30話 アプトトス


 今、俺はどんな顔をしているのだろうか。

 自分では分からないが、間違いなく断言できることはある。

 それは、笑顔ではないということだ。


「はぁ〜」


「どうしたの? そんなため息ついて」


「いや、別になんでも」



 と口では言っておくが、内心はありまくりだ。

 ステラは斥候と言うこともあり、常に俺たちの前を歩いている。

 そして、カーラからは自分の前を歩けと言われた。つまり、今の俺は挟まれている状態なのだ。



 ここだけ聞くと、とても幸福な場面なのだろう。俺も聞くだけだったら、自慢かと腹立たしい気持ちになる。


 いや、たぶんはっ倒す。

 だが、実際に現場に立ち会って分かった。

 これは全く嬉しくない。


 後ろからはジトリとした視線を感じる。ステラが時々後ろを振り向いては露骨に尻尾を揺らす。

 しかも、ニヤニヤと笑いながら。


 その度に後ろから殺気に近い圧を感じるのだ。もし、これに触れようものなら殺すと言わんばかりの凄まじい圧が。



 なんなんだ、この嬉しくないサンドウィッチは。挟むならもっと美味いものか、スピナーにしろよ。

 あいつならきっと喜ぶからよぉ。


 今からでもあいつと立ち位置を交換できないかと考えていると、ステラが立ち止まって静かにするように合図を送る。


「ほら、いたよ」


 小さな水溜りに1匹の四足動物がいた。

 小さな体に不釣り合いな立派な角が生えたモンスターだ。

 アプトトスである。


「よし、じゃあ頼んだ」


 俺はアプトトスに気づかれないように後ろに下がる。あとはステラがやってくれるだろうと、


「何言ってるの? あれはグレンが捕まえるんだよ」


「え?」


「一個は角も取ったし、残りのアプトトスも見つけた。これ以上やると、手伝うの範疇を超えちゃうからやらないよ」


 確かにその通りだけど、ここまで来たなら別に最後までやってくれても良いんじゃないか?

 ランク8のお前だったらあいつらなんか一瞬で終わるだろ。


 いや、ここまでやってもらって文句を言うのは違うな。


「頑張ってね」


「うぃーす。ありがとな」


「どういたしまして」


 

 俺はできうる限り、魔力を体外に出ていかないように内に留めておく。

 身体能力はかなり落ちるが、気づかれる可能性はぐっと減る。


 あとは気配を消しながら、音を立てないようにゆっくりと近づく。

 一歩、二歩。

 よし、ここからなら捕まえられる。


 俺は魔法袋から縄を取り出して、魔力を再び体外に纏う。

 アプトトスは跳躍して、逃げようとするが遅い。

 投げた縄は首に掛かった。


「おっと!」


 思いのほか力強く暴れるな。

 このままじゃ、角の採取は無理そうだ。


「ショックボルト」


『ピギッ!?』


 手から放出させた小さな雷がヒット。

 アプトトスは小さな鳴き声をあげて、動かなくなった。近づくと、息はある。

 気絶しているだけだ。


「よし、ちょっと角をもらうぞー」


 小型のナイフを取り出して角を切り取った。

 目的は達成したので、弱めの回復魔法をかけてやる。

 アプトトスはすぐに目を覚まして、すぐにどこかへ行ってしまった。


「わざわざモンスターに回復魔法をかけてあげるなんて、随分と優しいんだね」


「そうかぁ?」


 絶対そんなことないと思うけど。

 あいつからすればいきなり攻撃された角取られたんだぞ?

 こんなのが優しさなら、世界は慈愛で満ち溢れてるわ。


「………やっぱり、面白いね」


「え、何が?」


「いや、こっちの話さ」


 

 俺、そう言うのはすごく気になるタイプなんだけと。これがスピナーだったらすげーしつこく聞けるんだけどなぁ。

 そして、しつこすぎて殴られるまでがワンセットだ。


「まぁ、何はともあれ」


 これで、クエストは終了だ。






ーー






 そして、書き溜め分が無くなったとさ。


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