第28話:DEVIL CONTRACT

戦闘は部屋に留まらず、壁を破って部屋を転々としていった。純粋な剣技だけで圧倒してくるアッシュはとても話に聞く4大天でないように思えた。

「4大天は魔法を使うと聞いたが、あなたは使わないのですね」


「ふっ、魔法とやつは嫌いでな。あれは体をダメにする。人間… いや、生物に生まれたのなら、どんな小さなことも筋力を働かせて成し遂げるものよ」


伊達にこんな出鱈目な強さをしていない。彼はちゃんと芯の通った、真の戦士だ。武を極めし、真の… だがここで倒さなければいけない。例え彼が心の中では戦いたくなくても—

「抑制魔法?」


それは王都進行前のガガギスとの会話。

「4大天は現国王を守る忠実な立場、封印指定魔法を体に刻印させる代わりに絶対的忠誠心を約束させる魔法を心臓に刻印した」


「それって…」


「あぁ、グラスプハーツだ」


グラスプハーツは刻印者の命令に背いた時発動する条件付き魔法、その非人道さから封印指定を通り越して忘却指定に認定されてる。まさかまだ残っていたとは。

「だから、説得に意味はない、闘いあるのみ」


—つまり、強制的に戦わされてる、助けてやりたい。が、手を差し伸べたら死ぬかもしれない。魔術は死ねば消えるはず。なら死なない程度に、殺すだけだ。

「『目』が変わったな、いい『目』だ。人を殺める覚悟の『目』だッ!!!」


「僕は君を殺す、だから本気でかかってこい」


「…よかろう。魔術を使えということだろう?なら遠慮は要らないよな」


殺気が増した。身が吹き飛ぶような殺気だ。内心恐怖で怖気付いてしまいそうだ。

なぜ笑う?

いや笑っていない。

自分の顔を見てみろ、笑ってるぞ、フォルネよ。

笑っているのか?僕は今。なんで… いや、分かる。楽しいんだ。戦闘を楽しんでる?そんな野蛮なこと…

「考え事をしとる場合かッ!!」


アッシュからの一撃にワンテンポ反応が遅れた。もうアッシュは目の前まで来ている、回避は…間に合わないッ!!

「『亜空間貯蔵ポケットディメンション』ッ!」


「!!」


なんとか、直撃は魔逃れた。亜空間貯蔵ポケットディメンションでアッシュの斬撃を吸収した、いや、どう言ったらいいのか?

「それの技…!貴様ッ!まさか… 」


アッシュの態度が豹変した。俺が魔術を使ったことに対して怒っているのか?

「生かしてはおけん… 魂の色だけだと思ったが… 」


アッシュがまた速度を上げた…!さっきよりも、1秒あたりの斬撃が多いッ!防ぎきれないッ!

「貴様ぁ!また世界を… 我らの種族を愚弄する気かッッ!!!」


アッシュの斬撃を防ぎきれず、左頬、両腕、腹部、右足に数箇所斬られた。絶えず続く攻撃に僅かな隙が積もり、そして大きな溝になり、俺はアッシュの強烈な一撃を許してしまった。俺の胸は燃えるように熱い。あぁ… 斬られたのか…。負けた… のか。アッシュが近づいてくるのが見える、トドメを指すのだろう。もう体に力が入らない… もうダメなのか…?

負けたのか

うん、そうみたいだよ。

わちが言った通りに、体を委ねれば良いものを。

分かってる、けど無理なんだ。

なぜじゃ?

君には負担させたくない。

…なら戦え。立って戦え。

立って… 戦え、か。もう意識を保つ力もない。

なら一度だけ、一度だけ奇跡を与えよう。

傷口が…治っていく?力も… 回復してるのか?何をしたんだ!

わちと主の共鳴力を上げた。これで少しは戦えるじゃろ。ほら、行ってこい。


「まだ立つ力が残っていたのか。だがこれにて終わりだッ!」


次の瞬間、僕は槍を構えてた。そしてそれをアッシュ目掛けて貫いた。体が軽い。

「ッ!!なぜまだ動ける!?」


「… 決着をつけよう、アッシュ」


「その気なら、こちらもを使わぬと無礼というもの」


彼は自分の右胸に手を当てた。するとそこが赤く光だし、円形の魔法陣が浮かび上がった。そうか、これが魔法なのか。あと魔法陣は…

「未来視の魔法陣か」


「なぜそれを知っている!?これは封印指定の代物だぞ!」


「あぁ、なんでだっけ?赤い髪の… いやいい。今はただ… 高鳴っていたい」


漲る力で地面を蹴り、刹那の間に距離を縮める。予知していたとはいえ、この速度に反応できる生物は、少なくとも地上にはいない。槍でアッシュを突き飛ばした。

「貴様あああああ!何をしたッ!?」


「契約だよ」


これはフォルネウスとの契約。彼女との共存。悪魔との混同。

「『悪魔付き』か…」


古来より、悪魔と契約して超人的能力を手に入れた者がいた。彼らはその代償に様々なものを譲渡したという。そして彼らの特徴は、皆、黒い目をしていたという。

「『悪魔付き』だとッ!?やはりあの日見た光景は… 貴様の仕業だったのかッ!」


襲いかかってくるアッシュがスローモーションに見える。彼の攻撃は一振り一振り簡単に躱せる。

「『ファイアピラー』」


アッシュの周りを円形の日で囲み、絶対に逃げれない状況を作った。

「しまっ…」


「『魂/視認』『釘/装填』『神魂貫通スピリットストライク』ッ!」


未来視によってどうくるか分かっている以上、逃げれない今、絶望しか彼の頭の中にはない。僕の槍はアッシュの胸を貫いた。

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