第7話 舞い戻った王宮
王宮に戻ると、裏口から侵入した。目的は、魔法の力によって眠ってしまった王女様を救出することだった。
王宮内に入ると王宮内は静まりかっていた。理由はすぐに分かった。王宮に侵入した族を捕らえるため、兵士が出払っていた。族というのは、ケントとユナである。二人は、王女暗殺の指名手配犯にされていた。
二人は、慎重な足取りで王宮内を歩いた。だが、そのうち、一人の兵士に見つかった。兵士は槍を構えた。
「犯人め、また王女様を狙いにきたのか!」
ケントは首をふった。「そうじゃない。助けに来たんだ」
「嘘を吐くな!」兵士は声を震わせながら叫んだ。
まずいと思った。ここで兵士と戦うことになったら勝ち目はないし、仲間を呼ばれても面倒なことになる。ケントは頭を回転させた。
「あれを使いましょう」ユナは言った。
ケントはすぐに察した。
「やるつもりか」
「ち、違う!」ケントは短刀を兵士に見せた。兵士は驚いた。
「そ、それは」兵士は驚いて一歩下がった。「なぜ、お前がそれを持っている」
ケントは事情を説明した。兵士は困惑しながらも、信じてくれた。
「つまり、お前たちは、本物の犯人ではないと。その短刀を持っているということは、パブロフ貴志団長様の持ち物であるからして、パブロフ様がお前たちを信用したという証にある。だがいちよう尋ねておくが、盗んだのではあるまいな?」
ケントは首をふった。「そんなにやわな人じゃないさ」
「確かにその通りだ」
兵士は槍を下げた。「お前たちを信じよう」
二人は、事なきを得た。
「で、お前たちはどうするつもりなのだ?」
ケントは言った。「これから、王女様が倒れられた場所を調査しに行きたい」
「それは無理だろう」兵士は首をふった。「今は兵が出払っているとはいえ、あの場所は人目も多く、多くの兵士が巡回しているだろう。お前たちは、あくまで王女暗殺犯なのだ。のこのこ出て行けば、叩き切られるぞ」
「短刀を見せたら?」
「信じてくれる者もいるだろう。だが、多くの者は、信じないだろう。それがいくらパブロフ様のものであっても、疑いが完全になくなるわけではないだろう」
ケントは尋ねた。「では、パブロフ様は?」
「お前たちを追って、城を出ている」
事情は分かった。今回の事柄は、パブロフなしで、自分たちの力だけで、遂行しなければならなかった。
二人は、兵士に案内され、見つからないよう目的地へ向かった。目的地まで来ると、魔法の鏡を使った。鏡は淡い光を放って、二度光った。そのあと、光が静かに消えていった。
「壊れたみたいだ?」ケントは驚いた。
「いえ、きっと犯人が見つかるまで、時間がかかるのかもしれません」
「それはまずいよ。ここにずっと、滞在する訳じゃないんだ」
「今は待つしかありません」
一人の兵士が現れた。その兵士は、大きく目を見開くと、突然大声を出した。「
あっという間に大勢の兵士が現れた。二人は、囲まれてしまった。
「まずいことになった」
「どうにか逃げ出さないと」ユナは言った。
ケントは、ユナの手を取って逃げ出した。だが、しばらくすると捕まってしまった。兵士に取り押さえられ、短刀と鏡は没収されてしまった。本来助けに来るべくパブロフと、事情を知っている兵士も助けることはできなかった。
二人は、王宮地下刑務所へ輸送された。
ケントとユナは、囚人服に着替えさせられると、地下数百メートルにある下にある牢獄にぶち込まれた。地下牢は暗く、底冷えし、不気味な場所だった。
「おい、新入りが来たぞ」男は言った。
ケントは警戒して男の顔を見た。髭ずらの男で、顔に切り傷があった。
「何見ているんだよ」
「いや、何でもない」ケントの腹が鳴った。
「お前は、腹減っているのか?」
監房に入っていた男たちが笑った。一人の男が歩いてきて、果物を差し出した。ケントは受け取ろうとして、男がさっと果実を引っ込めるのを見た。
「くれるんじゃないの?」
ふたたび監房内の男たちが笑った。
「くれる? くれるってなんだよ」
一人の男がやってくると、突き倒し、腹を蹴りつけた。監房内の男たちが笑った。
「もう、やめて」ユナはケントを守った。
男たちは笑った。
「なら、ルールを教えてやるよ」
ケントは痛みを堪えながら体を起こした。
