13.馬車の爆発にはご注意

 ハルトはお腹に殴られた様な感覚を感じ目を覚ました。一体今のは何かと思い体を起こすと何故かシノが最初に寝ていた場所から真反対の位置に移動していた。恐らく寝ている間にシノはハルトの体の上を通り反対側にやってきたのだろう。ハルトはシノのあまりの寝相の悪さに驚きながらもベッドから出る。


 それから数分してシノもようやく目覚め目を擦りながらハルトに「……おはよ」と言った。それ以降シノが眠そうに身支度を始めた為特に話すこともなく時間が流れる。


 そして身支度を終えたハルトは「行こ」とハルトに言い部屋を出る。ハルトも壁に立てかけていた剣を手に持ちシノについていく。階段を降りると既にアリアが起きており椅子に座っていた。


「ハルトくん、おはよう」


「あ、おはようございます」


 最初こそは明るい雰囲気だったアリアだが話は一変し犠牲者について話し出す。

 

「ついに今日だけど考えは変わらないの?」


「大丈夫。だいたいなんとかなる」


「てきとうすぎないか」


「私に怖いもの無し」


「それが怖い」


 ハルトとシノがそんな会話をしているとアリアはクスッと笑い「そうかもね」と言った。その後立ち上がり近くに置いてある籠を指した。


「右にハルトくん、左にシノちゃんの服とか入ってるから」


 アリアがそう言うとハルトとシノは籠に近づく。するとシノは籠を持ち上げるとハルトの顔を見て「えっち」と言った。突然言われたハルトは「ん? なんで?」と困惑した様子だった。何かを察したのかアリアはハルトに「そしたら私の部屋で着替えてきたら」と言う。いや普通着替える場所逆では? と思っていたハルトだったがせっかくの好意を無下にするわけにもいかないので仕方なくアリアの部屋で着替えることにした。


 二人は一緒に二階に上がりハルトは昇って一番近いアリアの部屋に入った。


 ハルトは部屋に入るなりすぐに来ていた服、下着を脱ぎ本来自分の着ていたもの着る。着替え終わったハルトは借りていた服を急いで畳んで下に降りた。


「アリアさん、これありがとうございます」


「そんなお礼なんていいのよ」


 二人が話しているとシノが服をぐちゃぐちゃの状態で抱え降りてきた。


「畳めよ」


「……よくわからない」


「それ言えば突き通せると思ってるのか」


「私がやっておくからいいわよ」


「何からなにまですいません」


 ハルトがシノの代わりに礼を言っているとシノが「ハルト」と言って服を引っ張る。ハルトは反応してシノの顔を見る。


「どうしたんだ?」


「来た」


 何が来たのかと思っていると外が何やら騒がしい事に気づく。この感じは恐らく神託官が来たのだろう。ハルトは深呼吸をして気合を入れる。


「……二人共気をつけて」


「はい」


「うん」


「……行ってらっしゃい」


 見送ってくれているアリアを見てハルトは一瞬母さんの事を思い出したが気持ちを切り替えて家を出た。外にはすでに人だかりが出来ておりその中にはロルガルドやロイドもいた。そしてあの神託官、ロイエルの姿もあった。


「ハルトさん!!」


 二人の存在に気づいたロイドが遠くから声をかけてくる。ハルトとシノはその呼びかけを聞き少しだけ走った。


「ハルトさん、本当に良いんですか」


「あぁ、何も問題ない」


「そうですか……。気をつけてください」


 ハルトとロイドが話しているとロイエルと見知らぬ男が近づいてくる。

 

「貴方が今回の犠牲者ですか。客人を犠牲に選んだと話しを聞いた時は正直引きましたけども考えた末の決断なら私は何も文句はありません」


 ロイエルがハルトを見て話しているとシノが私も犠牲者! と言った顔をしてロイエルを睨みつけていた。だが全くロイエルはシノを見ることはなかった。


「それと今回も警護としてこのドートを同伴させてもらいます」


 ロイエルが紹介してきた人物は隣に立っていた如何にも脳筋野郎みたいな見た目をした男だった。ハルトは絶対こんなの警護役には向いてないだろと思いながらロイエルとの会話を続ける。


「警護ですか?」


「はい。ここ最近どの村の犠牲者も連行中に暴れる者が多いのでその警護です。それではこうしている時間を惜しいのでもう行きましょう」


 ハルトとシノはロイエルの後ろをついていく。そして少し大きな馬車に乗ると対面するように座った。


「出発してください」


 ロイエルが声をかけると馬車が動き始めた。


 馬車が出発してからしばらく経つとロイエルは【ヒルアール王国】の屋敷で長老の合図で出てきた様な透明な板を見ながらメガネに触れていた。何をしているんだと思いながら見ているとロイエルがようやく口を開いた。


「ハルトでしたっけ? 貴方は能力スキルを持っていないんですか」


「え、まぁ、はい」


「おい、まじかよ。久しぶりに見たぜ、能力スキルなし。人生終わりだなァ」


 これまで黙っていたからまともな筋肉野郎かと思っていたがやはりやばいタイプの筋肉野郎だったようだ。

 心無いことを言われたハルトだったがもはやその言葉には慣れていた。だが一人、その言葉を許す事が出来ない者がいた。


「取り消して」


「あ?」


「今の言葉取り消して」


「敬語を使え敬語を」


「ハルトを馬鹿にしないで」


 ドートの言葉に怒ったシノをハルトがどうにかなだめようとするが落ち着く気配はない。このまま言ったらまずいんじゃないかと思っているとロイエルが「能力スキルなしとはそう言われる人生なんです」と言った。


「謝って」


「お前犠牲者だろ? 犠牲者になったら一生奴隷なんだよ。誰が奴隷の話しを聞くかよ。それに能力スキルがないって事はそのうちどっかで死ぬ運命なのに俺等が引き取ってやってるんだ。感謝してほしいくらいだぜ」


「………」


 ドートの言葉を聞いたシノは黙る。そしてシノはドートに向かって指を向ける。ハルトはシノがこれからしようとしている事はポーズから分かり止めようとする。


「おい、シノ!!」


「……ハルト」


「なっ!?」


 シノはドートに指を向けたままハルトにキスをする。目の前でいきなりキスを見せられたロイエルとドートはポカンとしていた。


 ハルトがなんで今キスをするんだと思っていると…………。


 馬車が大爆発を起こした。爆発で飛ばされたハルトとシノだったが何故か傷ひとつついていなかった。


「何やってんだよ!!!」


「仕方ない。戦略的撤退」


「撤退ではないだろ! めちゃくちゃ攻撃しちゃってるし!! 馬車木っ端微塵だし!」


「キスしてたから大丈夫。私達は」


「私達はってことは……!?」


 周りを見るとそこは広い草原が広がっていた。その中に爆発して倒れる馬車、どこかに走って逃げる馬、ほぼ死んでる状態みたいなドート、爆発したのに普通に立っているロイエルがいた。


「こんな事をしてきた犠牲者は今までに居ませんでしたよ。いいでしょう。そちらがその気なら」


 ロイエルは服の汚れを手で払いながら言う。


「ハルト、やろ。皆のために」


 いきなり真面目になるシノに驚きながらもハルトはそうだなと言って立ち上がる。


「来い、神託官。この剣で消し去ってやる!!!」


「……ハルトじゃ剣は無理だよ」


「え、酷。改めて言われると普通に傷つくぞ、そういうの」


 ハルトは大人しく剣をしまったのだった。






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