第19話 遥かに格上

<エドワード視点>


「よかったんすか?」

「何がじゃ?」

「彼、ユウを誘わなくて」

「…………誘えん。もし敵になれば組織を腹から食い破られる可能性がある」

「師匠がそこまで言うほどなんすか……」


 いつもと違い、それ以上突っ込んでくることはない。

 ロイもショックを受けているのだろう。

 自分より遥かに格上の強者に出会うとショックを受けるものだ。


「ふふっ」

「何が面白いんすか?」

「いや、ちょっとのう」


 思い出し笑いだった。

 自分がユウに言った言葉を思い出したのだ。

 エドワードはユウにこう言った。


「時には強大な敵に立ち向かうことも必要じゃ。じゃが、そもそも敵の強さ自体が測れない時は敵に挑むべきではない。それはそれだけ自分が未熟という事じゃ」


 一体、自分は誰を相手にして偉そうに講釈を並べていたのだろう。

 他でもない自分自身がユウの実力を測れていなかったというのに。


 若き日に体験した格上相手に実力を見誤って恥をかいた時のあの体験。

 それを一時期は世界に並ぶもの無しとまで言われた自分がまた体験するとはと、滑稽すぎて笑えてきたのだった。


「世界は広いのう、ロイ」

「そうっすね」

「まあさっきのユウは、お前に超えてもらうように頑張ってもらうか」

「無理っすよあんな化け物。俺、あいつがいつ移動したのかも分からなかったっすもん。気がついたら盗賊の首にナイフ突き刺していたっす」

「…………」


 エドワードもロイと同様だった。

 おそらく瞬きをするくらいのスピードであの距離を移動し、攻撃を繰り出したのだ。

 恐ろしい。おそらくその気になればあの場いた全員を一瞬で葬りされるだろう。


「俺たちの障害になるんじゃないっすか?」

「敵に回せばの」

「だったらさっさと味方に勧誘した方が……」

「まあ慌てるな。ユウは冒険者としては初心者と言っておった。当然嘘をついてると考えることもできるが、そうではないとしたら?」

「あれだけの実力があって初心者とかありえないっすよ」

「剣術なんかを習っていればあり得る話しじゃ。しかし、剣術を習っていたとしても、あれほどの実力があればすぐに名が知れ渡るはずじゃ」

「じゃあ、一体なんなんすか」

「エスペリア王国で異世界召喚がまた行われた可能性がある」


 荷台に寝転がっていたロイは驚いた顔をして起き上がる。


「またあの禁忌に手を出しやがったんすか、あの人でなしども……」

「ユウが異世界人としたら辻褄が合う。奴らの中にはとんでもない実力をすぐにつける人間がおるからの」

「でも異世界人って王国に飼われてるはずじゃ」

「逃げ出したのかもしれん。それか……」


 一つの考えがエドワードの脳裏に浮かぶがすぐに打ち消した。

 

 エスペリア王国が罪人や使えない人間を奈落のダンジョンに追放しているという噂を聞いたことがあった。

 奈落のダンジョンは転移魔法だけで渡れる一方通行のダンジョンで、今まで一人たりとも生還者はいないと言われている。


「まず帝都についたらユウの素性を洗おう。話しはそれからじゃ。もし味方にできそうなら、味方にする。そうでなければ……」

「そうでなければ?」


 組織の人間を総動員したとしても、正面からだと勝てるかどうか。

 特殊スキルを保持している人間を使ってゲリラ的に不意打ちするが現実的だろう。


「まあ、そうならないことを祈るかの。最悪なのは奴らの仲間になることじゃ」

「奴ら……ああ、奴らっすね」


 ロイは突如、怒気とともに荷台を叩きつける。

 彼がこんな風に感情を顕にするのはめずらしい。

 ロイと奴らにはそれだけの因縁があった。

 最もそれはエドワードにも言えることではあったが。


「そう、エーテルコードの奴らじゃ」


 そこまで話すとエドワードはまた荷台に寝転がる。

 目の先では広大な青空を、優雅にゆったりと漂う雄大な白雲が覆い尽くしていた。

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