第42話 新人魔女と師匠の静かなる時間(2)
少し気になったが、しかし父のことだ。朝までに帰ると約束しているなら大丈夫だろうと、自身を納得させリッカも自室へと引き返した。
そして、自室の扉を開けたちょうどその時―――。
突然、室内の家具という家具がカタカタと音を立て始めた。リッカは、驚き咄嵯に身構える。
直後、開け放したままだった窓から、光の文字のようなものがいくつも飛び込んできた。文字は光の帯となって部屋の中を縦横無尽に飛び回る。そして、その文字の群れはやがて綺麗に整列したかと思うと、空中に紋様を形作った。
(これは……?! )
宙に浮かんだ文字列を見て、リッカは思わず息を飲む。
(間違いない。これは魔法術式の一種だ)
緻密な構成を見る限り、かなり高位の魔法術式で組まれたものであることは明白だった。
(こんなものを描けるのは、恐らく……)
驚きつつも、こんなことができる人物の顔をリッカが思い浮かべていると、空中に描かれていた魔法術式が強い輝きを放ち始める。次の瞬間、そこから白猫のぬいぐるみが現れた。
リッカの部屋に現れた白猫は、ふわりと床に降り立った。その動きを呆然と見つめていたリッカだったが、ハッと我に返ると慌てて声を上げた。
「グリムさん! どうしたんですか?!」
すると、翡翠色の瞳をきらりと光らせて白猫が口を開いた。
〈夜遅くすまない。今すぐ工房に来てくれ〉
その言葉を聞いた瞬間、リッカは自分の体に緊張が走るのを感じた。いつものグリムとは異なる声音に、リッカの全身が強張る。
〈君に頼みたいことがあるのだ〉
いつもと違う様子のグリムに戸惑いながらもリッカは答える。
「それは構いませんが、一体どうされたのですか?」
〈詳しい話はあとでする。とにかく今は時間が惜しい。急いで工房に来てくれ〉
「わ、わかりました」
有無を言わさぬ口調で告げられ、リッカは戸惑う。だが、いつもと様子が異なるとはいえ、相手はグリムであることに変わりはない。リッカは、とりあえず言われた通りに従うことにした。
「すぐに着替えますので、少々お待ちください」
リッカが返事をすると、それを合図にしたかのように、空中に描いた魔法術式は跡形もなく消えた。それと同時に、部屋の中に満ちていた魔法の気配も霧散した。
リッカはすぐにクローゼットへと向かう。
「一体何があったのでしょうか……」
小さく呟きながら、リッカは手早く支度にかかる。数分後、身なりを整えたリッカは、まだ自室に留まっていた白猫に声をかけた。
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