第22話 再会と結婚式
大伯父の邸宅から帰ってきて二日が経った。
リリベットは朝食を食べてからはすぐに自室にあるドレスの入った箱を取り出した。
まだ開けていないのでリボンと包装紙を外して身につけようとしている。
「おはよう。ドレス着て」
「わかってるよ。ロッティ、とりあえず採寸よりは痩せているかも」
リリベットは早朝にパーティー用のドレスを着ようとしているときに、妹のシャーロットが心配そうにこちらを見ていた。
このドレスは彼女が初めて仕立てたドレスの一つなので、本人は姉の着ている姿を見て気にしているようだった。
靴はシャーロットがドレスに似合うように用意してくれていたのだった。
ドレスは夏らしい淡いブルーで丈はふくらはぎより少し長めではるが、袖などに透ける布地を使っているので見た目は涼し気に見える。
採寸したときよりも痩せたのか、少し余裕が生まれているのでホッとした。
逆に余裕ができているのは良いとリリベットは思っている。
「着てて変なところはない? 突っ張るとか」
「特にないよ。とてもきれいに仕立てられてるね。あとは胸元にビジューとかはつけてもアリかな?」
「ありがとう! 飾りのこと忘れてたよ。ブローチとかつけていけば華やかなになると思う」
そう言ってシャーロットはアクセサリーボックスから一つのブローチを取り出した。
深い緑色をしているエメラルドのブローチで、リリベットが成人祝いのときに贈られたものだ。
節目や華やかな場に着用しているものなので、これから向かう晴れの日にふさわしいものだ。
「ありがとう。よくわかったね、そのブローチがお気に入りだって」
「わかるよ。成人祝いにもらったものだからね。あんたの瞳の色だもの」
その後にシャーロットはリリベットのヘアメイクを行ってから、すぐに彼女を送り出していったのだ。
リリベットはエリンの王都アリにある大神殿で一組の結婚式に参加するのだ。
実家から
そして、大神殿での結婚式は王都に住む人々の憧れの場でもあるのだ。
学院時代の友人であるミレーヌが結婚式を挙げるということで、友人たちとも久々の再会で同窓会の状態になっていた。
ミレーヌは両親が不慮の事故で亡くし、母方の実家である海軍将校であった祖父の養女となった。
そして、学院を卒業してすぐに祖父の親友の孫との縁談が持ち掛けられたという。
その相手は海軍少尉に任官された若者で年齢は少し年上、本人曰くかなり美男子だと言われているようだと話している。
花嫁の控室にミレーヌと再会すると純白の花嫁衣装を身に包んだ姿を見た。
クラシカルではあるが流行の取り入れられたドレスはレースがふんだんに使われ、レース刺繍がとても美しく施されている。
この刺繍があることで素肌を見せても上品で優美、それに花嫁らしい清楚な印象を与えてくれるようになっている。
子どもの頃から憧れのデザインであるようで嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
「きれいね」
「ありがとう」
ミレーヌは明るい茶色の髪も結い上げて白いバラの花が編み込まれている。
大神殿での結婚式は厳粛に執り行われることが多く、ドレスに関しても露出の少ないものが選ばれているという。
「リリベット。久しぶりに会えてうれしいわ。嫁いでしまえば、ジュネットに行くことは減るからね」
「そうね。おめでとう、アウローラが婚約したことは知っている?」
「もちろんよ。今日も来てくれるはずよ」
そのときに
その隣には婚約者である黒髪のルセールが立っているのが見え、思わず招待客たちも驚きの表情を浮かべていた。
アンリ=ルセール公爵の嫡男はとても優秀な魔法導師だと有名である。
さらに婚約したのが西の魔法大国であるローマン帝国のヴェルテオーザ公爵令嬢、アンリ=ルセール公爵家はローマン帝国の皇族との繋がりを得たことになる。
この二人は話題の婚約者たちであることは知られているが、この海軍将校の挙式には新婦側の招待だ。
「ルセールさんも来たんですね」
「まあ、教え子だからね。それに彼女の友人だし」
「アウローラ、おめでとう! 婚約したのがジル先生だと聞いて驚いたわ」
「社交界は嫌いだけど……この人となら苦ではないわ」
リリベットたちはそろそろ祭壇室へと向かうことになって、花嫁の控室を後にすると大理石で作られた神々の彫刻が出迎える。
人より大きく彫刻されているその姿はそれぞれの特徴的な姿が表現されている。
そのなかで一番最奥の二柱の神は生命の女神ヴィターナと冥界の神モルスだ。
生と死を司る神々の前で永遠の愛を誓うことは神話典でも記載されているため、婚姻の儀式として重要な形式となっているのだと考えられている。
リリベットは新婦側の長椅子に座ってから新郎の方を向いていた。
純白の儀礼服に身を包んでいる彼は凛々しいという言葉がとても似合う男性だ。
ミレーヌが好きな男性だと考えていたので、本人も嬉しそうに語っていた。
そのときに神官が新婦の入場を伝えると扉が開いて、ミレーヌとその父親代わりの祖父がエスコートをしている。
新郎新婦どちらにも海軍の礼装を身に着けている者も少なくはないが、母の従弟にも一人海軍将校がいたので見慣れた服装だなと考えていた。
新郎新婦が手を取り合って神官の前に着くと、婚姻の儀式が始まろうとしているのが見えた。
神々への夫婦としての宣誓と指輪の交換などを行うことで、この婚姻は神々によって認められたものとされるものが多いと考えていた。
「ミレーヌ。とてもきれい……あの子が本当に嫁ぐのね」
「アウローラもそう思う?」
「ええ、卒業式は号泣してたからね」
卒業して半年くらい会うことができなかった同い年の友人が、大人の女性に成長していることに感動してしまう。
そのときにアウローラも隣にいるルセールと話しながら見たりしている。
そして、婚姻に関わる儀式の後にパーティーへと向かうのだった。
結婚パーティーはお開きにはなっていないが、疲れてきてしまったので途中で帰宅することにしたのだ。
幸いにもちらほらと招待客が帰宅する人も増えてきたので、そろそろ頃合いなのかもしれないと思っている。
そのままリリベットは実家へと帰るために大通りを通る路面電車に乗って行くことにした。
意外と盛装をしている女性はかなり目立つが、この時期は社交界も盛んに夜会を開いたりしているのでまだ目立たない。
そのときに最寄りの駅について代金を支払うと、そのまま実家の近くまで歩こうとしていたときだった。
「あれ? リリベット」
そう声をかけてきたのは紺のシャツに黒のズボンを履いた青年で、ダークブラウンの髪に淡い紫色の瞳をしている。
「アレン、久しぶりだね、元気にしてた?」
会ったのは初等学校が同じでよく遊んだりしていた年下のアレンであることに気が付いた。
彼もどこかからの帰りみたいで仕事着のような服装をしているのが見えた。
「そっちは帰り?」
「うん。結婚式に行ったのか?」
「そうだよ。学院時代の同級生が結婚してね、とてもきれいだったな」
「そうか。確かに朝はかなり忙しそうに神殿の人たちがいたからな」
「うん。海軍の将校さんと結婚してね」
「そうか……で、リリベットはテレーズの研究所に戻るのか?」
「そうだよ」
「こっちに戻る予定はないのか?」
「わからないよ。それは……いまの仕事を続けたいと思ってるし」
それを聞いたアレンは思い立ったように自分を見つめていた。
視線が交わされるときに紫色の瞳が強い光を宿しているような感じがしていたようだった。
「また会うときには、土産話を持って来いよ」
「うん」
そう言ってアレンと別れて実家へと戻った。
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