる。
異性としての恥ずかしさを一切感じさせず、安心感がアラシを包んだ。
言葉に嘘が無いのはわかる。
クロスはきっと無事だろうと素直に思えた。
安心感の中、再びアラシの意識はゆっくりと奪われる。
「何があっても生きるのよ。あなたは皆が幸せを願って産まれてきた子なんだから。」
薄れゆく意識の中、彼女の最後の言葉が頭に響いた。
ありがとう…母…ちゃん…。
どれくらい二人は意識を失っていたのだろうか。
次にアラシが目を覚ました瞬間、すぐ目の前にクロスの寝顔があってドキッとした。
手に感じるぬくもり。
クロスはアラシの手をぎゅっと握りしめたまま眠っているようだった。
なんだか恥ずかしくて手を離そうとするのだが、離そうとすればするほど強く握り返される。
小さな頃からそうだった。
男と女、立場が逆なのでは?と思われてしまうかもしれないが、アラシに何かあった時いつもこうやってクロスはアラシの手を握りしめて離さなかった。
まだ魔法を上手くコントロール出来ない子どもの頃は泣き虫だったアラシ。
いつも手を引いて慰めてくれていたクロス。
子どもの頃の懐かしい感覚に包まれていたが、ふと鼻に入った匂いに飛び起きる。
何かが焼け焦げる匂い…。
アラシが村の方角に目をやると、そちらの方角が赤く染まっているのがわかった。
村が…燃えてる!?
緊急事態を察したアラシはクロスを叩き起こす。
幸せな夢を見ていたクロスは急な現実に戸惑いながらも指された方角に目をやる。
心なしか熱い。
ハッとクロスも現状を理解した。
二人は目を合わせ一気に走り出す。
しかしおかしい。
村には水の魔法が使える人間達がいる。
村長の魔力もなかなかに素晴らしいものだ。
なのに村中が燃えているように見えるのは何故なのか。
嫌な予感がした。
焦げた匂いと共に、自らの喉も灼かれるような煙が広がっていく。
村中が火の海だった。
不審火で起こるレベルの火災ではない。
悪い視界の中倒れている人達の姿も見えている。
いったい何があったのだ。
二人はより一層慌てて自分達の自宅に向かう。
クロスの家は奇跡的にまだ炎が移っていなかった。
しかし、ここまでにミレの姿が見えなかった。
何かあれば村の為にすぐに動く人のはずなのに。
嫌な胸騒ぎの中、クロスは自宅の扉を勢いよく開ける。
バンッ空いた扉の音に反応した人物は二人いた。
体のあちこちから血を流すミレと…見知らぬ男。
見知らぬ男はクロスの顔を見て何かを確信したように見えたが、そんなことどうでもいいクロスはすぐにミレに駆け寄った。
明らかに故意に傷つけられた傷があちこちに広がっている。
早く止血をしないと…。
クロスはこの時ほど自分の無力さを呪った事はなかった。
もしも自分が今魔法を使えていたら…。
回復魔法が使えたら…。
「そういう事か…。すぐにブレス様に伝えよう。じゃあ…さようなら、ミレ。」
男がミレの名を呼んだかと思うと、テレポート能力により一瞬で姿を消した。
クロスがまったく知らない存在だった。
「クロ…ス…いいから逃げなさい、早く…。」
ミレは激しい呼吸と共に言葉を吐く。
体から流れ出る血が止まらない。
「お姉ちゃんも一緒にだよ!待ってて、誰か呼んでくるから!」
一人ではミレを運び出す事はできない。
「貴方は…逃げなきゃいけないの…ここにいてはダメ…。私は大丈夫だから…先に村を出ていて…ね、クロス。」
この体で動ける訳がなかった。
「なんで!?」
「クロス!」
自宅の扉が再び開かれる。
駆け込んできたのはアラシだった。
「ミレさん…クロスは俺が絶対に守りきってみせるから。」
傷だらけのミレが助からないのは目に見えた。
アラシは回復魔法が得意ではない。
焼け石に水で自分の魔力を消費するだけになる。
「ありがとう…アラシ…頼むわね。」
ミレは精一杯の笑顔を見せる。
家から無理やり連れ出そうとするが、クロスは絶対に嫌だと激しく抵抗をする。
「クロス…わかって…。貴方に生きてほしくてこの村に逃げてきたの…。貴方に生きてもらわなきゃ…私の使命が無に帰すのよ…。」
使命?