「ここでのルールは弱肉強食だ。欲しいものは、力ずくで手に入れろ」
ケントは言った。「力の弱いものは、どうすれば?」
男たちは笑った。「そいう奴は、奪われ続ける。殴られ、蹴られ、奪われる。ここは、そいう場所だ! 外の世界のような平和のねぇ、場所だ!」
ケントは絶望した。たかが十二歳の少年にとっては最悪な場所だ。周りは、いくつも年の離れた大人たちしかいない。腕力も、体つきも大きかった。
「おい、そこのお前、生意気な目つきをしているな」
ユナのことだった。ユナは、男たちに立たされた。
「何するの?」
「これを飲め。二度と、俺たちに逆らわねぇように、しつけをしてやるよ」
ユナは首をふった。「やめて」
ケントは動けなかった。まだ、蹴られたわき腹が痛い……。ユナの前にスープが差し出された。ただ、お椀に入ったスープだと思った。だが、よく見ると、そのスープの中には、コマ切れにされた蜘蛛の
「いやよ」ユナは恐怖に体を震わせた。
ケントは立ち上がって、ユナを守ろうとした。だが、その瞬間、囲まれて、男たちに押し倒されてしまった。
「やめるんだ!」
男たちはにやにや笑った。
「さあ、飲め」リーダーらしき男が言った。
「無理よ、こんなの飲めない!」
「噛まなくたっていいんだ。スープのを喉に流し込めばいいんだ」
リーダーの男が指示を出すと、べつの男が現れ、その男は器をもって、スープをユナの口に押しつけようとした。
「分かった。俺が飲むよ!」ケントは立ち上がった。
周りの男たちが困惑気味にざわついた。
「本当なのか?」リーダーの男が言った。
「それでユナが助かるなら」ケントを器を持った。
「冗談だったら、ウソだったらただじゃおかねぇぞ」
ケントは器もをって蜘蛛の入ったスープを飲み干した。胃が気持ち悪くなる。心の中で、蜘蛛が
リーダーの男は言った。「まさか本当に飲むとはな」
ケントは涙目で答えた。「ぼくは弱い。でも、女の子が泣いているのを無視できるほど弱くないんだ!」
監房の男たちは盛大に笑った。
「お前は、男の中の男だ」
「お前の年であんなことやれる奴はそうそういねぇよ」
ケントはしばらく倒れていた。だが、そのうち起き上がってみると、先ほどの事件が嘘のように、和やかなムードが漂っていた。ケントは気づいた。監房にいる男たちは決して気の悪い奴らではなかった。あとから知ったことだが、蜘蛛入りのスープを飲むのは、珍しい事ではなかった。ここでは、食料が乏しいので、蜘蛛や、芋虫の入ったスープを飲むことがあった。つまり、新人の度胸試しと言ったところだ。蹴られた箇所は痛んだが、本当に怪我をするようには痛めつけられ方はしていなかった。
ここでの一日の暮らしは、寝る、起きる、食べる、寝るのくり返しだった。つまり、やることがない。牢獄内では、仕事も無ければ、娯楽もない。だから、ほとんどの住人は暇を持て余していた。
ケントは半日ほど、監獄内の生活を見て過ごした。だが、ほとんどやることがないので、みな寝ているか、たわいもないおしゃべりをして過ごすぐらいだった。たまに、レクリエーションと呼ばれる催し物が開催されるらしかった。
ケントは考えた末、脱出することにした。そこでまず、この独房内で、この監獄に一番に詳しいものを探すことにした。「誰か、教えてくほしい」
男は、ある男の名を口にした。「カズマだ」
ケントはカズマを探すことにした。だが、カズマは見つからなかった。監獄内には総勢百名ほどの人間が囚われていた。しかし、カズマは名乗る人間は見つからなかった。
「どういう事なんだろう?」
男は言った。「カズマは伝説だ。この監房内にいるらしい。だが、姿は現さない。例えば、何監房内で事件が起こったり、大変なことが起こったりしたときにだけ、姿を現悪男だ。以前に、ここ監獄で、大規模な反乱がおこったときにカズマは現れた」
ケントは詳しくその時の様子を聞いた。男は、自慢げに語った。内容は、以前、反乱がおこったときに、武器を持って、王国の兵士と囚人の戦闘がくり広げられた。多くの者が傷ついた。そこで現れたのがカズマだった。カズマは兵士を鎮めると、数人の人間を脱獄させたらしい。そして、ここの残った罪に問われるべき人間に対しても、罪も帳消しにさせたと語り継がれていた。
