美少女に転生した俺は魔法で最強を目指す

彼方

第一章

第1話 転生

「やっば、スリルありすぎだろ」


 俺は、一条渉32歳の独身だ。地方の大学を卒業し、そのまま地方の適当な企業で働いている。


「やばい、来るべきじゃなかったかも……」


 隣で嘆いているのは佐々木達也、大学のころからの友達だ。そんな彼に連れられて俺たちはバンジージャンプをしに来ていた。もちろん会社は休みだ。達也のやつ、さっきまですごく楽しみにしてたのに、いざ跳ぶ直前となったらこれかよ……。


「この紐をつけて――」


 そんな彼は、スタッフの指示に従って、着々と準備を進めていった。


「あのぅ、これって万が一ちぎれたりしないですよね?」


 彼は弱弱しい声で聞いた。


「はははっ、皆さん同じ質問をされますが大丈夫ですよ。」


 スタッフは笑いながらそう答えた。

 そして準備が整いあとは飛ぶだけ……


「やっぱ怖い……」


「はよ飛べって、男だろ?」


 俺は弱気な達也に渇を入れた。


「そ、そうよな。行くぞ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 達也は落ちていった。しばらくして……


「楽しすぎる!もう一回やりてぇ!」


 なんだこいつ。さっきと全然違うじゃねぇか。吹っ切れたのか?っと、次は俺か。

 下を見下ろす。バンジージャンプ場の下には大抵川や湖が広がっているがここは珍しく砂利が広がっている。達也が怖がるのも無理はないかもな。


「ちゃんと帰って来いよ(笑)」


 そんなことを達也に言われながら俺は飛び降りた。

 バンジーのゴムが最下点に到達したときそれは訪れた。ゴムが切れたのだ。おい、嘘だろ。俺にはいろいろやりたいことがあるんだ。特にPCのデータだけは消去しないと……。

 


ゴキッ



 骨の折れるような音を最後に俺の意識はプツリと途切れた。


 ――――――――――


「遂に…ね」


 シンプルな書斎で女はつぶやいた。天窓から見える月を眺めティーカップに入った紅茶を飲みほした女はローブを羽織り、宝飾品を身に着け、部屋の外に出る。廊下をツカツカと音を出して歩きながら錫杖を模した杖をどこからともなく取り出す。


「待ってるわよ」


 女は再び月を眺めながらそうつぶやいた。


 ――――――――――

 

 目が覚めた。見知らぬ天井に寝心地の悪いベッド。ゆっくりと意識が覚醒していく。俺は何をしていた?

 確か同期の達也にバンジージャンプに誘われて、おびえる達也を見て、それで……。そうだ俺はゴムがちぎれて落ちたんだ!落ち着け、いったん状況を整理しよう。生きているということはここは病院か?


 周りを見渡すが、ほかにベッドはなく、ましてや病院のような感じはしない。それどころかここはまるで――


「子供部屋の用だ」


 そこで俺は自身の体の違和感に気づいた。手が小さい。いや、手だけじゃない。脚も体もまるで子供の用だった。そんなはずはない。俺は32歳だぞ?鏡を求めた。自身の顔を確認したかったのだ。ベット横の台の上に手鏡を見つけた。震える手を伸ばし手鏡を手に取り、恐る恐る自分の顔を確認した。そこには……


見知らぬ子供の顔があった。


「ひっ…!」


 思わず手鏡を投げ出してしまった。鏡の割れる音がする。部屋の外からドタドタと足音がする。音を聞きつけたのだろうか。


「何があったの⁉」


 部屋の扉があけられ見知らぬ女性が入りながら聞いてきた。何かを察したのか彼女は“私”を抱き寄せた。急激な身体の変化による精神的疲労があったのだろう。“私”の意識はそこで途切れた。彼女の胸の中はなぜか安心感があった。


 ――――――――――

 

 気が付いたら真っ白な世界にいた。どこを見ても白色でどこまでも広がっているかのようだった。下にも空間は広がっているように見えた。だが足はしっかりと地面をとらえている。まるで透明な何かがあるようだ。


「大丈夫ですか?」


 声を、かけられた。声の方向を向くと、女性が立っていた。きめ細やかな肌をしており、一枚の布を体に巻いて、肌を隠している。特筆すべきは彼女の背中から生えている真っ白な翼だろう。ツヤがあるその翼は大人の腕ほどある、大きなものだった。一目見てわかる。彼女は天使だ。


「私は、メタトロンと申します。転生を管理している大天使ガブリエル様の部下です。」


 彼女――メタトロンはそう言ってお辞儀をした。その言葉を脳が処理するのに数秒かかった。


「あ、あの、転生っていうのは……」


「あなたは死んでしまいました。私たちの不手際によって。」


 不手際……


「本来であらば、ゴムがちぎれるのはあなたの一人前の方でした。しかしこちらのミスによって死ぬのがあなたになってしまいました。さらに、本来なら転生する前に“天界ここ”に呼ぶのが普通なのですが処理に手間取ってしまい、呼ぶのが遅くなってしまいました。申し訳ございません。」


 本来なら俺は死んでなかった?けど、達也が死んでたってこと?そうか……。まあでも、


「死ぬのが達也じゃなくてよかった……か」


 不思議とこみあげてきた感情は悲しみではなかった。

 それにしても俺はなぜここに呼ばれたんだ?


「あなた様には一連の出来事と不手際の補填による“贈り物ギフト”について説明するようにガブリエル様から仰せつかっております。」


「“贈り物ギフト”?」



――――――――

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