廻るデスティニー
染口
第1話 そして運命は廻りだす。
通勤や通学をする人達で溢れる朝の街中を、けたたましいサイレンが駆け抜ける。
赤いランプを光らせて、複数の装甲車が走っていた。
勢いよく停止した装甲車の扉が開け放たれ、中から武装した警察隊が次々と現れる。
「……あれ?」
真っ先に現場へ到着した隊員が、持っていた銃を下ろして気の抜けた声を上げた。
彼の様子に気が付いた他の隊員たちも、何事かと現場を覗き込む。
隊員たちの視線の先には、地面に横たわる紫色の化け物がいた。
体長は恐らく2メートル以上。二足で両腕を持つシルエットは人間に似ているが、あまりに膨張した筋肉が人間との関連性を真っ向から否定している。
あんぐりと開けられた口にはホホジロザメを思わせる鋭い牙が生えており、危険な生物であると本能が直感する姿をしていた。
だが隊員が驚いたのは、そんな化け物がいることではない。
そいつが意識を失った状態で、カエルの如く仰向けで倒れていることに驚いたのだ。
コンクリート製の道路が化け物を中心に浅く陥没しており、強い力で叩き付けられたのだということが一目で分かる。
隊員の一人が静かに胸元の無線機を起動させると、現場の状況を報告した。
「えー。通報があった『ギルガン』ですが、既に何者かによって無力化された模様。捕獲して持って帰ります」
『ギルガン』と呼ばれた紫色の化け物は、ピクリとも動かない。
厳重な拘束が行われた後、拘束のためのバンドを留め終えた隊員が呟いた。
「こんな化け物、誰がやったんでしょうねぇ」
「そりゃあお前、『超能力者』がやったに決まってんだろ」
拘束されているギルガンを覗き込みながら、もう一人の隊員が当然のように答える。
「憧れますよねぇ、『超能力者』。俺も凄いパワーが欲しかったっす」
「バカ言え。『超能力者』なんざ、マトモな生活できねぇぞ」
呑気にそんな事を話しながら、隊員たちは現場から撤収していく。
そんな彼らの様子を、ビルの屋上から眺めている者がいた。
纏っているセーラー服が、その人物を女子高校生だと示している。
明るい肌に、毛先が外に跳ねたショートカットの黒髪が、爽やかな印象を与えていた。
何より目を引くのは、目を覆っているスノーゴーグルのような四角い形状のゴーグルで、レンズが暗く目元を確認できない。
そんな少し不思議な格好をした彼女は、取り出した携帯端末の時刻を見て一気に焦った表情へと変貌した。
「ってやばい、遅刻する!」
慌てて携帯端末を片付けた彼女は、ビルの屋上を軽く走り始める。
徐々にペースを上げていき、やがてビルの端が近付いてくる。
前傾姿勢を取ると同時に、空色のスニーカーでビルの角に足裏をひっかけた。
膝を曲げて全体重を足に乗せ、前方に向かって屋上の角を蹴る。
その瞬間。
バン!と空気が揺れ、彼女の体が弾かれたように飛翔した。
前に向かって跳んだ少女は重力に従って落ちることなく、高度と速さを維持したまま空を飛び続ける。
さながら、ジェット機のように。
彼女の名は
人智を越えた超常現象を引き起こす『超能力者』である。
始業のチャイムが鳴り止む直前に、チミーは教室へ滑り込む事に成功した。
教室へ入ってきたチミーに気付き、クラス中の視線が彼女に集まる。
あらゆる方向から視線をぶっ刺されるような感覚に少し嫌な気分を覚えながら、チミーは折りたたんでいた紙をポケットから取り出した。
紙を広げ、書かれてあった場所に着席する。
間もなくして、担任と思しき男性の教師が教室へ入ってきた。
彼の姿を確認するなり教室内の音が自然と静まったのを見ると、生徒からの相当な信頼を得ていることが伺える。
担任は最後尾の席にチミーがいることを確認してほっと息を吐くと、朝のホームルームを開始した。
「……で、彼女は今年からの編入生、染口さん」
途中で担任が、チミーについて言及する。
そう。チミーは今年からこの『
時は流れて、昼休み。
チミーは一人屋上で、悩みごとをしていた。
「うーん……。探す方法、何も考えてなかったな……」
メロンパンを頬張りながら、困ったように独り言を呟く。
その悩みへ答えるように、屋上の扉がガチャリと開いた。
「!」
振り返った先には、男子生徒が苦笑いを浮かべて立っている。
チミーはその顔に、ほんの少しだけ見覚えがあった。
「あ、一緒のクラスの……」
「
彼はチミーと、同じクラスの生徒だったのである。
酒城と名乗った男子生徒は、チミーから少し離れた場所に座って昼食の弁当を広げ始めた。
四角いゴーグル越しに彼の様子を眺めていたチミーが、質問を投げつける。
「屋上への階段。鍵がかかってたはずだけど」
「そりゃあ、この学校に来た染口さんなら分かるでしょ。『超能力』だよ」
さも当然のように答えた酒城が、右手のひらを広げて見せた。
指先がほんの少しだけ放電し、電気が空気中へ飛び出そうともがいている。
「『電子機器の操作』。それが僕の能力なんだ」
酒城の言うとおり、ここ『桐壺特別学校』は、『超能力者』だけが集められた専門の高等学校なのだ。
生徒
「へぇ〜、便利そうね」
何やら考えながら相槌を打ったチミーは、ふと閃いたように顔を上げた。
顔をずいと近付け、尋ねてみる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ。『この学校で一番強い奴』って、誰か分かる?」
「……え?」
チミーの口から飛び出た思いもよらぬ質問に、酒城の表情が固まった。
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