第4話 おとずれた災難


 ケントはユナと別れて、舞踏会開催まで別行動をしていた。舞踏会が本格的に始まるまでには一時間あまりあった。今は、王宮ではパーティーが開催され、華やかなうたげが開かれていた。

「何をしているのですか?」王女は言った。

 ケントは王宮から見える風景を見ていた。街灯りがちらほらあり、街の中だというのに自然がそびえ立っていた。

「美しい場所ですね」

「ええ。ここは城塞都市とも呼ばれていますが、自然の美しいのどかな田舎町なんですよ」

 ケントは目を凝らした。「あそこにあるのは何ですか?」

「ああ、あれですか」王女は笑った。「市民や兵士たちが集まって、うたげを開いているんですよ。笑えるでしょう。街の中だというのに、大きな焚火たきびを燃やして、遠くからでも見えるなんて」

「凄いです。僕の知っている場所では、規則がうるさかったから」

 王女は興味を持った。「お住まいはどちら?」

 ケントは、はにかんだ。「ちょっと想像より遠くです」

「あら、外国の方だったの」

「まあ、そんなところです。ぼくは、この場所に着て、故郷に帰るすべを探しています」

「まあ」王城は驚いた。「何かあって、故郷に帰れなくなったの?」

「帰れなくなってしまいました。だから、帰る方法を探しているんです」

「そうだったの」

 女がやって来た。その女は美しい髪飾りを付け、王女と同じ年頃の少女だった。

「あら、イザベラ」王女は言った。

「あら、感傷にひたっていたの?」

「何が言いたいの」王女は肩をすくめた。

 ケントは二人をやり取りを見ていて、咄嗟に、あまり仲が良くない関係にあると思った。それは憎み合っているからという訳ではなく、年齢が近いこともあって、同年代によくある嫉妬や、ねたみだと悟った。

 イザベラは目ざとく、ケントに視線を向けた。「あら、この客人は?」

 王女は簡単に説明した。「異国から来た殿方よ」

「あらめずらしい。パーティーでたくさんの殿方にお会いすることはあるけれども、これだけ貧相な殿方は珍しいわ」

 王女は申し訳なさそうに視線をやった。「ごめんなさい」

「いいよ」

 王女はイザベラに向き直った。

「わたしのお客様よ、口を出さないで」

 イザベラは甲高く笑った。ケントはイザベラに向き直った。

「君感じ悪いよ」

「何よ、文句でもあるの?」

 黙っているつもりだったが、一言言った。「ぼくのことを馬鹿にするのは良いけど、王女様に対して無礼なのはやめて」

「どういう意味よ」イザベラはにらみつけた。

「今夜は彼女が主催したパーティーのはずだ。パーティーでは、客は振る舞いを大切にするものだ。あなたのふるまいは、とてもレディーとは思えない。彼女を侮辱したばかりか、客人までに無礼を働くとは、本物のレディーのふるまいとは思えない!」

 イザベラは顔を真っ赤にした。「あなたにレディーのふるまいの何が分かるのよ!」

 ケントは大きく息を吸って、夜景を眼を落とした。

 イザベラは振り向くと、大股で出て行った。立ち去った後で、王女が腹を抱えて大笑いした。

「あなた、見かけによらず言うのね」

 ケントは肩をすくめた。「自分でも驚いているよ。まさか、自分にもあんな勇気があったなんて」

 王女は見直したようだった。

 それから、しばらくして、舞踏会が始まった。舞踏会では、優雅なダンスが繰り広げられた。そこでは、参加者は全員踊る規則になっていたので、見よう見まねで、ユナとダンスを踊った。ダンスは、一時間にも及んで踊り続けなければならなかった。

 二人は、疲労困憊でダンスを終えた。参加していた者たちも解放され、ちりじりになって、酒を飲む者や、談笑する者が現れた。

 まだ音楽はなり続け、踊っている者たちもいた。ケントは、目的を忘れていなかった。ここでの目的は、王女の護衛であり、自分が元の世界に戻るための、手がかりをつかむことだった。成り行きと言え、ここに何かあると信じて、来ている。何かを手に入れなければ、行く場所がなくなってしまう。

 やがて、パーティーは終幕へと向かった。そこでは、王女みずから終幕の挨拶に身を乗り出し、集まってくれた者たちへのお礼参を回った。ケントは王女から目を離さず、近くにいた。たまたま、王女にグラスを手渡すことになった。そして、王女は、皆の見ているまえで倒れた。

 それは、白いドレスを着た王女が、赤いの飲み物を、白いドレスを染めるよう、花弁が散るかのように倒れた。

 瞬間、すべての視線が王女へと注がれた。

「その者を捕らえて!」

 イザベラが叫んだ。ケントは驚いた。「ど、どうして??」

 皆も一瞬理解できなかった。だが、すぐに理解した。王女が倒れた瞬間、飲み物を手渡し、それを飲んだ瞬間、王女は倒れたのだった。

 ケントは、ユナを連れて、すぐに走り出した。困惑していた。だが、この場に佇んでいては、犯罪者にした上げられ仕舞う。ケントは、王女の部屋に逃げ込んだ。王女は今医務室に運ばれていて、部屋にはいない。

