全作品共通の類別表/不束作品の創作スタイル(三位十塔+十三位不文律+睡眠三々箇)

さんたん

三位十塔+十三位不文律

三位十塔

 不束三探の三位十塔


 三位十塔は可読の三(神曲文体・間四件・後の先の後)、理解の三(連用序文・勿論破文・示唆急文)、分類の三(リーダビリティレトリック・類別本格の読者への挑戦・三答制)、広報の一(オリジナルミックス)の十項目となっている。


(1)神曲文体

 神曲文体は三行縛り、三段改行、行余り行足らずによって、構成されている。ダンテの『神曲』と日本伝統の『俳句』から発想している。神曲は文学史のなかでも、五本の指にはいるほど、著名な文学作品である。神曲のおおきな特徴として、三行韻詩がある。三行が一連となり、韻を踏む形式である。

 ダンテは「三位一体」を文学的表現として昇華するために、聖数の『三』と完全数の『十』を神曲の根幹とした。『一』、『三』、『九』、『十』、『百』の数字を作中に巡らせることで「三位一体」を体現しようとしたのだ。

 わたしの作品は、この三行韻詩の影響を受けている。簡単にいえば、三行ごとに空行がはいっている。この三行縛りはロジカルミステリーの弱点、リーダビリティをあげる狙いをもっている。

 文章の連なりを短くすることは、読みやすさを高めるための基本である。もちろん、叙事詩とミステリーとはまったくことなるものだ。同じ調子に書くことができない。ゆえに、三行韻詩の法則を参考に、自分の文体にとりいれることにした。

 それが(1)神曲文体である。

 初稿の時点では、三行韻詩にちかい書き方をしていたが、現在はある程度の修正を行っている。最大九行、最小三行の行数だと、空行の割合が過剰になるからだ。それらの調整に、以下の行余りと行足らずを使用した。

(イ)三行縛り……長文を避けるための文章作法。ロジカルミステリーは、情報量過多ゆえの読みにくさがある。だからこその魅力はあるが、作者としては、リーダビリティをあげるために、一定の解決手段が必要だと考えた。

 そのひとつが三行縛りである。文字通り、ひとつの文章に三行以上の文脈を与えない手法である。神曲を手本としている。

 三行縛りと後述の三段改行には、読みやすさの向上を期待している。

(ロ)三段改行……前述の三行縛りとはことなり、こちらは段落への制限である。三つの段落がつづいたあとに、改行をいれる文章作法である。不束三探の作品では、基本的に三行縛りと三段改行が使用されることになる。これにより連続する最大の文章は九行となる。

(ハ)行余り行足らず……空行の割合を適切にするための手法である。俳句から発想している。三行縛りに対して四行にする行為、三段改行の直後にあたらしい行(一行の短文)を加えて、空行のかわりにする行為のことである。

 このあたらしい行は、一行が好ましいが、絶対ではない。

 例外として、引用文、評論文、説明文、独白形式に対しては、三行縛りや三段改行を破っている。こちらは自由律と呼んでいる。ミステリー評論本の大尖塔に、長文がはいっている箇所もあるが、この自由律が適用されている。

 行余りや行足らずを採用する条件は、多岐にわたっているが、読者に対する説明とすれば、ひとつの文章が五行以上にはならないということだ。五行以上の文章がつづいている場合は、三段改行のあとに、短めの文章をいれるという縛りが施されている。

 もちろん、あくまでも、執筆時の基本文章の話である。


(2)連用序文……各章の冒頭から数ページにいたるまで、文章の書き方に一定の制限を施す手法である。おもに「だ」「だった」などの連続使用が意図的に組みこまれる。ロジカルミステリーに付き物である、焦点の消失を防ぐためだ。

 連用序文は修辞技法の同音反復と同じ意味である。同じリズムをかならず各章の冒頭にいれることで、読者が暗闇につつまれたとき、あたらしく光を灯せるようにした。リスタートの位置付けである。連用序文は後段で説明する「後の先」と併用されることも多い。『疑問』『仮説』『否定』『新事実』のなかのひとつが提示される。

 どちらも読者に作品のつづきを読んでもらうためのものである。各章の冒頭に「連用序文」と「後の先」を配置することは、完読への短期目標となっている。連用序文には、地の文と会話文のパターンがあり、後者の会話文では、末尾を同音にしていない。会話文そのものが、リーダビリティの高い場面だからだ。


(3)勿論破文……もちろんの使用後に、助手役の推理が披露される。ミスリードの可能性を、あえて、読者に教える手法である。勿論破文は、後の先の後、中幕プロットとならび、否定のサスペンスを担っている。

 不束三探名義の作品はロジカルミステリーである。終盤だけではなく、序盤、中盤にもトリック、リトリック、ロジックが登場する。

 そのなかには、否定されるためのトリック、前提にするためのトリックが頻出する。推理小説における助手役の推理は、読者のブラックアウトを招きやすい。これは甲乙つけがたいことだ。長所でもあり、短所でもある。わたしは、次善策として、助手役の推理の直前に、「もちろん」というフレーズをいれた。

