50.これが本当に夢ならば

「そこをどけェ!!!!」

 

 ルーシアに向かってハルトは炎を放ち燃やす事を試みる。しかしその瞬間に炎の動きが遅くなりルーシアに簡単に避けられてしまう。

 それでもハルトは諦めずに何発かの炎の弾を放つ。だがこれも同様に速度が異常なまでに遅くなり簡単に避けられる。

 避けられた炎や火の弾は後ろで大きな爆発を起こしていた。

 当たれば確実に致命傷を負わせる事ができるのだがルーシアに対して魔法を放ってもそれらは全てルーシアに近づくにつれ速度が低下しほぼ確実に当たらない。だからと言って物理攻撃をしても同様の状態に陥る。

 

「これでわかったぁ? 君達は私が楽しいと思うことだけに使われるの。でもまだまだ君達はその義務を果たせてない。そんなんだと死ぬよ? キャハハ」

「ハルトは私が死なせない」

「そう、それ! 楽しくなる為には友情が最重要になってくるんだよ! 彼、彼女を想う気持ちが絶望に向かっていくその時が一番楽しくてワクワクするの! だから見せて? 君達のを」

「上等」


 シノはすぐに挑発に乗るとルーシアに向かって指をさす。

 ルーシアはシノが一体何をしようとしているのか理解することが出来ず向けられている指を見ていることしか出来なかった。

 そしてシノはルーシアに向かって火の弾を連続で何度も放ち始めた。

 しかしそれらは全てルーシアに近づいていくと速度が段違いに落ち簡単に避けられていく。

 それでもシノは放つ事をやめなかった。

 ルーシアの周りには既に速度が大幅に落ちている火の弾が無数に浮いている。


 両手を後ろで組みルンルンとしながらルーシアはハルト達の方に近づいてくる。

 そんなルーシアに対してシノは大きな火の弾を頭上で作りそれを放った。

 だがこれも案の定ルーシアに近づいた時に速度が落ち何の意味もなくなってしまっていた。

 しかしシノはこの速度が落ちて意味がなくなるということを狙っていたのである。


 シノがニヤリと微笑んだ瞬間、ルーシアを包み込む爆発が起こる。

 爆風はハルト達を巻き込み激しい風が発生していた。どうにか吹き飛ばされぬように必死に耐えていた。

 ハルトは一体何がどうなって起こったんだ? と言いたげな顔をしている。


 実は無数に何個もの火の弾を放つことでルーシアはこれを減速させる以外の事を行わない。大量の減速された火の弾がルーシアの周りを滞空しておりそこに大きな火の弾を突っ込ませれば通常の火の弾と激突する。

 すると爆発を起こし他の火の弾にも誘爆する。こうしてこの様な大爆発を発生させたのだ。


 ただこれには問題があった。

 それは…………


「ざ〜んねん。クロードから施して貰ってるから効かないよん。でも凄く派手だったから楽しめたよ。そういうのをもっと欲しいなぁ」


 クロードからの施し。

 それは麻衣美の様なドーム型の防御結界と似た非戦闘系能力スキルである。

 クロードの場合、防御結界は任意の人物、物体などに対して攻撃全般から守る結界を付与する事ができる。また自身にも付与することが出来るうえに使用方法は付与以外にも存在する。

 防御結界の能力スキルを所持している者はそこまで少なくはないが使い方やタイミングなどが難しく使いこなすのに相当な時間を要すると言われている能力スキルのひとつである。


「ハルトさん、これは無理じゃないですか……」

「……いやもしかしたらどこかに弱点があるかもしれない」

「でも物理攻撃も何もかもが減速しますし、おまけに防御結界すらも付与されている……。まさに無敵ですよ!!」

「だからと言ってここでひいたらリルを見捨てることになるんだぞ」

「それは……」

「俺が、俺が……どうにかする!!!」


 爆発の煙が完全に消え去りルーシアの姿がまた現れる。

 ハルトは拳に力を全力で込め走り出す。

 ただ走ってもただ殴ってもそれはルーシアに届かない。そんな事は既にわかりきっているはずなのに。

 それでもハルトはリルを見捨てるという選択肢を取りたくない為無駄だと一番理解しているのに走り出す。


「キャハッ!! すっごく楽しいよ! 君もそうでしょ!」

「黙れェェェェ!!!!!!!」

「無駄だと理解しない自覚さはつまらないけどね。でも許してあげる! それも次のワクワクに繋がるなにかなんだよね!」


 しかし全力の一発はやはりルーシアに近づくと減速を始めていった。

 だがハルトは減速という中でさらに力を込め始める。

 