「な、何が起こったの」ユナは言った。

 ケントは首をふった。「分からない。何か起こったのか自分でも理解できない」

「あなたは本当に毒を盛ったの?」

「絶対にそんなことしてないよ」

「そうよね」ユナは言った。「なぜあんたことにあったのかしら?」

 怒声とともに、警備兵が慌ただしく駆け回る。それと同時に、噂話が響いた。それによれば、王女は一命をとりとめている。ただ、目を覚まさないと、部屋の外から声が聞こえた。

「王女は生きている!」

 それだけがケントの救いだった。

「僕たちどうしよう」ケントは深い後悔にいた。

「このままずっとは隠れられないわよ」

 ケントは、決断をした。それは、この城で一人だけ信じてくれそうな人物がいる。その人物に助けを求める事だった。これは、一か八かの賭けだった。だが、勝算はあると踏んでいた。

 ケントはその者のもとへ向かった。

「貴様!」

 パブロフは腰にあった剣を抜いた。

「切る前に聞いてください!」

 必死の訴えだった。パブロフは、構えたまま立ち尽くした。ケントは無実であると訴え続けた

「証拠は?」

「ありません」

「ならば、弁明べんめいして見せろ」

 ケントは首をふった。「ぼくには何一つ証明する手立てがありません」

「ならば、その首落とすまで」

 ケントは必死に思いを言葉にした。「ぼくは、あなたと王女様に約束しました。護衛をすると。だから、目を離さずおそばに居させてもらいました」

「ならなぜこうなった?」

「それは、僕が、王女様にグラスを渡したから」

「本当に渡したのだな!?」パブロフは二度続けて質問した。

「そう、僕は王女様に、毒入りのグラスを手渡してしまいました」

 その瞬間、一瞬、部屋の空気が軽くなった気がした。

「本当なのだな?」パブロフは念入りに確認した。

「はい。僕の責任です。だけど」

「いや。もういい」パブロフは剣をさやに納めた。「おまえは犯人ではない。しいて言うなら、お前たち二人は容疑者候補からすでには外された。だが、他の者たちは、そうは思わんだろうな」

 パブロフは説明した。王女の倒れた理由の根本的原因が毒ではなく、呪術によるものだということだったからだ。

「つまり、毒を盛られたと思っていたお前たちは白だ。もし、犯人なら、わたしの前に現れるなどという愚かな真似もしないだろうな」

「じゃあ?」

 パブロフは言った。「さっきも言ったように、他の者たちは、そうは思わないだろうな。お前たちは、他の者から見えれば、毒殺した容疑者だ。王女が呪術によって、倒れたと知っている者は、私を含め、数人のウィザーだけだ」

 ケントはウィザードという言葉を口でなぞった。

「僕たちはどうすれば?」

「探し出すのだ」パブロフは言った。「お前たちを逃がしてやる。なんとしても逃げ出すのだ。そして、犯人を見つけるのだ。それが無実を証明することになり、しいては王女を救うことになる!」

 ケントは確信した。パブロフは、王女護衛の任を引き続き全うせいよと言っている。これは、自分の身を守るだけでなく、王国を揺るがす問題を解決して見せよという、意思の現われでもあった。だが、ケントはただのケントだった。十歳たらずの少年だった。「僕にそのようなことできません」

「ならば、このまま処刑されるか?」

「それは」

「それでは、王女もお前たちも救われん」

「ですが」ケントは言った。

 パブロフは、首をふった。「私は動くことが出来ない。相手も、わたしが動けばすぐに気づくだろう。だから、一番疑われ、気づかれないものたちが動く必要がある」

「僕がやるしかない」

「そう思っている」

 ケントは覚悟を決めた。「どうなるか分からないけど、やり遂げたい」

「わ、私も手伝います!」

 パブロフは言った。「二人がやるというのなら、わたしは命を賭けてお前たちをを守って見せよう!」

「本当ですか」

「当然だ。わたしは、王族直属の騎士団長なのだからな」パブロフは、懐から短刀を取り出した。「これは王家に伝わる、私のみが持つことを許された一振りだ。もし、困難が襲ったとき、これを使うがいい」

 ケントは戸惑った。「本当に僕たちを信じてくれるんですか?」

 パブロフは笑った。「曇りなきまなこの少年よ。そなたの瞳は、この無限に続く世界のようにんでおるぞ。そなたが、嘘を申すわけがない!」

 ケントとユナは力ず良く頷いた。

「ぼくたちは救旅に出ます」

「よく言った」パブロフは、王城からの脱出を命じた。

 二人は、秘密の抜け穴を通って、城下町へと逃亡した。

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