「なるほど」ケントは頷いた。「カズマは、伝説上の人物か」
「まあ、そいう訳だから、そう簡単には会えねぇよ。そもそも、カズマはあのとき囚人たちと一緒に、脱獄してしまったって言う噂だしよ」
「なるほど」ケントは頷いた。しかし、カズマが脱獄したとは思わなかった。理由は、脱獄を成功させた際、ここに残った人間も救われている。脱獄した人間が、ここに残った人たちを、守ることは厳しかったはずだ。ならば、カズマは、ここに残って、罪に問われるべき人間を救ったと考えるべきだった。
ユナが戻って来た。「怪しい人間が居ました」
ケントはユナに案内されて、ある男のもとへ向かった。その男は、ひっそりと奥の監獄でボードゲームを楽しんでいた。
「おはようございます」
「あら、やだ。可愛らしい、少年ボーイじゃない!」
その人物は、男ではなく、オカマだった。
「あの、お願いがあってきました」
「嫌よ。わたしは、ただで何かをしてがるのが一番嫌いなのよ。わたしに何かお願いしたいのなら、それ相応の報酬をちょうだいよ」
ケントはにやりと笑った。自分が
「私は知らないわよ」
ケントは、肩をすくめた。「証拠はないけど、ぼくにはあなたがカズマだって分かる」
「どうしてよ」オカマは言った。
ケントは事情を説明した。先ほど、ユナに頼んでカズマの情報を集まてもらった。カズマが脱獄を成功させるまでに何が起こったのか。詳細からすれば、カズマは不当に扱われていた囚人を救うために脱獄の手助けをしたと分かった。つまり、カズマは自分が脱獄するためにではなく、人を助けるための行動だと分かった。これは知っていたことだが、カズマは、事件後も残ることになった人間を救っている。つまり、カズマは思いやりのある優しい人間だと分かった。そして、それを知ったケントは、この監獄で一番思いやりがあり、優しい人間を探した。それは簡単だった。その人物は、監獄には一人しかないなかった。
「なかなか鋭いわね」
ケントは笑った。「ぼくは弱いから。僕にできるのは、考える事ぐらい。だから、僕は考えることで強くなる」
「いいわね。それで、仮に私がそのカズマだったとして、もう一つ聞いている事ない?」カズマは笑った。「そう。わたしは、ただじゃ動かない」
「何か、僕に出来ることはありますか?」
カズマは考えた。「何でもいいから、私に報酬をちょうだい」
「あなたの望んでいるものが分からない」
「そうね、だったら、それそのものが課題かもね」
ケントは考えた。カズマの欲しているものが分からない。ただ、何でも報酬になるのかと言えば、そうじゃない気がする。あくまで、カズマが欲しがるものを提供しなければならい。「決めました! ここから出してあげます」
カズマは驚いた。「何言っているの!?」
「だから、僕がここから出してあげます。ぼくは、王女暗殺の罪でここに投獄されました。でも、無実です。僕がその無実を証明できれば、逆に僕は英雄です。だから、その英雄の権限を使って、あなたを正当な手段で、ここから出してあげます」
「う~ん。それ、本当?」
「本当です」
しばらく二人は見つめ合った。
「いいわ。信じる! で、お願いって何?」
ケントは言った。「僕をここから脱獄させる手助けをして」
カズマは、歯噛みした。そして、足を踏み鳴らした。「あんた言っていること分かっている。簡単に脱獄できるなら、私が脱獄している。そもそも、私の報酬と、目的とが同じじゃない」
「お願い?」ケントは懇願した。
ユナも座り込んで、二人でお願いした。カズマはいたたまれなくなって、味踏みした。そして、心が折れた。
「やるわよ。でも、簡単じゃないわよ。飛び切り、デンジャラスで、頑張らなくちゃならないわよ」
「うん。頑張る」
「期限は?」
「今すぐ!」
カズマは、飛び上がった。「今すぐ!? 無理よ。早くても一月は準備しなくちゃならないわよ!」
「何とかして」
カズマは、頭を振ってブルブルした。「無理よ」
二人で、跪いて
「分かったわよ。やるわよ」
二人は、仏のような顔で笑った。
「じゃあ、今すぐやるわよ」
二人は、カズマに従って行動を起こし始めた。
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