15.じゅるり

「やりすぎたな」


「うん」


 先程までそこには風に揺られた草がぎっしりと生えていたがもうその姿はなかった。ひとまずハルトは体を起こそうとするがなぜか体が動かない。何度も腕をあげようとしたり足を動かそうとしたりするがそれでもダメだった。だが顔は左右に動かすことが可能でハルトはシノの方を向く。どうやらシノも同様に体が動かないようだ。


(これはもしや金縛り!!?)


「動けないのはハルトのせい」


「な、なんでそうなるんだよ!!」


「さっきのはハルトの魔力で放出した魔法。あの魔法をすると私の魔力量はハルトと同じになるから一気に魔力を使い果たしちゃう」


「つまり今は俺の魔力が完全になくなっているせいで体が動かなくなってるのか」


「そゆこと」


 互いに顔を向けながら話しを続ける。


「てか俺達って完全に魔法に巻き込まれてたよな。なんで生きてんだ?」


「それはキスしたから」


「キス、万能すぎない!?」


「愛は癒やす力を持ってるみたい。愛こそ究極の魔法ってリーシアが言ってた」


「リーシアって誰なんだ?」


「昔一緒にいた魔女。でも消えた」


(リーシアがいなくなったからシノは最後の魔女になったのか)


「ハルト、そろそろ」


 シノは首を動かし雲一つない青空を見上げる。何がもうそろそろなのかわからないハルトはとりあえずシノと同じ行動を取ることにした。


「なんだこの感じは!?」


 それまで体はガチガチに固まっており身動きが取れなかったが時間が経過するにつれじんわりと暖かみを感じると同時に体がほぐれていく感覚がした。試しに腕を動かしてみると最初よりかは動かせるようになっていた。


「ハルト、早く」


 ハルトはまだ完全に体が硬直から開放されていなかったがシノは既に硬直から開放されており地面に手をついて上体を起こしていた。


「早くって言われてもなぁ」


「仕方ない。お姉さんに任せなさい」


「どう見ても子供だろ」


 ハルトがボケに対してツッコミを入れるが何故かシノは頬をぷくっと膨らませてハルトを見つめていた。そしてハルトに近寄るとシノはハルトに顔を近づけ始める。このタイミングでハルトは何やら嫌な予感を感じた。


「まさかお前……。やめろよ、俺動けないんだから」


「……じゅるり」


「おい、じゅるりってなんだじゅるりって!!」


 互いの唇が優しく触れ合う。


「……んっ」


「!?」


 シノはハルトの顔に垂れる美しき銀の髪を指で持ち上げ耳にかける。するといきなりハルトは手でシノの肩を掴み突き放した。


「……んんっ」


「おい、今舌入れようとしてただろ」


「そっちの方が早く回復する」


「いや絶対嘘だな、それ。嘘に違いない」


「ひどい」


「酷いのそっちだろ。回復する為にしてきたと思ったら下心全開で来るとか!!」


「行こ」


「無視かよ」


 シノは大破した馬車に向かって歩き出した。ハルトも手を地面につき立ち上がりシノの元へ走る。


「それでこれからどうするんだ?」


「全員ぶっ潰すしかない」


「でもそもそも神託官に出くわすことなんてそうそうないんじゃないか?」


「そこは大丈夫」


 シノはロイエルが立っていた深くえぐれた地面を見つめる。一体どうしたのかと気になりハルトも見るが何ひとつわからない様子だった。


「何かあるのか?」


「ロエロがいない」


 深くえぐれた地面にはロイエルの姿もなければ何かしらの残骸もなかった。

 

「完全に燃え尽きたとかなんじゃないか?」


「炎だと体を溶かしきるなんて無理」


「なら……」


「上手く逃げられた。きっと今頃他の神託官に私達の事が伝えられてるはず」


「それならあっちからちょっかいをかけてくるかもしれないな」


「ちょっかいをかけてくるのは神託官だけじゃない」


 え? と困惑した顔になるハルト。一方シノは全く表情が変わっていなかった。というか異様なまでに冷静だった。


「私達は神託官に少なからず致命傷を与えた。多分記事になるかも」


「おいおい待てよ! それって世界を敵に回すってことか!?」


「いいや。【ロイゼン王国】はそこまで他国に好かれてないから大丈夫。ただ物好きな変な奴らが出てくるかもしれない」


「情報を聞きつけて九神エニアグラムが出てくる可能性もあるな」


「うん」


 シノは本来馬車が進んでいっていた方に体を向け遠くに指を指す。


「ひとまずあそこに見えるのが【ロイゼン王国】の首都。そこに行こ」


 シノの指の先には囲うように建てられた壁が見える。


「歩いていくのか」


「仕方ない。なぜか馬車がこんな有り様になっているから」


「お前がやったんだよ!!!!」


「知らない」


「しらばっくれるな」


 またもシノはハルトの言葉を無視して歩き出す。ハルトは「待てって!」といい追いかける。その時ハルトは足に謎の感触を感じて踏みとどまった。


「ハルト、どうしたの」


「いや……」


 恐る恐る足元を見るとそこには気絶しているドートがいた。


「あ」


「……あ」


 どうするべきかと考えた末にドートを踏み越えてシノの元に向かった。すると気絶していたはずのドートが大声を出す。


「お前! 何踏んで考えてまた踏んでんだよ!!!」


「え、あ、いや。一回踏んだならもう一回踏んでも大丈夫かなって」


「何開き直ってんだよ」


「それじゃあ俺達は先を急ぐので」


 ハルトはそう言ってシノと一緒に歩き出す。後ろではドートが「おい! これ助けるだろ普通! おい! おい! 聞こえてんのか!!!」とひたすら大声を出していた。そんなドートに対してハルトは「能力スキルを使えばそんな馬車の破片なんてどかせますよ」と少し煽り気味に言う。その後もひたすら後ろで「俺を見捨てるなよ! あ、てか馬車のおっちゃんいるじゃねぇか」と言っていたが二人はそんな事は無視して【ロイゼン王国】の首都へ進みだしたのだった。







**

「面白い」「続きが気になる」など何かしら思って頂けたらハートやフォロー、レビューお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る