土曜日の話。

狩野すみか

第1話 スー

 さっきまで、ドライフードに入れてレンジでチンした水、汁を飲んで、ごはんを食べる気満々だった猫が、私の膝の上で急に唸りだした。

 ーー何か気に入らないことがあったらしい。

 土曜日出かける日は、大抵いつもこうだ。

 母は、

「出かけるのが分かるんちゃう?」

 というけど。

「スー、はよ、ごはん食べて!」

 毎回こうだと、ウンザリする。

 何回抱っこしても、ティッシュでお口を拭いても食べないので、私は仕方なく、お箸でドライフードを食べさせることにした。

 嫌がるスーのお口を無理矢理開けて、お箸でドライフードを詰め込んでいく。

「お箸やと食べるんや」

「スーちゃんは、孫みたいで可愛い」

 という母は、向かいで、そう言って、ニコニコ笑っているけど、こっちは頻繁にこうやられるとかなわない。

「汁は自分で飲んで!」

 と言っても、今日のスーは、全く自分で飲む気なし。

 仕方なく、私は覚悟を決めて、ティッシュを彼女の左側に何枚か重ねると、彼女の顎を開け、お皿から直接お口へ流し込んだ。

 ふぅ~~。

 今日は上手くいった。

 何回かに分けて、スーのお口へ汁を流し込みながら、私は心の中で、安堵のため息を吐いた。

 以前、産休前に、五、六年担当して貰っていた美容師さんに、突然、不気味な笑顔と声で、

「猫にごはん食べさせてるんやって?」

 と言われたことがあったけど。

 今の私がその問いに答えることが出来るなら、

「致し方なく」

 スーは、真夏の炎天下、生後四週くらいで、うちの近所を歩き回っていた子猫で、企業戦士だった父が退職して、初めて飼った猫を亡くして落ち込んでいた私に、

「飼ったれや」

 と言うまで、二日間、近所で目撃されつつ、誰にも保護されなかったトラ猫の女の子で、私が保護した時には、獣医さんが、

「生後二週」

 と間違えるくらい、小さく、痩せていた。

「二百グラム」

 と言われて、母が面白がって、

「いつ食べようか?」

 というくらい、目ばかり大きく、ガリガリに痩せていた。

 いつ母猫とはぐれたのか、それとも捨てられたのか、さっぱり分からないが、おかげで、スーは飢えには滅法強かった。

 ごはんを食べ終わったら、ウェットティッシュでお口と体を拭いて、歯磨きタイム。

 このために、ごはんの時から捕まえているだけなんだけど。

 スーを保護して、四時間おきに、哺乳類でミルクをやっていた頃、もうすぐ産休に入る二人の小学生の男の子がいる美容部員さんに、

「可愛いでしょ?」

 と聞かれて、

「寝てる時が一番かわいい」

 と答えたら、子どもを持つ母親認定されて、仲間に入れて貰ったことがあったけど。

 私自身は、スーを人間の子ども扱いしているというより、むしろ逆だった。

 スーは、人間ではなく、猫だから可愛い。

 最後に好きになった人が自分よりも年下の男性で、向こうがはっきりしないまま、会わなくなってしまったこともあるけど、私はどうも年頃の男女というものが苦手だった。

 猫は、世話したら世話した分だけ愛してくれるし、自分勝手で複雑なことを言ったりしない。

 もちろん、猫達にも、私には分からない感情?はあるみたいだけど、私は、人といるより、猫達といる方が楽だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る