クロスには理解出来ない。
「貴方は私の妹じゃない…貴方から家族を奪ったのは私なのよ…。」
その言葉でクロスが停止する。
家族を奪ったうんぬんではなくて、自分達が姉妹ではないことが衝撃だった。
ただその言葉の半分はクロスをこの場から離すための嘘だった。
アラシはクロスを一撃で気絶させることに成功する。
村長からの教えが役に立った瞬間だった。
うなだれるクロスの体を抱え上げるアラシ。
「ありがとう…アラシ…。貴方も…生きてね…。」
アラシはコクリと頷いて部屋を駆け出した。
必死な命の線引だった。
アラシが外に出ると、村長が最後の力を振り絞って放った魔法により、村一面に雨が降るように水魔法が降り注いでいた。
アラシの呼吸が一気に楽になった。
「クロス…様…幸せな時間をありがとうございました…。貴方様の姉役をさせていただき…身に余る光栄でした…。生きて…生きてください…。貴方様は貴方様を生きるために産まれてきたのですから…。産まれてくださって…良かったのですから…。」
ミレは静かに瞳を閉じる。
自分の鼓動がゆっくりとなっていくのを感じる。
たくさんの思い出が駆け巡る。
赤子のクロスに初めて笑いかけられたその日が蘇った所でミレの意識がぷつりと切れた。
クロスが目を覚ました。
見知らぬ場所。
冷たい石の感覚。
ひんやりとした空気。
ぼんやりとした明かりのそこにアラシの姿を見つけた。
「お姉ちゃんは!?」
慌てて飛び起きて辺りがクラクラした。
勢いが失われる。
アラシは何も言わず首を振った。
無理やり引き離したアラシに掴みかかりそうになったが、彼の目にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えて反射的にアラシを抱きしめる。
クロスはふと、すぐそばにあった石像に目をやる。
美しい女性の石像の表情も曇っているように感じられた。
「ごめん…ごめんな…。」
抱きしめられた温もりと安心感でアラシは涙を流しながら謝る。
クロスにも込み上げてくるものがあって、しばらく二人でわんわん泣いた。
一体何故こんなことになったのか?
あの短い時間の中でいったい何があったのか?
これから自分達はどうしたらいいのか?
何もわからないし、何も考えたくなくて二人は言葉を発さずに泣き続けた。
どれくらいそうしていたのだろうか?
二人は泣くだけ泣きつくし、ゴロンと床に寝転がる。
体が鉛のように重い。
クロスは村に戻らなければならないとは思うが戻るのが正直怖い。
現実を受け入れられる気がしない。
ミレの言葉も信じられない。
アラシは村をあのままにしていてはいけないと思いながらも、村長の最後の言葉もあり、村に戻ってはいけないと考えていた。
皆を弔ってあげることもできないが…、クロスの命を守るためには仕方がない。
「なぁ、クロス。」
アラシはクロスの手を探り握りしめる。
「約束しよう。俺達は何があっても生きる選択をすること。」
「生きる選択?」
「うん。もう村には戻れない。家族も失った。けど、俺は絶対にもうクロスを置いて死んだりしないから。」
もう?
自分で言って引っかかった。
「ねぇ、アラシ。私にとってはアラシだって大切な家族なの。絶対にいなくならないでね。私も絶対にいなくならないから。生きる選択…よくわからないけど、アラシを一人にしない為に生き抜く。」
クロスの本心。
言って、枯れたはずの涙がまた込み上げてきた。
もう誰も失いたくない。
何か心の奥底から引っかかるような重苦しい感覚を感じる。
正直、まだ現実を受け入れていない。
村に帰ればミレが笑顔で出迎えてくれるような気もする。
…。
…。
ただの願望だ。
ミレの死を直視するのが怖い。
「いなくならない。外の世界がどんなものかは知識しかないけど絶対に生き抜こう。何をしてでも俺が絶対クロスを守るから。」
痛いくらいに握りしめられた手。
クロスもまた、絶対にアラシを守ろうと思った。
二人の間には恋心はない。
だが愛情がある。
大切な大切な家族なのだ。
「約束ね。」
「約束だ。」
二人が外に出ると、すっかり日が昇り太陽に照らされ輝く木々の姿がそこにあった。
徹夜明けには刺さるくらいに眩しい朝。
二人は初めて森の外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます