第28話 再びアザイドへ〈カンネ救出〔承・2〕
やはりおかしい──
これは、3人とも抱きつつある疑念──
跳んだ先は外牢だった。
そこから一カ所にだけある階段を下り、ハヤセが以前、内牢に入ってしまった扉まで来ていた。
この間、中年と若い男2人程の見張りが動いていたが、ルシアが2人を気絶させていた。これでは囚人を奪って下さいと言っているようなものであった。
ルシアはもちろん、ハヤセとキキノもこれには気付いていた。
「ルシアさん……おかしいよ。ここまで看守の警備が手薄なんて……」
「──分かってるわ……」
下唇を噛み締めながら答えた。
その姿にキキノは不安を口にしていた。
「もしかして、カンちゃんがいなんですか……? それとも、副長さんは私たちが
「──カンネはいると思う……だけど、キキノちゃんの言う通り、ロイゼンは予想をしていたのかもしれない……『
「でもこんな短時間でそこまで調べられるのかよ!? 俺たちがロイゼンから逃げてまだ数時間しか経ってないのに……」
「確かに、この短時間にそこまで調べるのは、いくら天牢の副長であるロイゼンでも無理だと思うわ。でもそれは、ロイゼンがただの副長なら……ね……」
「じゃあ、ロイゼンにはそこまで出来る何かがあるかも知れないのか?」
ルシアは静かに、頷きながらも今やるべき事をしようとカンネを救出する為に、内牢へとつながる廊下へと入った。
中は相変わらず綺麗なもので、白い床はよく磨かれていることがよく分かる。
ルシアは、中にも看守の気配がないことが分かり、3人は足を止めることなく進み、鉄扉の奥の階段を下った。
ここは以前、ハヤセが〈封印術式〉を目撃してしまった場所である。
その部屋は現在、明かりはなく無人であった。
3人はその部屋を横目に通り過ぎ、さらに奥へと進んだ。
すると、突き当たりに少し隙間の空いた、施錠もしていない鉄扉があった。それを見たキキノは胸に手を当て何かを考えていた。
その考え事はハヤセもルシアも感じ取っていた。
それはそうなのかも知れない、キキノは生まれてずっと囚われていたのだ。一度外界を知ってしまったその気持ちは、この薄暗く寂しい
ハヤセはキキノの肩に手を当て大丈夫かを確認すると、内牢へと足を踏み入れた。
その奥は何部屋かに分かれていたが、そのうちの一つから明かりが漏れていた。3人がその部屋へと入ると、寝台の上に寝かされているカンネの姿があった。
着ていたと思われる鎧は一部だけ残し破壊され、その下に着用していた衣服もボロボロの状態で放置されていた。それを見て、言葉を失ったキキノは口元を両手で覆い、目には涙を溜めていた。
ルシアは急いで駆け寄ると、本当にまだ生きているかを確認した。
辛うじて呼吸をしているが、意識はない。
血色が悪く、心臓の鼓動は弱い……いつ止まってもおかしくない状態であった。
状態を確認したルシアは、カンネの胸に手を当て【
カンネの体を光を放つ水球が包み込み、みるみるうちに外傷は癒、血色の悪かった顔は赤みを帯び意識を覚醒へと導いた。
「──う……うぅぅ」
カンネはゆっくりと目を開けた。
まだ焦点が合わないが、なぜか落ち着く顔を見たような気がした。
「……カンネ! 目を覚ました? 大丈夫?」
続け様に声を掛けられた。
だが、それは気持ちを落ち着かせ、視界をハッキリさせていた。
「ル、シア……?」
「うん。そうだよ……。よかった助かって……」
ルシアの目からは静かに雫が溢れていた。
カンネはその後方に目を向けた。
そこには、助けたかった少女が、口元に手を当て大粒の涙を流している姿があった。
さらにその横、少女を任せた少年の姿も見えた。
段々と意識が回復し、口を開いた。
「──なんでいるのよ……。せっかく逃したのに……」
その言葉は嫌味でも、怒りでもなく、純粋な心配であり、大切な者を想う気持ちであった。
ルシアはそれに答えるようにカンネに言った。
「カンネを見捨てるなんて判断を、この2人がしなかった……もちろん私も……」
カンネは息を詰まらせながらも言った。
「──もしあなた達に何かあったら私は……なんのために……」
カンネも涙を流しながら声を出していたが、ルシアはカンネを抱くように覆うと言った。
「私たちも同じ……
「──バカね……。そんなの私も同じじゃない……」
その会話に我慢できなくなったキキノはカンネに駆け寄りルシアと同じように覆っていた。
「よかったのよ……。カンちゃんが生きてて……」
そのキキノの姿を見るカンネは、愛しい娘を見るような眼差しで、ゆっくりとキキノの頭を撫ででいた。
「ごめんねキキノ……。心配かけちゃったね……」
この光景はハヤセの目に焼きついていた。
カンネはやはりキキノの事を心の底から救いたいと思っていた。
キキノも、ルシアも、カンネを救いたいと思っていた。
お互い思いやっていたという事が明確になった。
だが、今は悠長な事を考えていられる状況ではなかった。
「──ごめん、ルシアさん……。再会したばかりで悪いけど、早くここから出ないと……。ロイゼンが何を企んでるか分からないからさ……」
「んーん……。ハヤセの言う通りよ。再会の喜びは後回しにしないとね」
ルシアは頭を振りながら返していた。
これにキキノも続いた。
「──うん、そうだね。ここから出ないと……」
その会話の流れと、キキノを育てていた見慣れた部屋から、カンネは自分の置かれている状況を把握した。
そして、頭で状況を整理すると口を開いた。
「──ルシア、助けてもらった私が言うのも申し訳ないけど、これはロイゼンの罠だ。私の体の骨を折っていたとしても、ここまでの無干渉は明らかにおかしい……。ルシアももう気付いているだろうけど、アイツは私の出生についても調べているはずだ。きっと何かある。この天牢で仕掛けてこないのは、ここはヘルゲートというゲートだ。壊れるわけにはいかないんだよ」
カンネの言い方に、ルシアはやはりという感情があった。
何かあるとは思っていた。
やはりここは〈
「やっぱり〈ゲート〉に意味があるのね?」
「ああ。だが、今はここから出る事を考えよう……。詳しくはここを出られたら話すよ。私が調べたことを……。それに、ロイゼンのバックにはあの男がいる……早く出よう」
カンネの言葉は気になりつつも、ここから出る事を最優先とした。
体がほぼ全開したカンネは寝台から体を下ろし「行こう……」と言うと4人は来た道を戻り、外牢へと向かった。
向かう途中もやはり動きはなく、何事もなく展望台を見渡せる外牢まで来ていた。
相変わらず展望台は暗く、外に気配もないように思えた。
逆に、専用通路先の広場には数人の気配がしていた。
だが、これは罠である事が高くなっていた。
そうは思いつつも、ルシアの能力では跳べる場所は展望台だけである。このことが何を意味するかは4人とも分かっていた。ルシアは静かに口を開き言った。
「──ハヤセ、キキノちゃん……。恐らく転移先に敵がいるはずよ……。来る前も言ったように、私とカンネに何があろうと逃げなさい」
ルシアの言葉にカンネも頷き同意した。
その言葉は重かった──
何があってもルシアとカンネを置いて行かなければならない……。
だがこれは、ここに来るために交わした約束であった。2人は覚悟を決めて頷くと、それを確認したルシアは〈
目の前の景色は展望台へと移動し、4人の前には予想通り数十人の人影があった。
その先頭には、ニヤけ面のダークエルフの男──ロイゼンが立っていた。
「ふふふ……。どうだい? 感動の再会は果たしたのかな? オレは実に優しいだろ? 死ぬ前に合わせてやったのだからな」
ルシアは目つきを鋭くし、カンネは2人を隠すように立ち、返した。
「──途中まで、まんまと罠にハマったわ……。まさかあなたが私の事も調べてるなんて……」
ロイゼンはさらにニヤけ、不気味な笑みを浮かべ言った。
「驚いたぞ。まさかエルフが一緒に生活しているとはねェ。それに、貴様らは昔、ガルダ様達が殺した4人組と一緒に動いていた奴らだったとはねェ……」
「──そこまで調べていたとは私も驚きだロイゼン……。だが、この子たちは渡さない……。私たち2人の命に変えても守るぞ」
この返事にロイゼンは後ろに視線を向けながら言った。
「そう言っていいますがどうなさいますか? ガルダ様?」
ロイゼンの言葉に寒気が走った。
その名前は調べてあった。
自分たちを大切にしてくれていた4人を殺した者達の一人……。
その中でも、ルアノさんを殺した張本人……。
それはロイゼンの後ろからゆったりと歩き、白髭を蓄えた大柄な老人が現れた。
その姿を確認したカンネは、怒りを抑えながらも、その言葉には強い感情が含まれてた。
「──ルシア……アイツだ! アイツがルアノさんを殺した張本人だ!!」
カンネの怒りを耳にした老人──ガルダ・リフロアルは髭を撫でながら言った。
「ロイゼンよ……こやつらはワシが殺してもいいのかのォォ?」
そう言うと、地面から大きな斧を創り出し、戦闘態勢へと移行していた。
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