 助手役が雄弁に語りはじめる場面は、ロジカルミステリーが好きな者にとっては様式美であり、ご褒美である。しかし、そうでない者にとっては詭弁に感じられる。この問題に一定の解決をとりたかった。

 それが勿論破文だ。不束三探の作品は、助手役の推理をある程度、読み飛ばしても、ホワイトアウトにならないような構成をとっている。

 しかし、希望としてはミスリードの箇所もすべて読みとおして欲しい。無意味な流れにはしないように、勿論破文のあいだに準伏線と主体伏線を積極的にいれている。否定のサスペンスを楽しんでもらいたいからだ。勿論破文は、勿怪と論過の是非を意味し、それを破ろうとする試行錯誤を示している。

 

(4)示唆急文……解決にいたるまでの進捗状態を読者に伝える箇所のことだ。一般的に創作作品は、最初と最後で、なにかしらの変化を描くのが是であり、良とされている。ただ、不束三探のロジカルミステリーは、ときに仮説→否定→新事実→仮説→否定→新事実とループする。

 これは後述の「後の先」「先の後」にも起因している。ロジカルミステリーには付き物の状態とも言える。しかし、あまりにも、作中でロジカルのループがつづいていると、殺人事件が解決に向かっているのか、読者が不安になるかもしれない。

 その対策として、作品の冒頭から終幕にかけて、登場人物にお決まりの台詞、同じ行動をとらせることにした。

 この行為をかさねることで、手掛かりが順調に集まっていることを知らせている。「花鳥風月」「画点睛」では、三十回前後、左目を開閉している。「最愛」では二十回の記述が行われている。どちらも示唆急文だ。シリーズによって、仕草や回数はことなっているが、どれでも、怒気者は一定の到達数を知ることができる。

 解決へのタイムリミットサスペンスとも言える。

 

(5)後の先、先の後……後の先の後という呼び方もする。これからさきの展開に興味をもってもらうために不束三探がとりいれている手法である。各章の冒頭と末尾に、特筆的な展開を加えるというものだ。ロジカルミステリーは、伏線と推理の割合が多く、サスペンス性や幻想性を全体に占めることがむずかしい。

 しかし、この二大要素はミステリーをおもしろくするために、不可欠な要素である。よって、作品内の前後、ワンポイントで、その要素を提示するように心がけた。(タイトル)後の先に『疑問』『仮説』『否定』『新事実』のひとつをいれる。

 同じように各章の末尾、先の後にも『疑問』『仮説』『否定』『新事実』を配置する。さらに(前章)後の先……と最終章までつづける。

 この四つの概念は、リーダビリティを高める効果があるとされているものである。いわゆる、「つかみ」と「引き」である。後の先は間四件の前半、六ページ以内が好ましいものの、展開によっては、提示がおくれる場合もある。

 

(6)間四件……後述のリーダビリティレトリックと連動する要素である。各章の文中に『状況文』『移動文』『目的文』『観察文』を(重複を含めて)四回、使用することだ。この間四件に挟まれた文章のなかに重要な手掛かりを配置し、読者が納得・解決できるような旗(フラグ)を立てている。

 現在がどういう場面かを読者に知らせるための手法とも言える。読者の焦点が消失したまま、ロジカルの説明がつづいた場合、読者を置いてけぼりにしてしまう恐れがある。こういった情報過多による焦点消失を『ブラックアウト』と呼んでいる。

 不束三探は、この暗闇状態を防ぎたいと考えた。常に物語の現在位置を知らせつづける灯台が必要だと判断した。それが間四件である。ブラックアウトへの対処法は、「連用序文」と「後の先の後」と「間四件」が主的である。

 

(7)リーダビリティレトリック/不束式レトリック……文学の最大要素であるレトリックから、リーダビリティの高い修辞技法のみを使用する手法である。

 大尖塔にくわしく説明しているので、省略するが、修辞技法のなかの『列挙法』『列叙法』『反復法』『漸層法』『反漸層法』『直喩』『隠喩』を使用している。

 多種多様な修辞技法から一部を選別している。

 修辞技法のすべてではないうえに、一定の法則を付加しているので、不束式レトリックという併記をいれた。このレトリックは、一般的に知られているものだけではなく、不束三探の考案したオリジナルレトリックを含んでいる。

 ミステリーの伏線回収の概念をとりいれた新レトリックである。複数反復、複数直喩、複数隠喩は、不束三探の独自性が高い。章内および章外の離れたページに、同形、類似フレーズを再使用し、その複数回のステップのなかで、描写を「変化」させるというものだ。不束なりに、脈絡を有した「最初と最後」となっている。

 伏線回収を拡大解釈した修辞技法だと言える。

 これらリーダビリティレトリックは、ロジカルミステリーのなかに、高次元の文学性を保有させんがため編み出したものである。不束三探の文学性の定義は、アリストテレスを基準としている。ほかの修辞技法も、彼の著作から引いている。

