第2章 帝国からの留学生

第7話 学院からの便り

 四月が終わりに二週間前ほどからローマン帝国の留学生が来ているという話が回ってくる。

 午後三時過ぎに後輩が尋ねてきてお茶をしていたときにそのことを聞いたのだ。


 簡単なお菓子とかを持ち込んでから一緒に話したりしていることが多いのかもしれない。


 それとリリベットたちが持ってきていた紅茶を淹れて、後輩たちに出したりしているのが見える。

 それと同時にアウローラも書類の整理が終わったみたいで、参加する流れになって紅茶と小さなケーキを取る。


「え、帝国から来るなんて珍しいわね」

「そういう事じゃないの。先輩、その留学生が皇女殿下なんです!」


 それを聞いたときに思わず紅茶を吹き出しそうになってしまう。


 ローマン帝国の皇族がこちらに留学してくるということは前々から知っていた。

 質の高い学院には国内外から学生が入学してくるのと同時に、様々な刺激を与える機会になるのだ。


 リリベット自身も故郷から単身入学してきた身としてはジュネットの街並みなども気になっていた。

 しかし、すでに学院で学んでいることは知っている人もほとんどだという。


「ちょっと待って、それって誰かは知っているのね」

「うん。確か陛下の長女でローザマリア第一皇女殿下です。留学を望まれていたみたいです」

「そうなんだ。ローザマリア殿下はどんな方?」

「魔法の科目が一緒なのですが、かなり上級者で……下手したら研究所の方に来るかもしれないです。魔力が大きいんですよ」

「聞いたことがあるなぁ」


 実はローザマリア皇女の母君はアリソン皇后である。

 彼女はエリン=ジュネット王国の先代亡き国王であるアレクサンダー四世とルイーズの娘、この国の第一王女だった人物だ。


 そのなかで兄妹の中で一番魔力が大きく祖父母世代の遺伝を受け継いで、とても優秀な魔法導師として成長する可能性があるという。


「それにしてもローザマリア皇女殿下はあまり会うことがないのですよ」

「ローザマリア殿下は一人で来られているのですか?」

「いや、一人護衛の方がいらっしゃいますが……その方も普通に勉学を学んでいますね」

「留学と護衛を兼ねているのかもしれないわ」

「今日はここまでにしましょう」


 それから後輩は片付けも手伝ってもらい、すぐに学生寮へと走って向かっていった。

 そのときにアウローラはローザマリア皇女についてリリベットに教えてくれたのだ。


「リリベット。ローザマリア殿下のことだけど」

「うん。どうしたの」

「殿下の通訳をすることになってね。そのときに年の近い研究員をよこしたいらしいから。今度の休日に研究室へ来てくれるかな、平日のどこかで埋め合わせしてくれるらしいから」

「良いよ。その日は特に予定もないし」

「ありがとう」

「それにしてもローザマリア殿下のこと、教えてほしいの」

「ああ、陛下には五人のお子様がいてね。そのなかで長男のジャンマルコ皇太子殿下、次男のアレッサンドロ様、三男のアルベルト義兄にい様、長女のローザマリア様と次女がルイザ様ね。そのなかアレッサンドロ殿下までは成人されているから、本格的な公務に参加されているの。この前の帰省したときにジャンマルコ殿下が結婚されたばかりよ」

「そうなのね。子どもの頃から知ってるの?」

「ええ。去年の今頃にアルベルト義兄にい様が一番上の姉様と結婚しているの」


 アウローラからよく出る家族の話題には二人の姉と三人の妹がいることは知っていた。

 ヴェルテオーザ家始まって以来の跡継ぎ息子が不在になる。


 しかし、初代皇帝の三人の皇女が興したヴェルテオーザ、ローゼオール、ラヴァンダの三つの公爵家は男児の跡継ぎがいない場合は女系による継承が保証されている。


 そのためアウローラの長姉が跡継ぎとなり、婿に姉と同い年のアルベルトが結婚したという。

 ちなみにアウローラは双子の姉はすでに結婚が決まっており、来月挙式を上げるということも話していた。


 また帰国しないといけないという話をかなり嫌そうに話していた。


「アウローラ、お姉さんの結婚式見た方が良いよ?」

「わかっているんだけどね。親戚に『婚約者はいないのか?』と言われるのは嫌なの」

「そこだよね……」

「うん」


 そのことを聞いていると義妹いもうとであるローザマリア皇女について知っているのかもしれない。

 そのときはまだローザマリア皇女との出会いをするとは思ってはいない。





 研究棟の消灯は午後九時が原則なのだが、だいたい山場を迎えている研究員が残っているだけが多いようだ。

「アウローラも今日はお疲れ様」

「長丁場だったわね。今日の会議」

「魔法具を乗り物に応用するのは難しいからね」

 リリベットとアウローラたちが話していたのは今後開発する予定の乗り物に転用できるかを議論していたのだ。

 魔法工学のなかで複数の乗り物が実用化されているが、新たなる乗り物について議論していたのだ。

 しかし、これといった案が浮かぶはずもなく、みんな行き詰ってしまったのだ。

 これ以上考えても出てこないので、期間が空いてから再び会議を開くことにした。

「本当に。そうよね……明日、私用で欠勤するからよろしくね」

「え、そうなんだ。珍しいね」

「そうなの。でも、仕方ないわよね」

 ときどき気になるのはなかなか手入れができなかったので、丁寧に点検していったのだ。

「うーん。やっぱり長距離移動がしんどかったみたいだね。お疲れ様」

 そう労いながら丁寧に点検をしてから、次に洗車を行いたかったが難しかったのですぐに車庫にしまう。

 工具箱を手に自宅に戻ると、シャワーを浴びて夕食を作りながらラジオを流し始める。

 新聞は取っていないので、自宅にいるときはずっと報道か音楽番組をかけている。

 そのときにエリンで流行っている演劇がジュネットの王都テレーズの劇場で公演することが発表されている。

 役者もすでに発表されてから楽しそうな演目だと考えているのでチケットを取るのを楽しみにしている。



 翌朝、研究棟に出勤したときにリリベットの仕事を開始する。


 今日の仕事のほとんどは遺跡で発掘された魔法具の原型を考古学の研究員たちが考察したものを復元して作り上げることだ。


 この分野でも魔法工学の分野は片足を突っ込んでいる形で、古代の魔法国家の技術を復活させることが一番大切だと言われている。


 友人のアウローラは私用で欠勤しているので一人で自らの与えられた仕事を進めていくことにしたのだ。


 復元する魔法具の報告書と図案、だいたいの基盤の詠唱を読み込んでいく。

 類似しているものとすれば乗り物に近いのだが、それは水車のように回転して浮遊していくようなものだ。


「こんな形のものが存在してたのかしら。これがしっかりと復元できれば、たぶん空飛べるわよね」

「それを確実に復元することは帝国でも続けているけど、かなり難解で複雑な魔法ね」


 それを話しながらリリベットは書類を戻してから、再び義手の改良が終わったという連絡が来たので工房へと向かうことにしたのだ。


「こんにちは~。トマさんいらっしゃいますか?」

「おお。アンダーソンさんだね。こっちに来なさい」

「お邪魔します」

「いきなり呼び出してすまないね。水でも」

「ありがとうございます」


 職人と共に義手の改良が終わった物を見せてもらったのだ。


「義手の素材を変えてみたのだけど」

「これってどういうものにしてますか?」

「これはね……」


 そう言いながら素材のことについて聞きながら再び女性に試験的に装着をしてもらおうと考えた。

 それを様々な話をしながらすぐに時間が過ぎてしまっていた。

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