第9話 皇女とお茶会
彼女の家に正式な招待状が届いたのはそれから一週間後、次の休日に学生寮に来てほしいと言われたのだ。
お茶会という名目上でほとんど交流を行おうとしていることにしているのだった。
彼女自身学院の敷地内にいた方が安全と考えていることもあり、できるだけ会うのは学院のなかで会いたいという希望もあったからだ。
学生寮に向かうときは制服ではなく私服で行くときには、まだ早い時間帯ではあるが先に行っといた方が送れずに済む。
今日の服装は七分袖の明るい青のワンピースに白のカーディガンを羽織り、靴は明るい茶色の革靴だ。
癖のない黒髪も丁寧に梳かして母から成人祝いにもらった
この鼈甲細工のバレッタはアズマ国の出身だった祖母の愛用していた物の一つらしいと教えてくれたのだ。
母も自分と同い年の頃につけ始めたものらしく、成人祝いとして贈ったのも自然かもしれない。
そのときに一度時計を見ると約束の時間まで一時間半くらいあるのを見て、先に菓子店に行ってお茶会に添える菓子を探そうと考えてた。
そのままこの辺では有名で学生たちにも人気の菓子店へ入る。
「あら、久しぶりね」
「こんにちは。焼き菓子の詰め合わせを二袋お願いします」
「ありがとう。今日はパーティーにでも行くのかい?」
「ちょっとしたお茶会に行くんですよ。だから、お土産にでも」
「そうね。学院の卒業生なら、このお菓子は鉄板よね」
そう言いながらリリベットは卒業した同級生たちとお茶会にでも行くのかと思われている。
その方が気持ちも楽になるのでそれを貫き通していこうと考えている。
丁寧にラッピングもしてもらい、代金を支払ってからすぐに学生寮へと向かうことにしたのだ。
リリベットのカバンには家にある魔法書のなかから、基礎的な魔法から発展させるもので魔法の扱いに長けた学生ならばこれを熟知できるのではと思ったからだ。
それをリリベットも同じだったためか、似たようなことかもしれないと感じている。
学生寮が近づいてくるのが見えるごとに心臓の鼓動が徐々に速くなってくるように感じた。
これは昔、王族の方々が学院へやってきたときに似ているし、それを感じていることが大きいのかもしれない。
そのときにまず学生寮の玄関にある寮監室へ行こうとしているのが見えたのだった。
寮監室のドアをノックすると、奥から声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。リリベット、元気にしているようで何よりよ」
「デュラン先生。お久しぶりです、あの……ローザマリア殿下のお部屋にお招きされていて」
「そのことはローザマリア様から言付かっていますよ。昔、あなたが使っていた部屋の隣にある特別室になりますよ」
「わかりました」
三階の一番最奥にある特別室というのは学生寮で国内外の王族などの入学した際に、過ごすことになる部屋になるのだ。
ここは数年に一度の頻度で使われるのだが、現在はローザマリア皇女とその護衛騎士と暮らしているのだ。
この部屋は二人部屋の壁をぶち抜いて個室で使われているのだ。
そのため、隣の学生寮にはお付きの騎士などがいることも少なくはないのだ。
そのときに廊下に一人の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
淡い金茶色の髪に瑠璃色の瞳をしている女性がこちらを見つめているのが見え、こちらを向いて礼をしているのが見えた。
この前の研究所に来ていたあの若い女性騎士だということに気がついたようだった。
「おはようございます。アンダーソンさん」
「あ、どうも……護衛騎士の、人でしょうか?」
「先日は自己紹介をしていなかったのでここで」
「あ、はい」
「ビアンカ・ルナ・フェラーリ=モンテベルディと申します。よろしくお願いします」
「ビアンカさん。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。リリベット様」
その丁寧な口調に慌てて彼女はビアンカにこう話していた。
身分も違う自分が敬われるようなことはまだしていないと考えてしまう。
「いえ、わたしはリリベットで良いです。平民ですし」
「ローザ様があのような笑顔になられたので……大切にさせていただきたいのです」
「わかりました。ビアンカさん」
「お気遣いいただきありがとうございます。それではローザ様の部屋に行きましょうか」
「はい」
学生寮の廊下を歩くときに懐かしい気持ちになって、自分がかつて暮らしていた部屋のネームプレートを見つめていた。
そこには既に新しい学生が入居しているみたいで新しい日々に使われているんだろうと考えていた。
(懐かしいな……)
「リリベット様、どうされましたか?」
「あ、いえ。卒業までここを使っていたので。二月まではここにいたんですよ」
「それでは先輩ですね」
「でも、わたしは研究者住居に引っ越しただけなので。あまり変わらないですよ」
「女性でも研究者になられるのはすごいですよ。騎士でさえ、女性が登用されたのはここ五、六十年ほどですし。まだ少ない方ですよ」
そのときに部屋にたどり着くとそこには『R・C・ビアンキ=ローゼオール』と書かれてあるネームプレートを見つけると、少しだけ緊張が体を包み込んでいき手足が少しだけ震えていくようなことをしていたのだ。
ドアをノックしてからローマン語で何かを問いかけているのが見えた。
「ローザ様、良いでしょうか?」
「はい。お願いして」
ドアを開けてくれたローザマリア皇女は淡いピンクのワンピースを着てこちらを見つめているのが見えた。
驚いたのは長い前髪を彼女が上げていることだったのだ。
長い前髪を編み込みにしていることもあって、彼女の年相応な顔立ちがはっきりと見える。
(すごい美少女じゃない……どうしよう)
「ようこそいらしてくれました」
思わずその美しいローザマリア皇女を見たときに驚いていたが、そんな自分を見て嬉しそうに頬を赤く染めているのが見えた。
こう見ると年相応に見られるのだが、学院のときは何となく影を持つ学生になることに考えてしまう。
「ここに座ってください。リリベットさん」
「良いんですか? 失礼します」
「はい」
「あ、いい匂い。焼き菓子ですか?」
「はい。これ、学生の間でも有名なんですよ。ぜひ、お食べになってください」
「ありがとう。その前に確かめてもいいですか?」
そのときにリリベットが焼き菓子を食べているときにビアンカも同じようにそれを食べることにした。
一応、毒見をしているみたいだが、問題はないという事らしい。
その光景を見ているときにまるで現実ではないような気がしていた。
「それじゃあ、お茶会をしましょう。紅茶をわかせてあるから、一緒に」
「はい」
リリベットも手伝いながらお湯の入ったポットに茶葉を入れてお茶会に始めたのだ。
紅茶を一口飲むと、ふんわりとした味わいでとても良い香りが新しく広がっていく。
「おいしいですね」
「とてもいい匂いでしょう。クレール茶は伯父上入学祝にいただいたんです」
「いいお茶だという証ですね」
「ええ、よくわかりましたね」
「母がアズマのお茶を入れることがありまして」
「そうなのですね。お母さんがアズマ人なのですか?」
「いえ、母方の祖母がアズマ人で、わたしはその血を引いているだけですよ」
「だから魔力が大きいのですね」
「おそらく遺伝でしょうね」
そんなことをローザマリア皇女が話しながらも、少しだけ焼き菓子に視線が向いているのに気が付いた。
「これ、どうぞ。二つの味を選んできたんです」
「ありがとうございます。これ、どうしても食べて見たかったもので……外には少し出ることが難しいので」
そのようなことを聞いてから楽しそうに微笑みながら話しているのが見えた。
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