残虐兵器撲滅少女ティアドロップ
伊達夏樹
第1話『残虐兵器撲滅少女ティアドロップ①』
「はい! 花冠ッ!」
無邪気な笑顔が可愛らしい少女が、手作りの花冠を俺の頭の上に載せてくれた。
あ、リリアだ……
俺は気恥ずかしさと懐かしさを感じながら、自分が子供に戻っている事に気がついた。
「……うん、ありがとう」
「えへへー」
俺は嬉しそうに笑うリリアの頭を撫でると、リリアはさらに笑顔を咲かせる。その様子を見て、思わず頬が緩んだ。
春の心地よい風がリリアの黒い綺麗なツインテールと白いワンピースをひらひらと揺らし、それがとても愛らしくて似合っていた。
「じゃあ俺もつくってあげるよっ!」
俺が少し照れながら言うと、
「じゃあ、お願いしようかな」
リリアが笑顔で答えてくれた。
リリアは花冠を作る俺の小さな手を目を輝かせながら見守っていた。
「……えーっと」
俺は見様見真似で作る花冠にもたつきながらも一生懸命作り上げた。
「よし、完成だ!」
「わぁ〜! すごいっ!」
出来上がった花冠を見て、リリアは感嘆の声を上げる。そして出来上がったものは、不格好ながらも頑張った様子が伝わってくるものだった。
「はい、どうぞ」
俺はリリアの小さな頭に、その花冠を載せる。するとリリアは、満面の笑みを浮かべて、
「ありがとう! ふふっ、お揃いだね?」
「そうだね」
俺は少し気恥しかったが、隣で俺と同じように照れながら喜ぶリリアを見て、幸せを感じた。
それから俺たちは、草原の上で一緒に寝転んで空を見上げる。
雲一つない青空と太陽の光が眩しい。
ふと横を見ると、気持ちよさそうに目を閉じるリリアの姿があった。
その無防備な姿に微笑しながら、俺は彼女の手を握る。
すると、リリアの手も俺の手をギュッと握り返してきた。
暖かいなぁ。こんな時間がずっと続けばいいのに……。
心の底からそう思う。
「ねぇ?」
「ん?」
俺はリリアに少し困惑気味に聞いてみた。
「あれ、なに?」
俺の問いかけに、リリアは振り向いた。背丈がおそらく子供くらいの白い蜘蛛が、こちらに向かっているように見えた。
その巨体は遠くからでもハッキリ見え、圧倒的な存在感を放っていた。
「あれは……なんでこんなところに
が」
リリアが顔を真っ青にしながら呟く声は、明らかに怯えていて、まるで俺たちに危険が迫っている事を伝えているようだった。
次の瞬間。
『ギィイイッ!!』
突如として鳴り響いた機械音のような声に驚きつつ、リリアに手を引っ張られ、咄嵯にその場から離れた。
「あっ!」
2人で作ったお揃いの花の冠が2人の頭からひらりと落ちると、俺たちがいた場所に、白い蜘蛛の糸が放たれ、地面に触れた瞬間、蜘蛛は鎌のような前足で糸を勢いよく擦ると、まるで導火線かのようにその部分が燃えがり、次の瞬間。目の前の花々は激しい炎をあげ、煙が俺の視界を覆い尽くした。
「なっ!?」
「きゃあっ!!」
視界が完全に遮られてしまい、状況が全く分からない。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
「くそっ! 一体何が起きてるんだよ……!」
俺は急いでリリアを抱きかかえると、全力で駆け出した。
しかし、勢いよく燃えあがるせいで視界が悪くなり、その上恐怖で、上手く走れずに何度も転びそうになる。それでも必死になって足を動かし続けた。
そしてようやく視界がはっきり見え始めた頃、
「「うわぁぁあああ!!!」」
突然背後から強烈な衝撃を受けて俺とリリアは吹き飛ばされた。
地面に叩きつけられた後、俺はゴロゴロと転がりながら木に衝突して止まった。
あまりの激痛に意識を失いかけるも、なんとか堪えて顔を上げる。
少し離れたところでぐったりと倒れているリリアの姿が見えた。
「リリ、ア…」
煙の中目を凝らすとリリアの背後には、不快な機械音とともに白い蜘蛛が、近づいて来ているのが見えた。
『ギギ……』
「う……くっ……!」
身体中が悲鳴を上げている。骨が何本か折れてしまったようだ。痛みのせいで頭がおかしくなりそうだ……。
『ギギギ……』
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
リリアを絶対に助けてみせる。
「……ぅ……けほっ……」
「リリアッ!!!」
咳き込みながらも目を覚ました彼女に、思わず大声で叫んでしまった。
良かった、無事だったのか……本当に良かった……
生きていた…。涙が出そうになったが、そんな暇もなく、
「シャル……逃げて……」
さっきまでの可愛らしい声とは程遠い、痛みに耐えているようなか細い声が聞こえた。
「ふざけんな! そんなことできる訳ないだろッ!」
俺は辛そうに立ち上がるリリアの背中に向かって叫ぶ。
「いいから早くッ!!!」
初めて聞いた彼女の怒号。それが自分に向けられたものだという事が信じられなかった。いつも優しく微笑んでいた彼女が、振り返り、涙を浮かべながら必死の形相で俺に逃げるように訴えかけてくる。
「やめてよ……そんな顔しないでよ……」
まだ子供には過酷すぎる現実に、俺の思考は今にも停止しそうだ。
「私はもう長くないの……だから、お願い……」
リリアの涙の奥にはシャルを守りたいという願いに近い闘志と覚悟が見えた。
「何を言って……」
そこまで言ったところで理解してしまった。
リリアの瞳が血のように真っ赤に染まる。それは彼女が魔族であることを示していた。
「残虐兵器は魔族を殺すために作られた兵器。おそらく私が殺されればシャルは助かるはず……でもこれ以上シャルが傷つくところ見てらんないよ」
リリアはよろめきながらも歩き出した。しかし次の瞬間、白い蜘蛛が放った糸がリリアを襲う。
「やめろぉおおおっ!!!」
俺は叫びながら、手を伸ばす。
リリアは俺の声に反応して一瞬だけ振り返ったが、すぐに正面へと向き直る。そして糸が迫ってくる中で小さく震える声で呟いた。
「ありがとう……シャル……。大好きだよ……」
おそらく最後に涙を流している自分の顔を見せたくなかったのだろう。その言葉とその行動に胸の奥がズキッとした。が、その直後、リリアは大量の糸によって完全に覆い隠されてしまった。
「ああああああっ!!!」
自分の無力さを呪いながら絶叫する。
こんな事になるなら、もっと優しくしておけばよかった。もっと一緒に遊んであげればよかった。
そんな後悔だけが心の中で渦巻いていく。
「クソォオオッ!!」
怒りに任せて近くに転がってある石を拾い投げたが、痛みで上手く投げらない。俺が放った石ころは力なく目の前に落ちて転がった。
と同時に白い蜘蛛は再び前足で勢いよく糸を擦り付け発火させた。その炎は凄まじい勢いで燃えがった。
「リリアァアアッ!!!」
叫ぶことしかできない。目の前で起きた現実を受け入れられない。
そんな自分が嫌になる。何もできずに見ているだけの自分に腹が立つ。
悔しさと悲しみが入り混じった感情が爆発しそうになった。
『―――ル』
「ん?」
『―――シャ……ル』
聞き馴染みのある声に呼ばれたれ俺は目を覚ます。
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