第21話 戦隊ヒーロー(四人)と強敵
「悪の組織<ギャンギース>の怪人たち! 俺らヒーロー部隊が来たからにはもう好き勝手できないぜ!」
「諦めてこの星から去るんだな!」
「そしてもう悪事はしないと誓いなさい!」
「そうじゃないと痛い目にあいますよ!」
「「「「<チホーレンジャー>、参上!!」」」」
チュドーン! 戦隊ヒーローたちの背後が爆発し、派手な登場が決まる。
チホーレッドが仲間の招集をして、全員が揃って変身を済ませた直後の決め台詞だ。
否、全員揃っていなかった。
さすがの<ギャンギース>の二人もこれには待ったをかけざるを得ない。
怪人肩パッド野郎がタイムを入れた。
「待って。えっとパープル? チホーパープルは? 居ないじゃん」
「グリーンだ! チホーグリーン! パープルなどうちには居ない!」
「ああ、ごめん、地味過ぎて色忘れてた」
地味だから仕方無い。チホーグリーンがこの場に居たら涙をちょちょ切っていたことだろう。
今度は代わりに、巨漢の怪人、ピンクガネーシャが催促する。
「なぜ揃わない」
「......あいつは空気読めないのよ」
「は?」
チホーイエローの口から事実が語られる。
「どうしても調査したいことがあるって......」
「い、いや、悪の組織との戦闘を差し置いてすることある? おたくら戦隊ヒーローだよね」
「それがうちのグリーンです......」
「「......。」」
チホーイエローとチホーピンクの言葉に、怪人たちは苛立ちを覚えつつも事を進めることにした。
「まぁいい。一人見逃して、見せしめに四人を殺ったということにしよう」
物事をポジティブに捉えるのが、肩パッド野郎の取り柄でもあった。
ようやく戦隊ヒーロー<チホーレンジャー>と悪の組織<ギャンギース>戦闘が始まるというところで、まだ意識があったマジカルピンクが、地面に倒れ伏しつつ、戦隊ヒーローたちに告げる。
「き、気をつけてください......その人、すごく......強いです」
「わかってるわ。まさか魔法少女たちがここまでやられるなんて......」
「俺たちで勝てるのか......」
「よ、弱気になるんじゃない! ヒーローは絶対に勝たないといけないんだ!」
「ちなみに敵はどれくらい強いですか? あの中年タイツさんと比べて」
「「「断然、タイツの方が上」」」
この即答っぷり。
先程までの気絶しかけている様子はどこへ行ったのやら。魔法少女たちは揃って即答したのであった。
どんなに痛めつけられて、格上ということを思い知らされても、やはり我らが説教タイツの方が<ギャンギース>の二人より上らしい。
それを聞いて、敵の強さの天井を知った<チホーレンジャー>はやる気を漲らせた。こういう現金なところはさすがと言わざるを得ない。
「安心してくれ! 俺たちが来たからには、この町も、君たちも守ってみせる!」
「レッドの言う通りだ。安静にしててくれ」
「私たちが来るまでよく耐えたわね。偉いわよ」
「この戦いが終わったら、皆で祝いましょう」
若干一名、不吉にもフラグを立てるピンク色の建築士が居るが、無視したい。
「さっきからなに? タイツタイツって。俺らより強いって聞き捨てならないな」
「口で言ってもわからないと思う!」
「説教されたらわかります!」
「あ、ああ、そう......」
どんどん戦隊ヒーローたちのペースに吞み込まれていく<ギャンギース>の面々。
「行くぞ、皆!」
レッドの掛け声と共に、戦隊ヒーローたちは各々の武器を片手に駆け出す。
戦隊ヒーローには大型ロボ意外にモチーフ武器というものがある。
大人の事情とやらで、多くの戦法を余儀なくされているのは言うまでもない。この手に携わる大人は皆、子供を介して、親にたくさん貢いでもらいたいのだ。
「ブルーナイフ!!」
チホーブルーがどこからか、青を基調とした短剣を二振り取り出して、その鋭利な刃を、手数をもって肩パッド野郎へと迫る。しかしヒュンヒュンと空を斬るばかりで、敵の余裕な態度は崩せない。
捉えたと思いきや、肩パッド野郎の肩パッドが短剣と交差して、その行く手を阻んだ。
「チホーブルー、退いて! イエローナックル!!」
続いて、チホーイエローが肩パッド野郎に攻撃を仕掛けた。イエローナックルとはイエローの両手にはめられているメリケンサックのことだ。もちろん特注もの。
基調としている色が黄色だから、かろうじてモチーフ武器として扱われているが、その実、拳の強固さを補助する道具であるから、ヒーローがそれを身につけるとは如何なものかと物議を醸し出しそうになる。
