第70話 新人魔女に届いた蜂蜜色の丸薬(6)

 もし、自分の中の魔力が全て変わったのだとしたら、自分の魔力と繋がっているフェンはこうして腕の中にはいないはずだ。


 リッカは考える。それからハッと思いついた。リッカは、慌ててリゼからの手紙を手に取った。


(そっか!)


 手紙の内容を見て、リッカは理解した。先ほどは頭が重たくて読み流してしまっていたが、リゼの手紙にはリッカの不調の原因がしっかりと記されていた。


(あの魔力回復薬が原因だったんだ)


 リッカは、これまで魔力回復薬は自身で精製したもの以外服用したことがなかった。薬の精製時には魔力を練り込むが、それは自分の魔力。服用しても、魔力が乱れるはずもない。


 しかし、今回、リッカが服用した薬は市販のもので、他人の魔力で精製されている。他人の魔力で、自身の魔力を補おうとすれば、魔力が乱れるのは当然のことだろう。


 それでも、自分の魔力に似た性質のものであれば、そこまで酷い状態にはならないのかもしれない。


 だが、今回はそうではなかった。おそらく、薬に含まれている魔力が自分の魔力と合わなかったのだ。それが原因で魔力が乱れ、体にも悪影響が出ていたのだろう。


 リッカは自分の魔力の性質を思い出し、思わず笑ってしまった。フェン曰く、リッカの魔力は、クッキーのように甘い味がするそうだ。そんな魔力を持っている者が他にいるだろうか。


 この世界では、誰もが多かれ少なかれ、魔力を持って生まれてくる。だが、魔力の質は人それぞれだ。全く同じ魔力を有している者はいない。


 ただ、同じ属性魔力を持った者はいる。例えば、火属性を持つ者、水属性を持つ者といった具合だ。属性魔力が同じなら、魔力は幾分かは似通ってくる。だが、やはり個々によって差はある。


 魔力が似たもの同士ならば相性が良いと言われているが、必ずしも良い結果を生むとは限らない。魔力値がそれほど高くなく、他人の魔力を感じ取ることが出来ない者にとっては、気にすることのない問題だが、魔法使いや魔女などの魔力値が比較的高く、他人の魔力を感じ取れる者にとっては、気をつけなくてはならない点である。


 魔力は、魔力値の差によっては反発する場合もあるし、上手く混ざり合わない場合もあるからだ。魔力値が高く、さらには魔力量の多いリッカにとって、薬に含まれていた魔力は、あまり質の良くないものだったに違いない。


 薬に含まれていた魔力が自分の魔力と合っていなかったことを確信したリッカは、大きなため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る