第92話 新人魔女と使い魔の特訓(4)

 そして、魔犬の動きを注視した。


 リッカはその様子を固唾を呑んで見守る。フェンが見つめる先で、魔犬は巨体を小さくし始めた。どんどんと小さくなり、やがて元の子犬ほどの体に戻った。すかさずフェンが魔犬との距離を詰めようとするのを、リッカが鋭く止める。


「ダメよ、フェン。その子から出来るだけ距離を取って」


 リッカの指示にフェンは素直に従い、魔犬から距離を取る。フェンが離れたのを確認すると、リッカは素早く頭を働かせた。


 どうやらこの魔犬は、相手との距離を詰めてパワーファイトに持ち込む近距離戦闘を得意とするようだ。もしそうならば、近づくのは得策ではない。フェンは、魔犬の素早さについていけるほどの瞬発力があるわけではない。


(では、どうする? )


 リッカが思考を巡らせていると、再び魔犬が俊敏な動きで、フェンとの距離を詰めた。フェンは危ういところで魔犬をかわし逃げるが、すぐに追いつかれてしまう。


 魔犬はフェンとの距離を確実に詰め、再びじゃれつくように爪で弄び始めた。フェンは翻弄されるがままにされている。そのうちにまた魔犬の体が膨れ上がる。


 このままでは埒が明かない。


 しかし、焦った頭では良いアイディアなど思いつくはずもない。そうこうしている間にも、魔犬は大きくなった体でフェンに纏わりつく。最早じゃれつくレベルではない。大きな前足で器用に抑え込まれてしまったフェンは完全に身動きが取れなくなってしまう。


 それでも何とか逃げようとフェンは必死に足掻くが、どうにもならない。


 このままでは危ないとリッカが思った時、フェンの首元が光った。リッカは、思わず目を細める。フェンの首元で光り輝く赤い石。


 これはもしかしてーー


 リッカはハッとしたように目を見開いた。そして、フェンに向かって叫ぶ。


「フェン! 火の玉!」


 リッカの声に反応して、フェンが大きく口を開いた。


 その刹那、フェンが放った火の玉は、凄まじい勢いで魔犬に直撃した。魔犬が雄叫びを上げながらフェンから離れる。少し離れたところで、魔犬は痛みからか激しく悶えている。そうしている間に、その巨体がみるみる萎んでいく。やはり、巨体の維持はそう長くはもたないらしい。


 魔犬が完全に元の大きさに戻ったのを確認すると、リッカは急いでフェンの首元へ視線をやる。首元で光る石の数が増えていた。赤色に加えて、青色と緑色の石がフェンの首元で輝いている。


 今なら、水と風の魔法を使うことができるかもしれない。

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