外れスキルの無能で無双 〜クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で、召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能はすべてを無にする最強のチートスキルでした

第30話 奥の手

　フェリシアは素早い身のこなしで大迫に斬りかかる。

　剣戟が火花を散らす。大迫も負けじと、一際異彩を放つ一本の槍を繰り出し、激しい打ち合いが始まった。

　フェリシアの剣は鋭い切っ先を大迫に向ける。

　だが、大迫の手にした槍は並外れていた。

　黒銀の槍身に赤い紋様が刻まれたその武器は、まるで炎そのものを体現しているかのようだ。

　大迫はその槍を巧みに操り、攻撃をかわし、反撃を繰り出す。

「はっ！」

　大迫の槍が、まるで炎の鳴動のように風を切って迫る。

　フェリシアは剣を横に振るい、それを弾き飛ばすが、その衝撃は尋常ではない。

　フェリシアと大迫の剣と槍がぶつかり合う。金属のきしむ音が響き渡るが、槍の放つ気は一際強く、圧倒的だ。

　フェリシアは、大迫の手にした槍が、ただの武器ではないことを悟る。

　フェリシアは足払いを試みるが、大迫は炎を帯びた槍の一振りで、軽々とそれをかわす。

「ははっ、驚いたか？　これはな、『焔王の槍』。伝説に名高い俺の愛槍だ！」

　間合いが開いた隙に、フェリシアは魔力を剣に集中させる。

　剣が聖なる光を放ち、一気に大迫に迫る。

「くっ！」

　大迫は咄嗟に槍を横に振るい、聖なる一撃をかわすが、体勢を崩す。

　フェリシアはそこに剣の連撃を叩き込む。

　大迫は必死に槍を操り、フェリシアの攻撃をしのぐが、徐々に劣勢になっていく。

　額に汗を浮かべ、焦りの色が見える。

　アデルは次々と魔法を放ち、炎や氷の嵐で寄道を翻弄する。

　赤く輝く火球が寄道に迫るが、寄道は身を屈めてかわし、魔力の弾を放つ。

　アデルは杖を回転させ、魔力の弾を打ち消す。

　だが、寄道の攻撃はとまらない。次々と魔力の弾が放たれ、アデルは防御に追われる。

「ふん、やるじゃない！」

　アデルは不敵な笑みを浮かべつつ、魔力を解き放ち、全身から電撃を放出する。

　アデルと寄道の魔法が激しくぶつかり合う。炎と氷、光と闇が入り乱れ、魔力の奔流が渦巻く。

　寄道は手に黒い炎を宿し、アデルに向かって投げつける。

　アデルは杖を振るい、水の壁を作り出して炎を消し去る。

「まだまだ！」

　アデルは大地を踏み割るように杖を地面に突き立て、大きな岩の塊を作り出す。

　そして、その岩をいくつにも分割し、寄道に向かって飛ばす。

　寄道は慌てて魔力の盾を展開するが、いくつかの岩はその盾を突き破り、寄道に直撃する。

「ぐっ……、くそぉ！！」

　寄道は痛みに顔を歪めつつも、アデルを睨みつける。徐々にアデルに押され気味だ。

　どうやら目算通りフェリシアとアデルの二人の実力は級友を凌駕しているようだ。

　出番はないかと、少し気が抜けそうになった時のことだった。

　追い詰められた大迫と寄道が、禍々しい気配を放ち始めた。

「くくく…………！　奥の手を出させるとはな……女だと正直舐めてたよ」

「そうだぁ、これから俺たちの真の力を見せてやるよ！」

　大迫と寄道の体が、不気味な闇のオーラに包まれる。

　早速大迫はフェリシアに襲いかかる。

　すると、大迫の手にした『焔王の槍』が、さらに凄まじい紅蓮の炎を纏う。

　まるでこの世ならざる力を得たかのように、槍からはとてつもない威圧感が放たれる。

「な、なにこの圧力は…！？」

　フェリシアは驚愕し、戸惑いを隠せない。

　大迫の動きは以前より遥かに速く、力強くなっている。

　フェリシアの剣が炎の槍の連撃を受け止めるが、大迫の力は規格外だった。

　伝説の武器の力は、悪魔の力と相まって、もはや人の業とは思えないほどだ。

　フェリシアは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「がはっ……！」

　寄道の魔法が常軌を逸した強さとなり、アデルの魔法を圧倒し始める。

　寄道は両手を掲げ、禍々しい呪文を唱える。

「我、闇の咒縛（じゅばく）を呼ばん！『ヘカトンケイルの怒り』よ！」

　すると、寄道の周囲に漆黒の稲妻が渦巻き始める。

　それは百の腕を持つ巨人の怒りを具現化したかのような、圧倒的な闇の魔力だ。

　アデルは戦慄を覚えながらも、必死に防御の魔法を唱える。

『セラフィムの加護』

　アデルの周りに光の障壁が現れるが、寄道の漆黒の稲妻『ヘカトンケイルの怒り』は、その防御魔法を易々と打ち破る。

「そ、そんな……！　私の最強の防御魔法が……！」

　アデルは愕然とする。『セラフィムの加護』は天使の力を借りた強力な防御魔法だ。

　それがこうも簡単に突き破られるとは。

　漆黒の稲妻がアデルに襲いかかり、全身を貫く。

「きゃあああっ！」

　アデルは悲鳴を上げ、全身に電撃を浴びる。

『ヘカトンケイルの怒り』の凄まじい破壊力は、アデルの体に無数の傷を刻んでいく。

　さらに、寄道は追い打ちをかけるように、もう一つの魔法を放つ。

『ディケの裁き』

　暗黒の魔力が矢となって、アデルに降り注ぐ。

　それは古代の復讐の女神の裁きを具現化したかのような、止めどない攻撃だ。

　アデルは必死に防御魔法を展開するが、あまりの数に防ぎきれない。

　アデルの体に傷が増えていき、徐々に動きが鈍くなる。

　圧倒的な力の前に、フェリシアとアデルは為す術もない。

　フェリシアは傷だらけになりながらも立ち上がるが、大迫の炎槍が容赦なく襲いかかる。

「おしまいだ！」

　大迫の一撃が、フェリシアの鎧を砕き、深々と突き刺さる。フェリシアは絶叫し、倒れ伏す。

　アデルは最後の力を振り絞って強力な魔法を放つが、寄道の『ヘカトンケイルの怒り』がそれを易々と打ち消す。

「愚かな…！　もう抵抗は無意味だ！」

　寄道の『ディケの裁き』が、残った力を振り絞るアデルを貫く。

　アデルの体が吹き飛び、壁に激突する。

「あはは！　どうした？　さっきまでの威勢はどこへいったんだよぉ！」と大迫が高笑いする。

「無様だねえ、お嬢さん方。もう、これでおしまいだぁ！」と寄道が残酷な笑みを浮かべる。

「そこまでだ」

　そこで俺は二人の前に立ちはだかる。