照らし出す、神の使い②
「アマ様。お仕事は大丈夫なんです?」
「うむ、昨日不眠不休で終わらせてきた。後は代理のものたちに任せても大丈夫じゃろう」
まもなくコンの尻尾は俺の頭から離れ、黒い…アマ様…?と言いたくなるふんわり加減で降りてきたアマ様に声を掛けると、重々しく頷いてそう言った。
その際しゃらんと音が聞こえた気がするほどに美しく、純白の狼の耳や身に纏う豪華絢爛な柄の施された丈の短い和服が揺れ動く。
そしてその実り豊かなお胸も「紳人?」何でもございませんコン様…。
「アマ様」
「んむ?」
必死にコンの暗黒微笑を宥めていたら、ふとナトべがアマ様を呼ぶ。
どうしたのだろう?何か頼み事や相談事があったのかな。
「上から来られるのでしたらその格好はやめた方が良いのでは…」
「何!?やはりああいう場面は謎の光の方が喜ぶかのう!?」
今、俺の目の前でナチュラルに最高神が忠告を受けた。
あと気にするところはそうではないと思う。加えて後半は何も見えなかったよ、コンの尻尾で。
「そうですよアマ様!」
「ウカミ?」
「紳人はスパッツ派です!」
「違いますけど!?」
「そうじゃったのか!」
「違いますって!」
『そうだったのか!!』
「違うって言ってるのにぃ!」
どうか神様方、俺の声をお聞きください…!
俺は一言もスパッツ派とは申しておりません!
ワイワイと俺を他所にざわめき立つ周囲に困惑していると、くいくいと服が引っ張られる。
見ればそこでは、目の前でコンが瞳を潤ませて俺の方を見上げていた。
「わしも履いた方が良いかのう?」
「気にしなくていいからね…」
その後、全力で俺がスパッツ派だというあらぬ誤解を解いて神様たちも其々の行先へと戻っていく。
「お前さんも苦労するな」
「ナトべ様!」
唯一分かってくれた彼に思わず目頭が熱くなるが、そんな彼もやがて手を振りその場を後にした。
「はぁ…何とか落ち着いた…」
「いやぁ面白かったのう。迎えにきた甲斐があったぞ」
「本当ですね♪」
「やっぱり俺で遊んでましたね!?やめてくださいよ、変な認識されたら肩身が狭くなります!」
俺が好きなのはもふもふなんだ…スパッツも嫌いじゃないけどね?
この神様たちは隙あらば俺をあの手この手で揶揄ってくるので心臓に悪い。
「そういえばアマ様や」
「ん?どうした、コンよ」
「何故此方に来たのじゃ?」
「決まっておろう。昨日はエビスのところに泊まったようじゃからな…今日こそは妾たちの天岩戸に!」
むふ〜!と腰に手を当てて目を輝かせるアマ様。大して、俺たちは顔を見合わせて困ってしまう。
ウキウキしているところを邪魔するのは忍びない。
けれど…このまま言わないでいるのも酷か。
こくりと頷き、アイコンタクトで俺が代表すると決めてから恐る恐る話かける。
「あのですね、アマ様。お楽しみのところ水を刺すようで申し訳ないのですが」
「何じゃ?」
「明日は月曜日なので俺、学校です」
「……つまり」
「今日はもう我が家へ帰ります」
瞬間。アマ様が大粒の涙を目尻に溜めてプルプルと震え出した!
「あぁでも今!今からお邪魔したいです、俺天岩戸に行きたいな〜!」
「本当か…?」
「本当ですよ」
「そ、そうか…良かろう!では付いて参れ!」
危なかった…最高神を泣かせたとあっては、確実に俺は二度と日の目を見られたかっただろう。
天岩戸に篭られてまた日本を暗黒に染め上げる訳にはいかない。
「では行こうか、紳人」
「こういうのもまた一興ですよ♪」
「あぁ…行こう!」
コンとウカミに促され、俺はアマ様の後を追って歩き出すのだった。
「……聞いちゃったです!」
そんな声が遠くで聞こえたけれど…気のせいだろう。
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