第20話 決戦は土曜日

 碧のことを本当に放っておいていいのかどうか、巴の中でまだ結論は出ていない。八神が単なるチャラ男ということなら可哀想くらいで済むが、小野に暴行を働いたヤンキーだったらそういうわけにはいかない。


 疲れていたせいか夜は思いの外早く眠れ、目覚ましのアラームをセットし忘れた巴だったが無事に起きられた。皇との待ち合わせ時刻には十分余裕がある。シャワーを浴びて髪を乾かし、メイクを仕上げ、ドラマで若い女優が付けていたヘアピンなど身に付けてみる。かわいいなと思って似たものを探して買っておきながら、未開封のまま数日間眠っていた代物だった。


 うん。こんな感じでいいかな。あんまり気合入れてきたと思われても恥ずいし。あとは——服か。巴は3着まで絞ってベッドの上に投げ出されているワンピースやらブラウスやらを眺めた。これが難しい選択なのよね。どこか遠い目をしてしまう。いっそのことパーカーにキャップとかでラフな格好にしてしまってもいいのだが、もっと女の子っぽいほうが好まれるかなとか思ったり。まったく恋する乙女か! と自分にツッコミを入れたくなる。あれ、なんかデジャヴ。


 30分ほど迷い、結局第一感のシンプルな白いブラウスに落ち着いた。これにスモーキーピンクのプリーツスカートを合わせる。短すぎないミドル丈。……よさそう。デートっぽさある。ガーリーすぎると地雷寄りになるリスクもあるが、これならそういうこともないはず。仕上げに鮮やかな赤のカーディガンを羽織ってフィニッシュ。全身鏡の前でくるっとターンする。いいんじゃないでしょうか。暑くなっても脱げるし、温度調節まかせろりという感じだ。


 コーディネートが完了し、最後にやっぱり髪型も変えてみるかと思い立つ。あまりやらないけど、三つ編みにしてサイドに垂らしてみよう。これでちょっとはお姉さんっぽくなったでしょ。あとは皇の身長がやたらと高いから、なるべく高めのヒールか厚底を……と思ったが、あいにくそんなに高いのは持っていなかった。せいぜい5センチとかそんなもん。まあ、あんまり高くてもグキッてなるし足痛くなっちゃうからね。

(——よしっ)

 準備は万端、整った。巴が一通りの支度を終えてスマホを見ると、約束の時刻まであと20分を切っている。

「やば。意外といい時間……!」

 なんだかんだギリギリになってしまった。電車のタイミングが合わないと怪しい。でもヒール履いちゃったしダッシュは避けたい。

 電車の時刻を調べてみると、ゆっくりしなければ間に合いそうだった。

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