またチホーブルーと同じく近接特化の武器だからか、チホーブルーが居ては邪魔である。
しかしチホーブルー同様、シュッシュッとまるでプロボクサーのシャドーボクシングを思わせる風切り音しか聞こえてこない。当たっても肩パッド。ノーダメであった。
「チホーイエロー退いて! ピンクガトリング!」
そしていっちゃん殺傷能力がありそうなのが、このピンクガトリングという連射可能な大型鉄砲。機動性を著しく欠くが、その殺傷能力は言わずもがな。
チホーピンクのモチーフ武器として、桃色を基調としているガトリング砲だが、敵に当たったらレッド顔負けの鮮血が飛び散ることだろう。
「あははははははは!!! 私の耳みたいに穴だらけにしてあげますね!!」
「「「......。」」」
そんでもって、チホーピンクの豹変っぷり。
武器を手にしたら性格が変わる者は決して少なくない。
しかしヒーローとしてそれはどうなのか、と問われたら何も言い返せない。現に他のヒーローたちは押し黙る他なかった。
特にヤバいのは、気が狂ったかのような高笑いに続くセリフ。彼女の耳にピアスが刺さりまくっている理由は、何人たりとも触れちゃいけない。
一番ガトリング砲を持たせちゃいけない人をヒーローにしてしまったのは、運営の汚点である。
きっとヘルメットの奥では、チホーピンクの目は虚ろで光を宿していないことだろう。
しかし、
「ははッ。こんなもんじゃ俺は死なないね!」
肩パッド野郎は健在であった。無傷である。
チホーピンクのガトリング砲による鉛玉の雨を食らっても、なんらダメージすら負っていない。
「あははははは!!」
「今度は俺だ! レッドソード――」
「ははははは!!」
「ちょ、チホーピンク、銃撃つの止めて! 突っ込めない!」
「え? あ、はい。......はぁ」
「......。」
チホーピンクの意味深な溜息を他所に、チホーレッドは愛用のショートソードを片手に、敵に斬りかかる。
「うおぉぉおお!!」
「こんなものか?! ヒーローさんよぉ!!」
レッドソードと肩パッドが激突し、甲高い音を立てながら火花を散らす。
単発の火力であれば、チホーレッドは間違いなく、チーム内で一番。
しかし敵も甘くない。肩パッドを器用に振り回し、チホーレッドの攻撃を全て捌く。そしてカウンターの一撃が、チホーレッドの胸を直撃した。
「ぐあぁぁぁああ!!」
「「「レッド!!」」」
チホーレッドが地面を削りながら吹っ飛ばされた。
仲間が駆けつけようとするが、その行く手を阻む者が現れた。
「俺も居るぞ」
「「「っ?!」」」
ピンクガネーシャである。まるで丸太のような腕を振るい、正拳突きを持ってヒーローたちを弾いた。
「うぐ?!」
「きゃあああ!」
「あぁぁぁあ!!」
圧倒的な実力差。
戦隊ヒーローの力をもってしても、強敵相手には意味を成さなかった。せめて巨大ロボが使えれば、とは戦隊ヒーロー全員が思ったことだ。
しかしどこかの“歩く説教”のせいで、胸部装甲に多大なダメージを負ってしまっているため、修理中だから使うことができない。
そんなヒーローたちにとどめを刺そうと、ピンクガネーシャが足下に倒れ伏しているレッドに向けて、固く大きな拳を振り上げた――その時だ。
「ふ、ふふ......ふふふ」
不敵にも笑い出す者が現れた。
その者は―――怪人カマキリ女帝だった。
女は満身創痍で、押せば倒れるほど弱っているはずなのに、自信に満ち溢れた希望をその瞳に宿していた。
「この町で魔法少女を倒した挙げ句、戦隊ヒーローまで返り討ちにするなんて......あなたたち、先輩が来たら黙っていないわよ」
「あ?」
「......。」
怪人カマキリ女帝は大鎌を杖代わりにして立ち上がる。ヨロヨロとふらついていたが、その足には確かな力強さがあった。
「わからない? 先輩......怪人タイツゴッドが来たら、あなたたち雑魚戦闘員、一瞬で決着がつくって言ってるの」
「......俺らが雑魚だって。同業者って殺しても上から文句言われないよね?」
「言われないことはない。が、常に危険な状況下に居る我々には、“事故”という便利な言い訳ができる」
「ふぅ......かかってきなさいッ」
この物語は時に悪と悪がぶつかり合う、壮絶な戦いを記す物語である。
続く。
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