 アリストテレスは「最初と最後」と「脈略をもった変化」を重要視していた。類別表には、ふたつが確認できるように下線を引いている。

 類別表の内、第十六から第二十が、レトリックの分類である。 は先頭(最初)と末尾(最後)、前向きへと変化する箇所である。 は直喩や隠喩などのレトリック部分、脈絡となっている。レトリックが単一ではなく、別種かつ複数の場合、 や を使っている。矮小ながら、修辞技法への作家努力である。


(8)類別本格の読者への挑戦(幕間)……殺人事件の解決にいたる伏線を提示し終わったことを示す箇所である。「類別」はトリック、動機、伏線回収などの分類。「本格」は推理。「幕間」は作者もしくは登場人物による中座になっている。

「読者への挑戦」はクイーンタイプミステリーを掲げるための主題要素のひとつだが、現代のミステリーとしては、隔世の感があったので、後述の三答制をとりいれて、作者なりに再構成した。

 これらには、比喩の役割も担っている。不束三探のミステリー作品群は、すべて、人生における前向きな比喩をあらわしている。作家性と言い換えてもいい。

 みずからのミステリー作品に、ポジティブメタファーというラベルを貼っているのも、その比喩を強調するためだ。

 作中の殺人事件、冒頭のおおきな謎は、貴方自身への否定になる。助手役の勿論破文のように、何度もトライアンドエラーをくりかえすのは人生の常である。生きることは、度重なる推理のように、否定と挫折、失敗と絶望が襲ってくる。そして、ロジカルミステリーにおける読みにくさもまた、生命の歩みによく似ている。その経緯のなか、終盤には、貴方の試行錯誤が報われる。

 探偵役が覚醒する。読者への挑戦がはいる。最後にはかならず解決され、祝福がおとずれる。ミステリーは、殺人事件のイメージから暗い印象が抱かれやすい。しかし、じっさいは、マイナス面からはいり、最後にはプラスへとかたむける、非常に前向きなプロットである。

 不束三探は、この図式を強調するトータルデザインをとった。暗い時代と言われるなかで、あかるい比喩を意識した。拙いものの、これが不束三探の作家性である。

 この「ポジティブメタファーミステリー」は、不束三探のほかの作品群、「ネガティブオルタスリープロール」と対を成している。前者は前向きを示唆すること、後者は後ろ向きを忘れることを目指した。現実的な一歩一歩には、「セントラルスケジュール」が担っている。

 三つの作品群を合わせて、三位一体である。


(9)三答制……犯人への指摘をそれぞれ三つの手順から導く手法である。その明示化である。三つの答えにしているのは、読み飛ばしや流し読みのなかで、ひとつの伏線回収でも目にとまるようにするためである。読者の納得を確実にえるためである。往々にして、ロジカルミステリーは論理への納得に、問題が出ることが多い。

 読者の捉え方が多種多様になるからだ。

 伏線の見逃しもとうぜん、生じる。ゆえに、ひとつの答えだけでは、困難だと判断した。作者なりに考えた高い質の論理ではなく、すべての作品に一定の量の論理を成すことで、納得への解決を試みた。それが三答制である。

 また、読者により楽しんでもらうために、冒頭に伏せ字の三答制をいれた。作品の最後に、三答制(開示)と正答制(ほかに考えられる答え)をいれている。

 クリスティ、クイーン、カーの時代では『犯人はだれか』『トリックはどうだったか』『伏線の場所はどこだったか』など、熱心に討論されたと言われている。

 いまはSNS最盛の時代である、読者への挑戦で手をとめ、読その推理や感想を投稿し、そのあとにじっさいに答えが合っていたかどうか、ふたたび、読み進め、SNSに答え合わせや感想を投稿してもらえるような媒体を目指している。

 しかし、この希望的観測を叶えるには、不束三探の技量が圧倒的に足りないという問題を抱えている。


(10)オリジナルミックス……自作品のなかで、自分の他作品へと誘導する手法。自作品の共時性を目指したものである。ミステリーは一作完結なので、ファンタジーのように謎や設定、世界観を次作品にもちこすことがむずかしい。だが、各作品に使用した構成要素はべつである。

 べつの作品でも使われているはずのトリックやプロットの類別表を提示することによって、共時性を与えられるのではないかと考えた。ほかの自作品に興味をもってもらうための導火線である。クイーンタイプミステリーはロジックが多く、映像化のようなメディアミックス展開はむずかしい。

 メディアミックスしないということは、広告と宣伝が少ないということだ。

 そうなると、このジャンルが推されることもむずかしくなる。この書き方の絶対数が少ないことの要因とも考えられる。自作品への導火線という欠点を克服しなければ、電子書籍の時代、ロジカルミステリーが市場に出回ることは一層、困難になると思われる。不束三探は推理小説のファンとして、あたらしい道を模索することにした。

 こうして、情報過多の書き方を逆手にとる形式を選んだのである。

 自作品の構成要素を抜き出し、作外に織りこんだ。両横への宣伝、「オリジナルミックス」である。後段の類別表や手掛かり索引+、三位十塔なども、オリジナルミックスのひとつである。

 ほかの作品では、どう使われているか。その興味をふくらませるためだ。

 ただし、現時点で、成功の見込みは、まったくない。

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