第6話

 俺は今、なにかを試されているのだろうか?

 黒田と桃井の記録を任された時、カロンから説明を受けたんだ。管理者は、対象者に対して助言したり、存在を示したり、メッセージ的なものを届けたり出来ないって。ただ見守って記録を取ることしか出来ないんだーって。

 それなのに、あいつらの所に行きたいか?

 単純に考えると、管理者を止めろって意味に聞こえる。

 なら、そのちょっと寂しそうな顔は?

 まとめると、辞めて欲しくはないけどやめたいというなら別にやめても良いよ。みたいな?だとしても、あいつらの所に行きたいのか?って意味が分からない。

 地球ではなく、あの2人が作る世界に転生したいか?って意味?

 それなら確実に行きたくはないし、行ったら駄目だろ。

 それに……俺もカロンにとっては管理対象者、この場所に留まることに上の許可が必要になる位なんだから、俺は俺でこの2人みたいに珍しい分類に入っているのだろう。そんな人物の記録を取らない訳はない。

 だとしたら、この質問もカロンが聞きたいことではなく、なにかの問題文だという可能性は大きい。

 例えば、管理者における常識的なことをしっかりと意識できているかのテスト……ここで自分の気持ちを優先して“行きたい”と答えた時点で管理者をクビになり、適当な所に強制転生される可能性がある。とかな。

 「俺はこいつらの溜息の数を数えなきゃならねぇからな、ここから動かないさ」

 ちゃんと伝わっただろうか?

 「溜息……フフッ、なら私も藍川さんの所に”溜息1回”と書いておきますね」

 おぉ、にこやかだ。

 どうやら、俺は俺でしっかりと管理されているようだな。だとしたら、黒田と桃井の管理もカロンがしているのだろう。

 俺がやっているのは所詮は管理者の真似事なんだろうな……そうでないならもっと細かくどんなことをするのかって指示がある筈だ。

 あいつらが灰色の世界を本当に作れるのかをこうやって見物されているのと同じで、俺も所詮は見世物の1つに過ぎない……。

 文句はないさ。

 満足するまでここで待機するんだって言ったのは俺なんだから、その待機法を見られていようが、記録に取られていようが構わない。

 まぁ、俺の満足度なんざあの羽有女をブチのめせればグーンとプラスになりそうな勢いではあるんだぞ?ハリ手の1回や2回……待て、俺を殺した張本人があの女なんだから関節技か、それともモンゴリアンチョップか飛び膝蹴りも良いな。

 とにかく、あの羽有女に1発お見舞いするには、どれだけの貢献度が必要になるんだろうか?

 ここで待機しているだけで貢献度が上がるとも思えないから、考えるだけ無駄か?けど、思いっきり満足度が上がるって説明をすればカロンのポイントを使ってどうにかできたり……しないわな。

 あの羽有女はカロンの上司っぽいから、殴るから連れて行け、なんて願った所で無駄だろうし、連れていかれたらそれはそれでカロンが心配だ。

 もう、ムカつく訳だし関わらない方が得なのか?

 けどなー俺の仇だしなぁ……。

 あぁ、そっか、会った所で返り討ちに合うだけだな、俺には戦いのセンスが微塵もないゴミであることを忘れてたよ。

 腹立たしいけど、そこばかりは変えようのない事実だ。

 直接的な反撃は諦めるにしても、なにか嫌がらせになるようなものがあればな……。

 カロンみたいな管理者が他にもいると仮定して、管理者が全員仕事をボイコットするよう仕向けるとか?

 それこそどうやるんだ?

 そもそもあの羽有女はカロンの上司なのか?

 「なぁカロン。もし1万ポイントの貢献度を持った奴が死んだとして、一旦ここに来るのか?」

 死んだその場でポイントに応じた転生か転移方法を選択する訳じゃなくて、俺のように一旦はこの場所に戻ってくるのかどうか。

 「はい。転生の希望を聞くまでが私の役目ですので」

 そんな役目もあったのか。

 なら、クラスメート達は強い者から弱い者まで必ず1度はここに来る。

 「じゃあさ、1万ポイントの貢献度を持ってる奴が千ポイントしか使わなかった時、残りの9千ポイントはどうなる?」

 無効ポイントとして流れるのなら勿体ないことこの上ないが、もしその余ったポイントがそのままカロンのボーナスになるのなら……。

 「私は担当している者達の満足度でしかポイントが付きませんので……」

 ってことは、無駄になる訳だ。

 「なら、召喚された者同士の間でポイントの受け渡しは可能?もちろん、余った分だけ」

 答え辛そうに俺から視線を外した歌論だが、その態度で分かったよ。

 出来るんだな。

 だったら俺にも貢献度ポイントを溜めるチャンスがあるって事だし、カロンも満足度からしかポイントが得られないってんだから遠慮もいらない。

 貢献度ポイントを稼いで、稼いで、稼ぎまくって俺は元の時間の地球に帰ってやる。

 そしていつか……いつか地球に帰るんだ。

 彼女とデートするために!

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