「おらぁあああああああ!!!!!!!」


 叫びながら拳を少しでもルーシアに近づけられるようにしているとなぜか突如として減速が切れた。

 そのおかげでハルトはそのままルーシアに拳をぶつける。

 だがまだクロードが付与した防御結界が残っておりそれに激しくぶつかる。

 ルーシアも驚いた表情をしていた。


「こんなもん壊れろォォォォォォ!!!!!」

「ハルトさんそのまま行っちゃってください!!!」

「ハルト、ふぁいと」


 卓越したシノの魔法威力のおかげなのか防御結界の耐久値は大幅に減少しており徐々にヒビが入り始めた。

 このまま押し切れば行けると思ったその時ルーシアは防御結界を足で破壊した。

 ハルト達はいきなりのことで、は? となるがチャンスだとハルトは思いそのままルーシアへと拳を進める。

 ルーシアはハルトの攻撃に対して足で対抗する。

 激しい音が鳴り響き風が巻き起こる。

 二人の衝突は凄まじいものだった。

 だが終わりはついにやってきてハルトの拳が収束する。それに気づいたルーシアはハルトから離れる。


「キャハハ! すごーいすごーい! こんなにワクワクしたのは初めてだよ。なんだかクロードが言ってたこともわかる気がするかも。今回はそっちで行こうかなぁ。キャハハッ!」

「…………」


 そう言ってルーシアはどこかへと消えていった。

 ハルト達はただ呆然としていた。なんでルーシアが退散していったのかわからず。


「ハ、ハルトさん! これは勝ちですよね! やりましたよぉ!!」

「さすがハルト。男のバカ力」

「シノが削ってくれていなかったら無理だったよ。ありがとな」

「うん」


 ハルトは無意識にシノの頭を撫でた。撫でられたシノは目をつむり頬を赤らめ嬉しそうにしていた。

 少し撫でたあとハルトは「早くリルが行った方に行こう」と言い二人はコクリと頷いてリルが走っていったほうに向かい出した。



@@



 少し走っているとさらに人気が少なさそうなところにたどり着いた。

 ちなみに核保管庫は現在地から少しばかり離れた場所である。

 そこを探索していると膝に両手をおいて息を荒げている女の子の姿があった。

 もしやと思いハルト達は走る。

 すると向こうもハルト達に気づいたようで体勢を直し振り向いた。


「ハルト!」

「リル、大丈夫だったのか?」

「うん、逃げてる時に異変に気づいた住民の人がやってきてそれで男の人は逃げていったの!」

「それはよかった。リルが無事で……」

「ハルト……ハルト……」

「あぁ、もう帰ろう」


 リルはハルトに出逢ったことで恐怖から安心に変わり涙を零す。

 そしてリルはハルトに抱きつこうと走り出した。


「リル…………」

「ハルト………!」


 その瞬間リルが緑色の防御結界に行く手を阻まれる。

 何が起こったのかと思いハルト達は焦る。まさか……そんな最悪な予感を全員が感じた。


「時間をかけてこれか」

「楽しみは最後にとっておこうと思って」

「意見がブレブレだな」

「それも私のいいところなんだよ?」


 路地から現れたのはやはりクロードとルーシアだった。

 二人は防御結界で行く手を阻まれているリルに近づく。


「提案をしよう。僕達が核を狙っているということを口外しない、阻止しないと今ここで誓うなら何もしない。断るならわかっているな」

「だめ! ハルト断って!! じゃないとやっと自由になれた人達がまた……また!!」

「でもそんな事をしたら……!!」

「良いから!!! どうなるかなんて決まってるわけじゃないの! だから!!」

「わかってる……でもこれ以上誰かを失うなんて嫌なんだ……また俺を一人にするのか……?」


 ハルトの後ろにいたシノとラムネは防御結界をどうにかしようと攻撃を試みるがやはりルーシアの減速がかかっているようで届かなかった。


「ハルト、もういいの。私は楽しかった。ちょっとの間だったけどね……、だから」

「いいや……無理だ。俺は! その提案に乗る!!」

「ハルト!!」


 リルはどうして提案に乗ったのかと怒っていたがシノとラムネは何も言わずただ立っていた。

 そしてクロードは羽織っている中に手を入れるとルーシアに何かを話し始めた。


「あの時言っただろ? クライマックスでしか味わえない楽しみってのを」

「もしかして見せてくれるの!?」

「あぁ。君、提案して悪いが僕は人を簡単に信じれないんだ。だから君の誓いは信用し難い」

「ふざけるなよ!! なんで、どうして!!!」


 クロードは剣を取り出すと勢いよくリルの後ろから突き刺した。

 剣先はお腹を貫通し防御結界に血飛沫がこびりついている。


「……ハルト……」


 クロードは剣をスッと抜き取るとリルは地面に倒れた。

 そしてクロードとルンルンとして機嫌が良いルーシアは防御結界を閉じどこかへと歩いていった。


 ハルトはリルのもとに近づき泣き崩れる。

 ラムネも大粒の涙を溢しシノは暗い表情を浮かべていた。


 リルの肌はもう冷たい。

 ハルトが優しく頬に触れると明るい光がリルから出始める。それと共に徐々にリルの体が消えていく。

 リルの体が完全に光の玉、オーブのようになるまでそう時間はかからなかった。


 そしてまたハルトとラムネは泣き叫ぶ。守りきれなかったリルを思いながら。


 ハルトは感情が入り乱れ意識が薄れていく。

 その中でハルトは心の中で強くひたすら想う。


 、と。

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