第9片

 デイドリームはトイレの中で、自身が過去に能力が使えなくなった理由を、ふいに思い出した。



【10年前 デイドリーム:12歳】

 中学に入学し1週間ほど経ったある日、教室でレオがデイドリームのそばに寄って来た。レオとデイドリームは小学校からの付き合いだった。レオは、デイドリームの知らない人を2人連れて来ていた。


 そう、レオは、もう新しい友達が2人も出来ていたのだ。


 デイドリームはいくら人気ものだとはいえ、レオのコミュ力や気楽さは到底、真似出来ないなと思った。


 レオは、デイドリームの机に手を乗せ、もたれかかりながら小さな声で唐突に切り出した。

「なあ、担任にいたずらしようぜ」


 他の2人が笑う。デイドリームは目を丸くして固まっている。(どうしていきなりそんなことを言うんだ?)と脳内で変換できるまでに時間がかかった。その言葉を伝えると、レオは追撃した。


 「お前なら能力でなんでもできるだろ!」

と言って、レオは笑う。全く返事になっていない。


 デイドリームは(また能力の話か……)と思った。『想像したことが本当になる』という万能型の能力を持つと、このていの頼まれ事が多くなってくる。


 「「そうだよ」」

と、他の2人も頷く。もう一度言うが、デイドリームはこの2人を知らない。知らないのになにがわかるんだよと言いたくなった。


 だが、デイドリームは素直で頼まれ事は全部引き受けてしまう性格だ。


 「だから、担任が教室に入って来た瞬間に上から水を降らせようぜ」

とレオがワクワクしたような顔で言うと、


「それは面白そうだ!」

と、デイドリームはわざとらしく笑って答えた。


 「OK!決定な。」

(本当にいたずらする事が決まってしまった。まあ、そんな大したことではないだろう。)と、デイドリームは軽く考えてしまった。



 そして、デイドリームが心の準備をする余裕もないまま、担任の先生かと思われる足音と声が廊下に響いた。その音が近づいてくる。日差しが差し込む昼休みの教室内に緊張が走る。


「ほら、行け、今だ!」


[ドアの上から水が降ってくる]


この光景を頭に思い浮かべた。すると、担任の先生がタイミングよくドアを開け、入って来た。


 デイドリームの想像通り、担任の先生に水がかかった。その後、デイドリームが想像していなかったことが起こった。


  

 担任の先生が滑って、頭を打ったのである。デイドリームはその後を想像する事をやめてしまった為に、このような事が起こった。担任の先生は幸い、軽い脳震盪のうしんとうで済んだが、最悪の場合死んでしまう可能性もあった。


 デイドリームは校長先生や、生活指導の先生に当然、怒鳴られた。



 この事が原因でデイドリームは想像することがトラウマになってしまった。


 今でも、想像する時にはこの事故が頭をよぎる。

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