第63話 新人魔女と怪しい店(7)

 男の提示した金額にリッカは内心驚く。魔力回復薬は、高価な品だ。しかし、金貨五枚もする薬だっただろうか。少し考えて、リッカはすぐに思い至る。この薬が相場よりも高額な理由は、ネージュ・マグノリア精製というブランドがついているからだろうと。


 リッカは迷った。今ここでお金を払わなければ、リゼの作った薬など、いつ買えるかわからない。


 意を決して、財布の中から金貨を三枚取り出す。


「これを一つ頂きます」


 男はリッカの手から金貨を三枚受け取ると、ニヤリと笑う。そして、リッカに向かって言った。


「ありがとうございます。お大事に」


 リッカは小瓶を大事そうに鞄にしまうと、男に向かって頭を下げた。店の外に出ると、フェンがようやく警戒心を解く。鞄の臭いをしきりに嗅ごうとするフェンをやんわりと制しながら、リッカはホッと安堵の溜息をついた。


(これでなんとかなりそうね……)


 早く家に帰ろうと思いながら歩いていると、不意に声をかけられた。


「おーい。嬢ちゃん。こんなところで何してんだ?」


 振り返ると、そこには就労斡旋所『プレースメントセンター』の所長、ジャックスがいた。ジャックスは、片手を上げてリッカに近づくと、リッカの顔を見て眉根を寄せた。


「おい、嬢ちゃん。随分と顔色が悪ぃじゃねぇか。体調でも悪いのか?」


 心配そうな表情を浮かべるジャックスに、リッカは首を横に振る。


「大丈夫です。魔力枯渇を起こして少し疲れてしまっただけですから……」

「魔力枯渇か……。確か、ミーナの店に魔力回復薬があったはずだ。ちょっと待ってろや。持ってきてやる」


 言うや否や、ジャックスは駆け出そうとする。リッカは慌ててジャックスの袖を引っ張り引き止めた。


「あの、本当に大丈夫です! 今、そこの店でリゼさんの薬を買いましたから」


 リッカの言葉に、ジャックスは足をピタリと止める。


「リゼの薬だと!?」


 鬼気迫る勢いで迫ってくるジャックスに、リッカは思わず後退りする。あまりの迫力に気圧されつつも、リッカは答えを返そうとした。


「はい……、えっと……そこの店で……買いまし……あ……れ……」


 リッカはふらりとよろけた。そのまま、地面に膝をついてしまう。


「おい、嬢ちゃん、どうした?」


 慌てた様子でリッカを支えるジャックス。


 視界が霞む。頭がぼうっとして働かない。自分の意志とは関係なく、どんどん瞼が落ちていく。意識が遠のく感覚に抗うことができず、リッカはその場に倒れ込んでしまった。

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